旅は道連れ、余は情けない
荷物をまとめて、中央までの馬車の旅が始まった。
「アデルがリーナを帰してくれないので、そろそろ鉄槌が必要かと思ってたのよぉ~」
「・・・諜報員の可能性は取れましたが、身元が不明のための処遇です。」
アンナさんとアデルハイド様のにこやかなやり取りが何だか恐ろしい、楽しい馬車の旅が始まった。
「館にリーナを囲わなければ良いんじゃないのかしら?」
あぁ、ごもっともです。
けど、私が、身元不明のための処遇です。
「ふん、どーだか。」
アンナさんは納得してはくれない様だが、アデルハイド様の「王城に身柄を渡すわけにもいくまい?」と言う。
そんな恐ろしい提案に比べれば、領主館大歓迎です!!
私とアデルハイド様との関係を憶測で詮索させないためにも先手必勝で行く方針は決まったが、具体的に何をすれば良いのか・・・
見た目が幼い為に、下手をするとアデルハイド様に犯罪者のレッテルが付きかねない。
「そうだね。リーナに変な噂が付いたら困るわ~。
アデルなんかより前途有る若者の未来を汚しちゃダメね」
いや、アンナさん、25歳にもなって家事手伝いの女より、仕事をこなしている領主様の将来を案じてあげて下さい。
「今回、リュシー様に謁見の申し込みを出しているわ。」
誰だそれ?
「女神様ですよ」
なんと!
え?会えるの?!
「どこかお散歩に行ってなければ中央のお城にいらっしゃるはずだわ」
・・・女神様なら、この盛大な迷子の帰り道は分かるかな?
ちょっとだけ、いや、かなり期待してしまう。
途中、アデルハイド様の商会に立ち寄ったり
アンナさんの教え子として、他領のお偉いさんに紹介されたりしながら中央まで順調に到着した。
「・・・やっぱりギリギリでしたね。」
・・・面目無い
どうやら順調だと思っていたのは私だけだったようだ。
「明後日には開会式ですので、リーナさんはアンナさんと晩餐から出席でしたね。」
「それまで、私とお買い物に行きましょう。」
「おぉ~!」
街で買い物!!
出歩いても良いのかな?
「余も、一緒に」
「あらあら、ダメよアデル、お勤め頑張らなくちゃ」
「そうです。アデルハイド様。ただでさえ、事前調整の時間が取れないのですから、陣営の報告を受ける時間を作りませんと」
ごめんよ。領主様を差し置いて遊び歩いて。
お土産買ってくるから!
海外旅行とかしたことないが、石造りの家々に、遠くにそびえる白亜の宮殿。行き交う人々。どれをとっても日本じゃ無いんだなぁと。
キレイな街中を、護衛の方を連れてアンナさんと歩いて、珍しいものを見て回る。
ここは、地球上のどこでも無いんだなぁ、と
ファンタジーな世界に来たのだなぁ~、と
実感した。
・・・だって
いきなり現れる女性なんて、地球上どこを探しても居ない。
そう、いきなり出現したのだ。
「ヤッホー!いらっしゃ~い!」
オープンテラスで休憩してる目の前の椅子に、いきなり女性が出現・・・
イリュージョンかよ!
しかも、なんか軽いよ?!
「ご無沙汰しております」
アンナさん、動じなさすぎ!!
いきなり人が出現したんだよ!?
え?人じゃない?神だって?!
神でもいきなり出現したらビビるわ!!
「やだぁ、謁見の申し込みしてきたの、そっちじゃないのぉ~」
「謁見の場所がオープンテラスだと誰が思うか!」
「やだわぁ、この子、アンナの孫にしてはお堅いわ。ちゃんと教育した?」
「リュシー様、分かっていて聞かないで下さいな。」
私は、何とも軽い女神様が作った世界に迷い込んだのか。
と言うか、女神様だ!
今、謁見っつった!
「帰る方法!帰る方法が知りたい!!」
もう、驚いてる暇はない。
今聞かずにいつ聞くんだ!
若干前のめりに聞けば、目の前の麗しの女神様はきょとんと小首をかしげて聞き返してきた。
「帰るって、どこに?」
え?っと・・・地球の日本の
「どうやって?」
め、女神様でもムリなのか?
目の前が暗くなった。
いや、女神様が私の目を覆った。
「・・・あの?」
「多分だけど、あなたは私の父が作った世界から来たのね。」
女神様が言うには、惑いの森で、父が会いに来てたんだけど、大分待たせたのよねぇ~
読んでた本の続きがどーしても気になっちゃって
と、よく分からない理由で待たせたのかよ。
その間、開きっぱなしの扉からこちらに迷い込んだのだろうと。
じゃ、じゃあその扉を再度開けてもらえれば!!
「私から開けるのは、ムリよぉ。そんな力、未だ無いもの。」
じゃ、父親にまた来てもらえば!
「浮気がバレて、匿って欲しかったみたい何だけどぉ、母に結局捕まって帰っちゃったからなぁ。」
今頃、母に眠りにつかされてるわね!
今度は未遂だったみたいだし、100年位かしら?
と、ケラケラ笑う女神様・・・
ひゃ、100年だと!?
笑えないよ!何してんの地球の神様!!
浮気ダメ!絶対!!
「ここは、私の箱庭よ」
?
「父の不始末でもあるけど、父の世界の理を持ち込まないなら、私の庭に居ることを許可するわ。」
つまり、地球の理を持ち込めば、存在を消すと?
「話が早くて助かるわ。」
そう言うと、目の前を覆っていた手を離した。
「けど、地球の理って?」
そんなの、考えた事もない、と、ふと周りを見渡せば、私と女神様の二人だけ。
な、何?
真っ白な世界で、何も見えない。聞こえない。
自分の鼓動も存在しないかの様で、指一本動かせない。
こ、怖い。
「・・・貴方に、加護を与える」
優雅に手をかざされ、何やら呟き、私の額に一つ、キスを落としたら、女神様の微笑みが視界の最後で、その後に意識が途切れた。




