破壊力抜群の惚気
傭兵ギル・・・違った。厨房だ。
の、お手伝いをする事3日目
大量の川魚を串指しにしてる時にスヴァリアさんに呼ばれた。
通された部屋には、困惑顔のカロン女史と、黒髪に褐色の肌をした厳つい、りっぱなケツ顎のおっさんが居た。
「ご挨拶が遅くなりました、レディ。
リシャール・バルトと申します。」
思わず悶えるほどの良い声に無駄に緊張する。
「あ、はい。阿南里奈です。宜しくお願いします。」
リシャール・バルト様と言うらしい。
立派なケツ顎を凝視してしまう。
なんせ、何故呼び出されたのか理由が分からない。
「カロン女史で報告が止まっていて、ご挨拶が今になってしまいました。」
カロン女史の米神がひくついた。
今、さらりと嫌味を織り混ぜやがった!
「・・・食堂でお会いした方達とは挨拶させて頂いたのですが、仕事中のお邪魔をしてしまうので他への挨拶は遠慮させて頂きました。
何分、こちらの礼儀に明るくないため、勝手な判断をしました。
新入りの私の方から挨拶にあがるべき所を申し訳ございません。」
美人に嫌味を言う奴なのでこっちも嫌味を織り混ぜてやる。
まぁ、事実、館内にどれだけの人が居るか分からないから、どこまで挨拶に回っていいのか聞かずに傭兵ギルド・・違った、厨房だ
そこと部屋と食堂の往復しかしてなかったしな。
下ごしらえの量からしても大量に居るだろうし・・・。
そんな中ただのメイドの挨拶なんて時間を割いてもらうのはおかしい。
「いいえ、アデルハイド様がお連れになられたお嬢様に対する礼儀ではありませんでした。申し訳ございません。」
ん?連れてきたのはスヴァリアさんだ。
しかも連れてきたって言うか連行されてきたのだ。
「しかし今回はまたずいぶんとお若いお嬢様ですね。」
若いお嬢さんって言葉が子ども扱いで無いと信じたい。
この世界で『若い』と言われても何故か嬉しい気がしないのは何故だ。
「今回、アデルハイド様が身を立てるための手助けをなされると確かに仰っていましたが、まさかこんな若いお嬢さんを囲い込む様には思えません。」
「ですが、私宛の書状には、くれぐれも粗相の無いように心を砕いてもてなす様にと指示が書いてあったぞ?
スヴァリア以外の男には極力近づけないように配慮しろともあった。」
つまり、そう言った扱いで屋敷に置くという事だろう?
ロイドさんのその言葉に、スヴァリアさんとカロン女史が目を見開いた。
てか、囲い込むって、囲い込むって何だ・・・?
「・・・スヴァリアは何と言われてお預かりしてきたのだ?」
「アデルハイド様には、ロイド様とカロン女史に今後を頼むにあたって書状を書いたから渡す様にと・・・」
つまりまるっと丸投げしてこいって事で何も聞いてないのか・・・。
てか、囲い込むの説明プリーズ!
初心なあんちくしょうでもないので何となーく言いたいことは分かるが
あれだ、諜報員を囲い込む、人材を囲い込むって雰囲気の囲い込むでは無い気がしてならない!
「ですが・・・」
「見た目はこうだが、成人はしているのだろう?問題は無いはずだ。その教育の為にカロン女史が居るのだろう。なぜ厨房などに入れた」
・・・制服が入らなかったからです。
いや、入った。
後一人分入りそうな勢いで入ったから厨房行になったのだ。
「私は厨房の仕事で構いません。楽しいですし。」
厨房のエースとして囲い込んでくれ!
「それでは困る。それでは何のために屋敷に住まわせる意味がある」
・・・監視の為では?
