説明不足+過大解釈=皆混乱
目が覚めると、ベッドに横になってた。
あぁ、倒れたんだっけ。
何だか人知の及ばない、恐ろしい圧力に圧されて
抵抗するのもバカらしい程の力に、そのまま意識を手放してしまったんだっけ。
身動ぎして隣を見ると、緩くウェーブのかかった金の髪・・・
アデルハイド様が手を握って寝てた。
ふぁっ!?
やべ、変な声でた。
『・・・寝てる?』
椅子に腰掛け、恐ろしい程に綺麗な寝顔を晒して寝てるアデルハイド様が居た。
何でここに居るんだ?!
握った手は外れないし、困った。
てか、綺麗だよなぁ、羨ましい程だ。
髪とかサラッサラじゃねーか。
まつげ、長いよね~
マジマジと眺めてると、この人外の様な綺麗な領主様も現実何だと
『・・・私、帰れないんだって。』
知り得た事実を口から漏らせば
気付けば涙が止まらない。
「く・・・ぅ・・・」
抑えても止まらない
部屋に嗚咽がもれる。
私は、どこかで甘えていた。
自分の知らない世界。
時代考察もままならない世界。
人外の様な綺麗な領主様に、物語でしか知らない女神様がいる世界。
夢のような感覚で、いつか覚めると甘えていた。
けど、加護を受けたときの、あの恐ろしい程の力に屈した時に
私が知らないだけで、現実として起きてる。
今も、アデルハイド様が握っている手の暖かさが、現実だと語りかけている。
『・・・帰りたい。』
「・・・リーナ」
いつの間に起きたのか、アデルハイド様が、頬に伝った私の涙を拭った。
『私、違う神様の箱庭から、迷い込んだんですって。
・・・もう、帰れないんですって。
加護なんか貰っても、・・・もう、帰れない!
どこにも私の知ってる場所何て、どこにも無くて・・・私、一人、この世界で一人で』
「リーナ、大丈夫だ。私が居る。」
一人で泣くな。
そっと私を抱きよせて、大丈夫、大丈夫と囁き続けてくれるアデルハイド様の優しさに甘えた。
盛大に八つ当たりをさせてもらった。
***
夜が白み始めて
泣いて冷静になってきたところで違う問題に直面した。
(・・・・この、こっぱずかしい状況、どーしよー・・・)
イケメンの腕の中に居るよ!
鼻水は垂らしたが、鼻血は噴いてないよ!
「・・・リーナ」
「・・・何でしょう?領主様」
「その、何だ・・・」
うん、言いたいことは分かる。
領主様も持て余すこの状況!
顔から火が出るほどの恥ずかしいこの状況!
「・・・スヴァリアには内緒にしておくから、心配するな」
ん?帰れない事?
別の神様の箱庭から迷い込んだ事?
「やっぱり、バレると不味いのでしょうか?」
「は?」
「やっぱり、気味悪いですか?領主様も、私の事、嫌ですか?」
「そんなことはない!」
耳のそばで叫ぶな!
「その、リーナは、スヴァリアにバレても構わないのか?」
「気味悪がられて避けられたりしないのなら、特に内緒にする事も無いかな、と。」
「・・・そ、そうか。話しても構わないとリーナが言うなら、私も正直に伝えたい。
では、その、もう少しこのままで、・・・朝まで、このまま朝まで、傍に居てもいいか?」
・・・恥ずかしいけど、一人にしないでくれる。
一人じゃない。
何だか嬉しくなった。アデルハイド様の好意に甘えて、私もこのまま、もう少しだけ抱きしめてて欲しいと思って、小さく頷いた。
『・・・ありがとう』
「いや、構わん。・・・その、共に朝まで過ごすのだ。これからは、アデルと呼んでくれ。」
・・・ん?
