無罪にならないイケメンも居る
「屋敷に留めるにあたって、仕事をと思ったのは確かだが、囲い込むつもりは無いよ。安心してリーナ」
はい、言質頂きました!
「ただ、リシャールがなぁ・・・」
ケツ顎がどうした!
チラリと後ろに控えるリシャール様に視線を向けて苦笑いをする領主様
「お言葉ですが、アデルハイド様が囲い込むつもりは無くとも、周りが憶測で物を言います。
カロン女史の時でさえ出たのですよ?お忘れですか?
婚礼前の・・・しかも見た目が未成年のお嬢さんを屋敷に住まわせたとなると、何と噂されるか。
勝手な憶測で言われる前に、確固となる理由で屋敷に置かない事にはリーナ様の名誉も傷がつきます。」
使用人を増やしたと言うだけで?
なぜそこで噂に上るんだ?
「家名があるからな」
「貴族の令嬢を厨房に入れたなど誰も信じません。」
あ、なるほど・・・家名があるのは貴族位だけなのか。
「特にアデルハイド様は今までの経緯がございます・・・ご令嬢に接するにあたって、念には念を入れませんと、今後、ご婚姻がますます難しくなります!」
・・・いったい何があった。
「あぁ・・・最初の婚約者は、結婚式の二週間前に体調不安を理由に婚約破棄を申し出てきてたな」
一緒に遠乗りをしたりして、上手くいっていたのだがな。
こればかりは残念だったよ
屈託無く笑う領主様の笑顔が眩しい!
「・・・不思議な事に、翌年別の家に嫁いで、今は2児の子どもに恵まれている」
隣でスヴァリアさんがボソッと耳打ちしてくれた。
そ、そうね。それは・・・不思議だね。
「次の婚約者は、婚約式の翌日に修道院に入ってしまったな」
婚約期間、一日ですか・・・ず、随分と急だったんだね。
「その次は確か、『私を連れて逃げて!』と、馬番に駆け落ちを懇願してましたわね」
・・・それって
「砦に招待さえしなければ、今頃、隣には可愛らしいお子の4~5人は居りましたでしょうに!」
目頭を押えて嘆くリシャールさんの苦悶の声が響く。
・・・そうね。
先方から尽く断られると何かあるのでは?と疑われても不思議じゃないね。
何も無くて、単に残念筋肉バカ領主と言うだけなんだろうけどさ。
「そこに来てリーナ様です。子どものうちから囲い込んで婚姻をと思われても仕方が無いでしょう!」
そう来たか!
「・・・確かに。悔しいが否定できない。」
いや、そこは否定してよお母さん!
「これでリーナ様が別の方と婚姻なさって御覧なさい・・・その後のアデルハイド様につく評判では、ますます婚姻は難しくなります」
ただでさえ、今も難しいのにと、リシャール様の嘆きが部屋に静かに響いた。
難しいのか。そうか。こんなにイケメンなのにね。
噂って怖いね。
「けど、アデルハイド様男前だし、大丈夫なんじゃ?」
見た目だけなら極上なのだ。
アラフォーには見えない若々しさに、穏和な雰囲気の顔立ち。引き締まった体躯。
砦での、トラウマものの血塗れの領主様を見せなければどうにかなりそうだが・・・
「・・・砦での演習を見せない為に、その、領地に招待をしなかったらだな・・」
「不義を疑われて乗り込んできたご令嬢が居ましたわね」
モテそうだもんね。
忙しくて放置したら疑われたのか。
「領主様のお姿に卒倒して、その後はご自宅から出れなくなったんでしたわね。
社交界では領主様に呪いをかけられて気がふれたと噂が出回ってましたわ。」
「血濡れの集団が、目の前まで馬でかけてきたんだ・・・」
それも良い笑顔で・・・
「・・・それは怖い。」
イケメン無罪とはいかない、トラウマ物の訓練風景を見せない為に努力なさったが
勝手に乗り込まれて来ては手の打ち様が無かったそうだ。
確かに・・・せっかく会いに来てくれた令嬢に、居ないと嘘を付くわけにはいかないし、誤魔化して会わなければ疑われる始末。
かといって、訓練風景を見せればトラウマ・・・。
不憫だ。
こんなに不憫なイケメンが居るとは。
領地まで乗り込んでくるほどに活発なご令嬢が、その後自宅から出なくなる珍事が今までの経緯と合わさって
独身のご令嬢の居る家からは尽く避けられているそうだ。
ホントに、なんて不憫なイケメンなんだろう。
「・・・小さいうちから英才教育をしてみるとか?」
「それしか方法が無くて嫁候補をお連れしたと見られるのが、ご自身でもご理解出来ましたか?」
「・・・。」
それが、自分の身に起きるなら話は別だ!!
***
異国の姫を留学として預かって居るとしても
何せ私自身が異国の事を知らない。
アンナさんが作ってくれた戸籍では、アンナさんの孫となっては居るが、私自身はアンナさんの息子さんの顔も知らないのだ。
・・・息子さん、知らないうちに、いきなりこんなにデカい娘が居ることになってるのか。
知ったら卒倒しそうだが大丈夫なのだろうか。
「実際、教育して、嫁いで来て頂きたいのですが。」
あ、それは無しで!
「・・・即答ですか。」
美人の隣に立っていられるほど厚顔では無いのです。
あと、貴族なんてムリ!
庶民には庶民を!
「本当に貴族位では無いのですか?教養もございますし、所作には不慣れな部分も見られますが、テーブルマナーの基礎もございましたでしょう?」
カロン女史に誉められた。
嬉しいがそれでも庶民には違いない。
「毎日の湯あみを所望する庶民ですか・・・」
日本人ですので。
「まぁ、リーナはスヴァリアの方が良いであろう?私も、無理強いをするほど野暮ではない。」
えっ!?
なぜそこにスヴァリアさんが出てくるんだ?
「スヴァリアの婚約者として屋敷に置けば良いだろう。」
「困ります!!」
おおぅ、スヴァリアさん、即答ですね。
いやぁ、考えても貰えないってちょっとだけショックだね。
アデルハイド様のお気持ちが分かった。
今度からは三分くらいは悩む振りをしよう。
「・・・振りですか。」
「リーナ様、なかなか酷いですわよ。」
え?そうかな?
即答で否定するよりよくない?!
「ま、結局否定するんだな」
てか、スヴァリアさんはお母さん枠だ。
こちらとしても流されて婚約者とかムリだ!
「アンナさんの教え子では?
教員の勉強の為に預かって居るとしておけば、個人的に側に居ても不自然では無いでしょう。」
なるほど、領内の教員候補か。
それでも、事情を知らない人からしては『子どもの内から囲ってる』と見えかねないので、先に自ら説明してしまわれる機会を得る為にも、今回の議会に同行者として向かわせてしまおう!
とリシャール様はお考えの様だ。
それであの、鬼畜な程に膨大な資料ですか・・・
「一月ではさすがに覚えきれるかどうか・・・」
その上、嫁候補と誤解されずに、教員候補と印象付けなければいかんのか。
ムムム・・・