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お勉強のご褒美はお勉強

 採寸を済ませたならば、『手始めに』と重厚な本を手渡された。



「こちらの文字は大丈夫ですか?」



「辞書があれば・・・」



 簡単な絵本や童話程度は大丈夫なはず。

 アンナさんの本も、少しずつ読み進めている。



「こちらは今回の会議で行われる議題です。

 各代表の大まかな見解と、連なる派閥の関係、それからこちらの陣営の」



「ちょっ、ストップ、待って!私は何をさせられるの?!」





「ロダンが会議までにと仰るからには、王都で行われる会議への同行でしょう。

 基本的にニコニコ笑っていればよろしいですが、政敵に弱みを見せない為にも派閥は覚えてそれなりの対応を取れるようになさいませんと。」






 狩の月までって、後一ヵ月半しかない・・・。


「それまでに、ここにあります人物と相関図を覚えるように、それから後程、晩餐のマナーを行います。」



「・・・マジか」



「『マジカ』? ・・・今後は言葉使いのおさらいもしましょう。時々出てしまう母国語は気をつけなければ。」



「・・・はい」




 この国の政治に関わって良いんだろうか・・・ 私、諜報員の嫌疑があるんじゃ無かったの?



 この国の政治関係はアンナさんにさらっと習った程度だ。



 更に言えば日本国政治でさえ危うい私の知識・・・。

 あぁ、勉強って大事。

 ここにきて実感。

 と言うか、ここに来なければ実感も薄かった。





 アンナさんももそうだが、カロン女史も博識だよなぁ。

 アンナさんは先生でもあったから判るが、カロン女史は何でだ。



 嗜みですか、そうですか。



 くそう、嗜みレベルが高すぎるんだよ!







 ***


 そして判った事。




 この国、貴族でも働いている。


 各々、領地経営とは別に、個人資産を運用したり、事業を起こしたり、国の役職についていたりする。


 お貴族様って、お茶して社交シーズンには狩やダンスとかして遊んでるという、私の貧相なイメージが崩れた。


 領地経営で、徴税だけして左団扇!という貴族が居ないのだ!