諜報員疑惑があるしね。
アンナさんの所に戻れないから仕方がないのだ。
選択肢なんてないし。
「狩の月にある会議には間に合わせて手配をする様に。」
バルト様の有無を言わせない雰囲気にこちらは目を白黒させるばかりで何もできない。
困ってスヴァリアさんを見上げればこちらも困惑顔・・・。
「畏まりました」
カロン女史の低い声が部屋に落ちて
事態の呑み込めないままの私を置いてけぼりに話が済んだらしい。
***
せっかく楽しく仕事を始めたのに、三日もかからず解かれてしまった。
「何でだ・・・結構役に立ててたと思いたい。」
・・・しかも先ほどからカロン女史から滲み出る黒いオーラが怖い。
「スヴァリア!砦に戻ってアデルハイド様にどこまで仕上げれば宜しいかお伺いをたてて来て下さい。
リーナは今から採寸をします。着いて来るように」
はいぃい!
「こんな年端もいかない娘に相手をさせようなどと・・・全く野郎どもは何て野蛮なのかしら!」
カロン女史!
言葉使い!乱れてますよ!
何て事だ・・!
美人がそんな舌打ちなんて!
大丈夫です!私、年端はもう行きまくってますから!
そんなにヤバい事をさせられるんだろうか・・・
説明プリーズ・・・
全く安心出来ないよぉー・・・。
流されるしかない状況とは言え、不安が募る。
「お・・おかぁさ~ん・・・」
前を歩くカロン女史が、私の呟きに足を止めて長い息を吐いた。
「・・・大丈夫よ、私が立派に教育いたします。さ、採寸しましょう。」
あぁ。今、カロン女史が聖母に見えた。
「私、囲い込まれるんでしょうか?」
「・・・。」
何か言ってー!
不安に見上げればカロン女史が優しく手を取って思案する。
「アデルハイド様が保護をすると仰ったのは知っていますが、それがどういった意味でとなると返答はしかねます。
私にはアデルハイド様の御心までは存じ上げませんので。
ですが、アデルハイド様はただの戦闘筋肉バカでは無いので、きっとリーナさんの嫌がる事はなさらないはずです。」
「・・・戦闘筋肉バカは酷い事しないのか」
「はい。戦闘筋肉バカは、バカなにり思慮深い方ですから。
ただ、圧倒的に言葉は足りませんので、今スヴァリアを聞きに上がらせました。今は考えても仕方がありません。
さ、早い事採寸を済ませましょう。」
「はい。お母さん」
あ、カロン女史の優しい気遣いに、思わずまたお母さんって言ってしまった。
「ふふ・・娘が居たらこんな感じなのかしら」
「・・・たぶん、年齢は大差無いので。言い間違いです。ごめんなさい。」
カロン女史、未だ三十代に入ってないよね?
え?38歳?
アデルハイド様と同じ歳なの?!
え?22歳の息子が居るの?!
何、この若々しさ!
子供に間違われる事なく若く見えるなんて
神様ズルい・・・。
カロン女史はこの領軍の将軍職に就いて居る方とご結婚して
男児を一人育てたらしく、その息子さんはその領軍で兵士をして、今砦に居るそうだ。
子育ても終わったカロン女史を、屋敷に一人置いておくのを渋って引退するとのたまう将軍様を止めるため、後、女主人の居ないこの館を取り仕切らせるためにアデルハイド様が招いたらしい。
旦那様、61歳。
本物のロリコンが居ます。
不謹慎にも最初に思った感想がコレ。
政略結婚では当たり前で
家格が釣り合った家が他に無かった事と、大変優しくして頂いているので幸せな結婚生活だそうだ。
「痛かったのは最初だけで・・・後は夢のような時間でした」
ちょっとまて!
そこまで話さなくて良いから!!!
こっちが照れてしまうのろけ話を聞きながらの楽しい採寸となった。
カロン女史の気の紛らわせ方が一番気恥ずかしい。
おかげで、気は紛れたけどな!
違う精神はガリガリ削れたと思うよ!