なんなん!?
館にいる若い貴族の令嬢は、只の教員候補で勉強の為に留学中の令嬢でした~囲われている訳では無いので変な噂を流さないでね~作戦
方針は決まった。
森で盛大な迷子になり、女神様の親戚にいつの間にかなったかと思えばスパイ疑惑を受けて、厨房でメイドになったはずがなぜか教員候補の留学生になった。
・・・流され過ぎだろう、自分。
カロン女史とのお勉強に、たまに嫌気が差して傭兵ギルドに逃げ込み皮剥きに没頭したり
作って頂いた服を、一人で着れるように手直ししてカロン女史に驚かれたり
スヴァリアさんに介護されながら砦まで差し入れを入れに行き、カロン女史の旦那様をマジマジと眺めすぎて叩かれたり。
アデルハイド様の相変わらず笑顔で楽しそうに人を斬りつけていく鬼畜仕様をうっかり視界に入れてしまい、しっかり腰を抜かしたり。
そしてあっという間に霞む月が終わろうとしている頃
「そろそろ中央に向かいませんと・・・」
え?もう?
中央迄、馬車で一週間程だよね?
会議は、陽の月の半ばですよね?
まだ勉強途中だよ!?
「リーナ様の馬車酔いを考慮に入れると、ギリギリです。」
確かに、整備された領内の道とは違い、途中経過に通る道には悪路もある。
あー・・・行きたくないなぁ。
ここから一歩も動きたくないなぁ。
この館で、アンナさんの教え子として客人扱いに変わってからと言うもの
私にも介助のための側仕えのメイドが置かれたのだが、彼女達のムダな嫉妬にこの数日うんざりしていた。
彼女達の内から二人ほど選出して同行させなきゃいけないのだが、ハッキリ言って、誰でも一緒、誰も連れていきたくない。
服の着替えも、毎回後ろをリボンで締めて整える服なのだが、わざとゆるく締めて着崩れさせるし。
胸が細やかなのでね!
しっかり締めて頂かないと肩からずり落ちるんだよ!
三度目でおかしいと気付き『着せ方間違えてない?』と聞けば『あら、着方を知らないのですか?』
と聞き返された辺りから敵認定発動!
その日の内にボタンを作り、編み上げて調整する、サイズ調整の紐を、只の飾り紐に変えて、ボタンホールでサイズ調整させる仕様に変えた。
それに伴い着替えも一人で行う。
カロン女史に渡された教材も、前日に机にあったはずなのに『片付けました』と、勝手に移動されてたり。
探し回ってるの隣でシレーッと見てたよね!?
では、と、書棚に片付けたはずなのに、何故か引き出しから出てきたり。
おかしい・・・と思い始めても、勘違いかもしれないと
いたちごっこの様に毎日探し物の日々にうんざり。
探すのも面倒になり
『教科書を無くしてしまいました。』
と、不本意ながらカロン女史に申告すれば
『部屋の主ですのに、部屋付きのメイドよりも知らないのですか?メイドが届けてくれましたわよ』
と、教科書がカロン女史に渡っていた。
探すの、見てたよね!?
どこにあるか知らない?って、私、聞いたよね!?
それからは
『教科書を用意して』
『どちらにございますでしょう?』
『あら、部屋付きのメイドの方が、主より把握しているのでしょう?』
知らない事もあるのね。ガッカリですわ~
と、枕の下から教科書を取り出して部屋付きメイド達に嫌味に嫌味を重ねてやり込め、こちらも敵認定発動!!
何でこんなにメイド達に目の敵にされなきゃならんのだ!!
くそー
てめぇら、砦まで行って領主様のご尊顔を直視してから嫉妬しやがれ!