 この国の貴族位とは、土地を管理する人に与えられる特権階級の事で

 基本的には自分の子どもに跡目を継がせていくのだが、領民による監査機関もあるので跡継ぎとなる子どもへの教育は厳しい。



 勘違いした二代目とか、あっという間に監査機関から中央に訴えられて役職を解かれてしまう。


 なので、皆必死に善政に励むし、結果、有能な領主しか貴族で居続ける事が出来ない。



 自身の子どもが領主に不向きだと判断したら、有能な部下や親戚を養子や、婿に迎えて跡目を継がせて家名を守ったりするそうだ。




「補佐に有能な人を付けて、子供に継がせたりしないのですか?」






「実際に治めているのが補佐だと領民が知れば、そのまま国に報告が行って終わりです。」







 なるほど・・・。



 数年の猶予にはなるだろうが、それでダメなら結果は一緒。

 なら最初から養子に迎えて家名を守ったりする方が効率的なのか。






「優秀な方が家名を守ったりしていく・・・養子とかに入らず、優秀な方の本人の家名で引き継いだりはしないの?」






「領主が次代を指名し、任命をするのは国と女神様ですので。

 現領主が、家名を残さずとも良いと指名なされたら可能です。

 ただ、大抵は親戚の横槍で難しいでしょうね。」



 それに、領主は子どもや部下等に跡目を継がせる為に後継への教育を施して行くので、長い事領地を治めている一族と言うのは、責任感や信頼の高い人ばかりなのだ。

 その名前を継いだ方が、対外的にも強い付加価値を発揮出きるので良いのだという。




「また、武力等でムリヤリとなると別の話で、領主の座を狙うと言う事は、領地を狙うと同義なので、まず領民が反発します。

 その後の領地管理が上手く行かずに、監査機関に報告が行くとなれば、現領主と善政を敷き、次代に名乗りを挙げて指名を頂き、国から任命を受ける方が賢明です。」





 監査機関がしっかり機能しているのもまた、教育体制が整っているからとの事。




 その教育を施すのは領主とくれば、どの様な領地にしたいか領民に教え込ませてしまえばスムーズなのかも。

 愛領心を育てるのか。






 そして働き者民族。



 日本もその昔各国から『働きすぎだよ』と言われちゃう程に働き者民族。国柄だ。

 ・・・最近は引き篭もり国民も推挙されるがな。極端だ。



 そんなお国柄にもれず、アデルハイドさんもただの残念筋肉バカ貴族ではなく、働き者だった。

 領主として土地を管理する貴族身分以外に、ネシック辺境領軍での役職、更に個人では主に隣国とのガラス製品や宝飾品加工技術を使い、輸出入をしている商会を経営して儲けている







「このネシック領は、唯一、陸路で他国と繋がっている領地ですので、血族に拘らずに「ネシック」の「意志」を継いだ方に名前を継がせるのです。」


 元来、女神様の国なので侵攻してくる他国が800年ほど前に滅んでからは皆無なのだそうだ。



「その割には、立派な砦でしたし、訓練も本格的で平和ボケしてる風には見えない」



「そりゃあ、そうです。

 女神様がたまにいらっしゃいますから。」






 ストレス発散に砦の皆と遊ぶらしい・・・


 前回は五年前で、惑いの森が焼けて、辺境領軍が出て大変だったそうだ。


 何をして遊ぶんだ、女神様よ・・・



「森が半焼もしなかったのです。流石は辺境領軍ですわ!」





 その時の指揮が旦那様ですか。そーですか、立派な旦那様ですか。


 え、全部立派?


 あーあー聞こえなーい!!!







 ***



 そして国王は何と、選挙で選ばれる!

『国王』って、国の役職名なんだと!!!


