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狩人と雲 ーミライ史ー

作者: なまぎ

・・・ここは、スティージェ。事実の無い空の中に真実を持った大地が浮かぶ狭間の世界。ここにはいくつもの昔話がある。これは、その一つだ。


 昔、このスティージェの人々が文化や権力をもって間もない頃、一人の狩人がいた。その狩人は食べる分だけしか獲物を捕らなっかった。彼の住む村には魂ごと獣を食らう雲の魔物、グレンテがいた。村人たちはこの魔物を村を救う神だと信じ、獣を生け捕りにするとグレンテに生きたまま供えた。実際、グレンテのおかげで村の敵が近づかないのもあった。

 しかし彼だけは違っていた。ほかの村人のようにいけにえのために獲物を生け捕りにしようともせず、何があっても魔物にすがることも無かった。

 狩人は若い頃、隣人にとれた獲物の肉を少し交換しようと言い、捕まえた獲物の肉を少し渡そうとすると隣人は「私はお前と違いグレンテ様に忠実だから生贄のため獲物が少ない。お前の獲物は頂いておく。」と狩人の獲物を全て取ってしまった。

 この様な事が何度もあり、狩人はいつの間にか村人たちと会話もせずに暮らすようになった。

 その狩人が一人で過ごしていた日々のある夜、狩人は夢を見た。いつも通り狩に行くと獲物を殺すたびに無限とも思われる痛みに襲われる夢だ。その日はなぜか弓を引けなかった。そのときは明日は獲物が捕れると思っていたが次の日もそのまた次の日も獲物は捕れなかった。ここの植物は人の魂を消すと言われていたので植物は食べなかった。

 狩人が獲物が捕れず飢えている時だった。村で殺人が起きた。これを逃す手は無い。狩人はうまく回らない頭で考えた。

「獣は捕れなくとも、人なら捕れるのではないだろうか。今なら毒さえなければなんでも食えそうだ・・・」

 狩人は早速弓矢を持って出かけた。犯人を食うつもりなのだ。噂によれば犯人はまだこの辺りをうろついているらしい。村人の顔は知っているので狩人には犯人と村人の見分けはつく。

 狩人は屋根の上や井戸の中、茂みの中まで探し回った。そして犯人を見つけるとあっという間に弓矢で殺して食べてしまった。

「このままでは他の村人に捕まってグレンテに魂を食われていたかもしれない。とても良いことをした」と狩人は満足そうに言った。

 しかしこのことが村人達を怒らせる原因になった。

「罪人はグレンテさまのいけにえにささげると決められている。それを勝手に食うとはどういうことだ!」

 村の長の命令によって彼は捕らえられることになった。しかし狩人も黙ってはいない。恩賞目当てで来た村人達を家にいざという時のために仕掛けておいた罠を使いこなし、「元々気に入らないやつらだから殺すのをためらわずに済む」と言って傷だらけになりながらも干し肉にしてしまった。それからは恐ろしくて村人達は狩人の家に近づかなくなった。

 数日後、「おやもう干し肉が切れてきたのか。まあ相変わらず獣は捕れないことだし嫌いなやつから殺していくか・・・」と狩人は言った。

 その翌日、狩人は狩に出た。獲物は人だ。標的はすでに決まっている。狩人がいけにえをささげないことを理由に村八分にしようと言い出した隣人だ。

 狩人は隣の家まで来ると扉を叩いた。出てきたところで斬りかかる作戦だ。

 一瞬の沈黙の後に扉が開いたと思うと狩人が来ることを予想していた村人たちが一気に家の中から襲いかかってきた。村人たちは木の鎧を着て縄を持ち狩人を生け捕りにする準備をしていたのだった。反撃しようとしたが強い力で抑えられ、餓え気味だった狩人は縄で巻かれてグレンテの神殿まで連れて行かれた。村の決め事通り人殺しをした罪人となった狩人はグレンテのいけにえにささげられることになった。

 怪しげな音楽と共に一通りの儀式が済むとグレンテはここ数十年ぶりに地響きのような声を出した。

「もう良い。生贄を置いてお前たちは下がっていろ。今日ばかりはいつものようには行かんのだ」

 この声が聞こえると村人たちは礼をして神殿から出ていった。

「さてお前に話がある」村人がいなくなった後、グレンテが再び地響きのような声で言った。

「魂の消滅を目前にした者に何か」

 グレンテは笑った。

「お前は消滅を目前にしてなどおらんよ、むしろ他の村人の方が早く消滅する。・・・お前が我の契約を受け入れればの話だがな。」

「契約?」

「そうだ。永遠の命をやろう。その代わり再び我の一部になれ」

「それはどういうことでしょうか?」

「今に分かる。」

 神殿の天井に広がっていた黒い雲がフッと狩人を包み込んだ。その時狩人はキラキラと光る白いような黒いような光の球をみた。狩人は恐怖も何も感じなかった。その時、見たこともないような妙な記憶が蘇った。

「早く死にたい・・・もう半分死んでるんだ・・・死なせてくれ」

周りを見ると何もない中から笑い声や泣き声、怒りと悲しみなど様々な感情が沸き上がってくる。苦しさが急に増したが一瞬にして何も感じなくなった。

周りは緑色で巨大な棚があった。

「次は何選ぶ?」

「この前のみたいなのはいやだよ」

のんきな連中もいるもんだと思った。

「これにしておこう」と言うと周りが真っ暗になった

 気がつくと雲ひとつ無い美しい夜空が見えた。それも上だけではない。どこを見ても夜空だった。

・・・その後スティージェの村ではグレンテの声を聞く者はいなくなった。そしてしばらくすると狩人の霊がさまよい、まだ人を食うと言う噂が流れ、狩人の霊を今でも恐れている。



END


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