「・・・領主様?」
「何だ、アデルとは呼んでくれないのか?」
「あ、いえ、何でもないです。」
酷く泣き疲れてたので、感じた違和感を無視して眠りに落ちた。
***
・・・朝、アンナさんの盛大な悲鳴で目が覚めた。
「な、な、なな、何て事を!!」
「どーした!?何があった!?・・・なっ!!」
アンナさんの悲鳴にスヴァリアさんが駆け込んできて、扉の前で固まった。
「何があったの?!」
寝起きの働かない頭をフル稼働させるが、思考が追い付かない。
目を白黒させてると、スヴァリアさんがオカンから魔王にクラスチェンジしていた。
「アデルハイド様は、なぜ、ここに、いらっしゃるのですか?」
「・・・。」
そーいや、昨夜、一緒に居てくれたんだっけ。
いつの間にか寝ちゃったんだっけ。
「・・・リーナには、朝まで過ごす同意を得ている。」
「本当なの!?」
ん?まぁ、そのままでって許可したな、確か。
けど、何やら誤解を受けてる気がする。
「一人になりたくなくて、一人にしないでって、私がお願いしたの。」
「いや、私がリーナの傍に居たかったのだ。リーナが誘ったからではない。」
「当たり前です!リーナはそんな子じゃありません!!」
「ああ知ってる。安心しろ。」
「リーナ、本当に?大丈夫?」
アンナさんが顔を覗き込んで尋ねる。
「―――――?? ええ、一晩泣いたらスッキリしました!」
異世界人の私を変わらずに心配してくれてありがとう。
何だか嬉しくなって、ほっこりする。
はぁ~~~と、深いため息を吐いてスヴァリアさんが沈黙を破る。
「結局、囲い込むんですか。」
「は?」
「身元は分かったのだ。問題は無い。正式に傍におく。」
「んん!?」
えっと・・・?身元、異世界って分かっただけで良いの?
まぁ、確実に他国の諜報員じゃないのは女神様からのお墨付きだ!
てか、身元分かったなら、アンナさんと森に帰りたい!
「リーナ」
アデルハイド様が、手を握り、艶っぽく私を見つめて、私の髪を鋤かしなでる。
「んん?」
「これからは、私が居ます。決して一人にはしません。」
なんだ?!
この甘い空気!?
「あ、ありがとう、ございます?」
「いえ、こちらこそ。朝まで過ごす許可を頂けて幸せです。」
そう言いながら、妖艶に微笑み、頬をそっと包み込んで、私の額にキスを落とした。
「なっ!?」
なんだ?!なぜデコちゅーされた?!
ドギマギして領主様を見上げると、壮絶な程綺麗な笑みを浮かべていらっしゃる。
一瞬、砦での壮絶な程綺麗な笑みを浮かべて血塗れになってる姿がフラッシュバックし
―――――――――――過呼吸になった。
「「リーナ!?」」
落ち着いて、紙袋を下さい。
ちょっと壮絶な場面を思い出しただけです。
「ほ、本当に承諾を得たんですよね!?アデルハイド様!」
「勿論だとも!」
「リーナ、落ち着いて!大丈夫よ!」
ええ、大丈夫です。なので、紙袋下さい。
そして領主様、ちょっと向こう向いてて下さい。
「こんな調子で夫婦になれるんですか?」
「リーナ、無理をしないで良いのよ?結婚なんてお断りしても、私が何とでもしてあげるわ」
「けど、昨夜は何とも無かった・・・」
「・・・夫婦??・・・・け、結婚?!」
なんで!?なんで急にこんな事態になってるの!?
お母さん's、教えて!
「・・・アデルハイド様、まさかと思いますが・・・」
「アデル・・・リーナに説明をして承諾を得たのですか?」
「え・・いや、その・・・。」
「リーナ、『一緒に朝を迎える間柄になる』と言う事は、家族、夫婦になる事の意味よ。その承諾を与えたの?。」
な・な・ん・だと・・・
なんって判りにくい!
あれか、私は、「君の味噌汁を毎日飲みたい」を、「毎日作れって、家政婦雇いたいの?」と返した事になるのか?
「俺のパンツを毎日洗って欲しい」を、「洗濯機どうした?」って返した事になるのか?
「はは・・・『月が綺麗ですね・・・』どーだ、てめぇら、通じねぇだろ!」
・・・朝から沈痛な空気が漂った。
なんで、なんでこんな事態に・・・
あれか、一人で泣いた方が良かったか?
「・・・やはり、スヴァリアが良いのか?」
「「なぜそうなる!」」
あら・・はもっちゃった。
「昨夜も、スヴァリアに、抱き合っていた事を伝えても構わないと言ってたが、その。・・・私にもまだ、可能性はあるか?」
あ、なんか尻尾が見える。垂れ下がった耳も見えてきた・・。
「・・・異世界から来て、帰れない事を皆に話していいのかと・・・」
「抱き合って過ごしていた事を伝えて良いのか問うていた。」
あ、そっち・・・
「な・な・・・なっ!抱き、抱き合って!」
――――――――アンナさんが倒れたました。
領主様と抱き合ってたと言うことで、なぜ倒れたのか不明だが
アンナさん、しっかりして~!
今夜からの晩餐、大丈夫だろうか・・・