 その国王もまた、次代は子どもへ継がせる為に教育に余念が無い。

 国王の監査機関はさすがに民間ではなく、貴族の方々。



 今の国王は3代続いているそうだ。

 長いのか?長いのか。



 国王って役職は、対外的な意味合いの方が強く、また、国内での取り決めの決定に対して、最終的に責任を取る役割になる。



 その為、議会の案件で、どうしても責任を取れない案件の場合は突っぱねたりするらしい。


 ただ、そうなる前に決議前の話し合い等でどうしても通らない様な案件は出ないそうだ。



 どうしても通したい場合、国王の挿げ替えのために再選挙で国王を決め直すのだ。

 派閥があり、国の行く末を決める議案を持ち寄りその議案を遂行してくれる国王を選出しているのだ。




 ・・・王様と言うより、大統領の様だ。



 何だかさっぱりメリットが感じられない、責任ばっかりな気がすると思ったが

 そもそもの領主や役職者自身が領民等に否認されなかった政治家達ばかりなのだから志がそもそも違うのかな。



 何より、自分の国や領地に良い案件を通す為に国王を目指しているので、そんな責任を負うのは厭わないのかも。










 ***




 今回の会議は、ある領地で、次代を決める前に領主が亡くなったらしく、その選出を行うのが主な議題らしい。

 既に何名か立候補している。


 その立候補者たちを見極め、投票して決めるのだが、自身の派閥の人間や、推挙する人間が選ばれたらしめたものだ。

 貴族階級の特権が与えられるのだから選考は厳しいし、安易に選べば自身の評価に繋がるので責任重大だろう。





「海に面した領地で、海路を開いて貿易を行ってきた領地です。

 レネー地区出身者で、前領主様の下では、軍艦の開発に携わっていた方ですわ。

 海軍の指揮を執れる人材を擁している様子ですが、商才に関しては弱いと見えて、部下にそういった人物を数名確保して望むようですね。」




「ライバルにそういった人材を確保されちゃったらおしまいかぁ。」





「領地の運営に関しては確かに弱いでしょうね。ですが、他国と渡り合える人材を置かない事には、かの領地は治めるのは難しいでしょうね。」





「どうして?」





「あそこは異民族が入り乱れていて、物理的にも強い領主で無いと制するのは難しいです。

 きちんと律していないと、治安が乱れて商才を発揮する機会も訪れないと思います。」




「本人は開発者なのでしょう?良いの?」





 マッチョな開発者のイメージが抱けないのだが・・・。










「ですので、軍部を味方に付けていると言うことは、開発に専念出来るのでしょうね。

 軍部に関しても、開発が進んでくれれば強化に繋がるから協力的なのでしょう。」






「・・・けど、開発には商才を発揮して資金を得ないと難しい。」






「そうです。なのでその商才に長けた人材をどれ程確保出来たかが、今回領主に選ばれる為の正念場でしょうねぇ。」









 その他の案件の説明も聞きながら、晩餐前までみっちり知識を叩き込まれた。



「では今日は、この辺で・・・知恵熱だしちゃわないかしら?大丈夫?」






「・・・えぇ、大丈夫です。」




 たぶん、大丈夫。


 いや、大丈夫じゃない。



 十分頭はパンパンです。



 こんなに長い時間講義を受けたのは学生時以来だよ。









 ***



「初日ですから、軽くで済ませましたが、明日から本格的に行きますよ。

 では、ご褒美とマナー講座も兼ねた、晩餐に参りましょうか。」






 にっこりと聖母の微笑みを浮かべて鬼畜な事を仰る・・・。







 和気藹々と食堂に行きません?

 ダメですか。そーですか。



 え、料理の食べ方のマナーだけじゃダメなの?

 ダメですか。そーですか。






「・・・食べた気がしない。」




 お勉強のご褒美がお勉強って・・・




 大まかな流れと共にタブーな話題や、出席者の事情の把握と他の来賓との関係

 主賓に対するマナーと・・・






「ま、基本はこんなもんですが、ニコニコしていれば大丈夫でしょう。」






 料理の味が思い出せないです。







「・・・大丈夫な気がしません。」





 なんでこんなお勉強をしているんだっけ・・・

 あぁ、囲い込まれるからか。


 てか、囲い込まれるのか?

 詳細を聞きに行ったスヴァリアさんはまだ戻ってきてないのか。






 流されるままここまで来たがどこに向かっているんだろう。

 どこに向かわされるんだろう。




 あぁ、中央会議だっけ・・・。




 このまま向かって大丈夫なのかな。






「大丈夫な気がしない!」







「何がだ?」







 ノックと同時に食堂のドアが開いた。







「お・・おがぁあさ~~~ん!」






「誰がお母さんだ!」





 相変わらずノックと同時にドアを開けるんですね!



 もうね、半日顔を見てなかっただけなのに

 同窓会で久しぶりに再会した時や、里帰りで1年ぶりに再会した時の様な感動を覚えた。



 ・・・実家暮らしだったけど。

 ・・・地元就職なので同級生、近所のスーパーで会ったりしてたけど。






「はっはっは、リーナはスヴァリアに随分と懐いたものだな。」






「お帰りなさいませ。アデルハイド様」







 おお!私の命運を握る領主様!

 人畜無害そうな綺麗なお顔の癖に、戦闘卿筋肉バカ様!

 まるっと丸投げしたっきりの後始末をつけて貰おうじゃないか!



 ガルルルゥ・・・






「・・・そう、威嚇しないでおくれ」







 神妙な顔をして困った顔をしていらっしゃると、何だか私が酷い事している気分にさせる。

 顔が良いって得だな・・・。




 いやいやいや、流されないぞ!

 ここでしっかり主張しないと、囲われるかもしれないのだ。


 残念イケメン領主様だが、傍目にはただの綺麗なイケメン領主様なのだ。

 実態を知らないご令嬢方に誤解を受けかねない。




 平和主義の平穏無事がモットーの私には囲われる人生は不要!

 気をしっかり持て!とばかりに目をひん剥いて睨み返せば

 スヴァリアさんに叩かれた。






「・・・実質的には保護者(お母さん)は領主様だろうが・・・態度を改めよ」





 えぇ~・・・そんなぁ~。





「だが、傍目にはスヴァリアが保護者(お母さん)の様だな」







「・・・・。」





 何でそんなに不服そうなのよ!


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