ただでさえよく分からない今回の任務
館にいる若い貴族の令嬢は、只の教員候補で勉強の為に留学中の令嬢でした~囲われている訳では無いので変な噂を流さないでね~作戦
長いな。
まぁ、お世話になっている我が領主様の今後の数少ない婚姻話の為にも頑張らなきゃいけないのに、メイド連中のムダな嫉妬で疲弊したくない。
同行のメイドを決めなきゃとは思えど、腰は重くなる。
カロン女史は旦那様から離して貰えないので同行はムリ!と、即答を頂いた。
やっぱり三分くらいは悩んでよ。
スヴァリアさんは介護は出来るが介助はしないとキッパリ宣言した。
あ、介護はしてくれるのか。
まぁ、介助は要らないんだよなぁ。
身の回りの事は自分で出来るし。
ただ、貴族令嬢としては、自分の事を自分でするのは無しの様で、異国籍とするならなおのことダメなんだと。
めんどくさいですー!
そして名前
阿南里奈と名乗った為に登録された戸籍のまま
アナンリーナ・ルグ・リーディングとなった。
アンナ・ルグ・リーディング女史の孫だもんね。
と、そこで不安が
「私、女神様の親戚と言うことになるのか?!」
いやいやいや、なんなん!?女神様の親戚とか!
聞かれたら何て言うのさ!
「大丈夫です。親戚でも、女神様にお会いしていない方はたくさんいらっしゃいますから。」
あぁ、長生きですからね。女神様。
子孫、たくさんいらっしゃいますものね。女神様。
なんせ、婚姻八回だものね!
「そうだ!アンナさんと一緒に行けないかな?!」
里帰りも兼ねて、どうだろう?
カロン女史が同行出来ない分のお勉強を、道中アンナさんに教われば良いのでは?
「お歳がなぁ・・・」
あぁ、確かに。
砦にいるメイドさん達は、数少ない領主様の鬼畜仕様を直視出来る少数精鋭らしく、あまり人を割きたくない様子。
「そろそろ、館のメイドを砦に招待して実態を見せてあげては・・・」
「リーナの黒い感情は理解してあげたいが、人手不足になった時のカロン女史が想像付かないかい?」
・・・鳥肌がたちました。はい。
けどそうなるとますます同行者として適任が居ない。
「誰でも一緒でしたら、こちらで、適当に決めますか?」
え~スヴァリアさんの好みかぁ~
「う~ん、ちょっとだけ、考えさせて下さい。」
***
と、言うわけで
同行者選抜試験を行います!
鬼畜仕様筋肉バカ領主を見せて、耐えうる人材をと思ったが、これで暇請いでも大量に出してはカロン女史に叱られてしまう。
何よりも、そう何度も馬車で砦まで行きとうございません!!
まず、立場を分からせましょう。
先ずは、髪を結い上げるメイドさん
相変わらず、ぐいぐいとひっぱりあげてくれやがります。
痛いと言っても、申し訳ございません。と、慇懃に返答するだけ。
「あなた、お名前は?」
「は?」
仲良しこよしをしたい訳じゃない。
「私の名前は、ご存知ですか?」
「・・・」
名に、ものを言わせてみる事にした。
「あなたのお名前をお聞かせ頂けないかしら?」
カタカタ震えて名前を名乗る髪結いメイドさん・・・
はっはっはっ!
・・・ごめんなさい。家名でもってどーこー出来る権力は皆無です。ハッタリです。
けどさぁ、我慢の限界と言うものだ。
身元不明のための居候の身なのだ。
贅沢は言わないので我慢はするが、舐められっぱなしは嫌だ。
その調子で立場を理解した方と、変わらない方とふるいにかけて同行者選抜試験を勝手に進めた。
・・・が、結局アンナさんが一緒に中央に行くことに。
ま、まぁ、普段の生活が穏やかになってきたもん!良いことには変わりないもん!
けど、もうちょい早く知りたかった。
立場を理解出来なかった数名の処遇を決めるに当たって、カロン女史の忙しさで、ご機嫌なお勉強時間を共有する羽目になる前に知りたかった。
なんなん!?
会いたかったけどさ!
「お、おがぁさぁ~~ん!会いだがったよぉ~~!!」
「あらあら、リーナ、鼻水きちゃないわよぉ~」
感動の再会に水を指す私の鼻水が憎いぜ!




