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この世を面白くっ!  作者: 尾関 ライチ
2/6

ハズレ

 「みんなー!ありがとー!!」


 「うおおお・・・」

 「よかったぞー!!」

 「杞紗ちゃーん!」

 「恵那ちゃんだって、耕平だっているぞ」

 「皆最高だってことさ」


 今、大学での学祭で、軽音ライブが行われている。

 歌ってるのは、俺と同じ1年生の、この春結成されたばかりのバンド『キョウ』だ。

 やはりボーカルの高橋杞紗とギター&ボーカルの谷口耕平が目立ってる。

 ほかにベースの井口佐奈、ドラムの江口恵那、ピアノの遠矢真美がいるが、楽器経験者はギターの谷口とドラムの江口だけ。今6月20日なので、実質2ヶ月半で仕上げたことになる。

 やはり若干ぎこちないのが目立つが、ここにいる誰もが『結成して2ヶ月で、初心者が集まってできたバンド』として見てるため、観客が求めているレベル自体そんなに高くはないはずだ。しかし、実は楽器経験者である先ほど述べた谷口と江口は、『ここまで弾けるようになりました』と言わんばかりにパフォーマンスをしていた。

 

 しかも演出が良い。2、3、4年生がこの『キョウ』の初ライブを応援している。何しろ、自分たちの部活の後輩がここまで成長したのだ。今日まで楽器指導や、エフェクターの使い方、アンプの使い方、マイク、音源等、今後彼らが独自でやっていけるように明らかに、俺という存在を無視してでも。


 俺は高菜修希。今年の春、自分自身を変えたくて、それとライブの機会を求めてこの大学の軽音部に入部した。

 はじめこそ優しくしてくれたが、やはり初心者の方へ先輩がたは目を向けてしまう。俺は経験者だからって、まあ確かにある程度はわかるのだが、なんか相手にされなくなってしまって。

 谷口が実はかなりの実力者だってことは、すぐに見抜けた。彼はなんか下手なフリをして先輩たちに構ってもらっていれば、『こいつ飲み込みが早いな!!』っていうように先輩たちに教えてもらってるうちに仲良くなってきて、あっという間にこの学祭でやる曲のギターパートをマスターしては、他のベースや、ドラムのところに行って一緒に習ったり、ボーカルの高橋にギターを教えたりしている。


 俺も教えようとしたが、だんだんと『キョウ』というバンドの壁に挟まれていき、自然と俺はギターを抱えたまま外に出ることが増えていった。

 外に行けば、何か笑顔になれるかな、なんて。


 そう思いながら。


 部活同士の分かち合い。絆。

 それは、目の先に見えるテニス部が活動しているテニスコートで分かる。

 いつもは男女違う練習メニューを行ってるようだが、今日はそういえば部内での大会だって言ってたな。

 例えばあのテニス部だとしても、俺みたいな『ハズレ』がいるのだろう。

 それでも、俺にはあのような、部員同士仲良くしてる光景しか見えないのだ。

 卓球部だって、バスケ部だって、武道系の部活だって、バレー部だって。男女仲良くやってるじゃないか。

 

 部活の域を超えて、学校でも、それ以外でも、その部員同士仲良くやってるのをみて、ほんの少し羨ましく思ったりして。


 「おおっ!高菜じゃないかっ」

 「何?高菜だと?ホントだっ」

 

 え?俺テニス部で何かした?

 正直、テニス部の連中とは英語の授業で一緒に勉強するくらいの仲だ。

 なのに、30メートル位はなれている俺に話しかけてくるとは。

 正直、今は暖かい夏風に吹かれながら、風に蠢く葉っぱたちの音と様子を見て楽しんでいたんだけどなあ。


 「そうだけど・・。俺を知ってるのか?」

 「なんだよその言い方?英語の授業であってるだろ。・・・まあ学祭の時のライブが大きかったかな、印象としては」

 

 森居耕平。英語の授業で、こっそりと英語をマジメにがんばってるやつだ。


 コイツもそれに気づいたんだと思ったからだ。

 耕平の反応により、続々と俺の方へ視線が集まってくる。

 「あーっ!高菜だ!聞いたぜ、ライブの時。すごいよな、自分で作詞作曲しちゃうなんて」

 「別に。楽譜には無限の可能性があるんだ。自分の歌いたいと思う曲調と、皆が聞いてみたい曲調を考えて合わせて、曲を作っていくのが楽しいだけさ。詩も同じく、ね」

 「へえ、言うわね。あなたが瑠璃を夢中にさせたシンガーソングライターね。確か『save』っていう曲」

 胸のでかい偉そうな美人が俺に言う。まあ褒めてくれているようだから悪い気は起きなかった。

 「部長!へえ・・・、今まで軽音部は『遊びの集団』だって言ってて全く興味なさそうだったのに」

 「貴新キアラさん!確かにいい歌でしたよ」

 「そう、山崎くん?ていうか、皆彼の歌を?」

 「ええ。ただ正直に言えば、冷やかしのつもりでってことで俺と耕平と高陽たかあきと美咲、由奈、瑠璃ちゃんの6人で。俺としては高菜の歌が気になりすぎて『キョウ』の歌はあまり覚えていない」

 冷やかしであれ、聴きに来てくれるということはミュージシャンとしてはありがたいことだ。結構人の心に残りやすい、アップテンポな曲でいったんだけど、どうだったか。

 「そうですよ、瑠璃ちゃんなんかずっと彼のこと『じ~っ』って見てて!『雲が辺りを隠した 白い霧が立ち込めてる これが晴れるにはこのまま待つしかないのか この時ばかり 強い突風が吹くことを 僕たちは望んだ』とか?これって、強い風のような出来事によって、待つことしかできなかったことをなんとかしたい、っていう意味?・・・ごめん、あたし国語苦手で・・・」

一人の女の子が、そ個まで言ってくれた。


 「いや、いいんだ。この歌に興味を持ってくれてるだけで。これからもっといい歌を作って、歌っていくつもりだから。歌える機会があれば、俺は自分の気持ちを歌で伝えるためにどこまでも行くよ。ただし俺が行こうと思った場に限るけど」

 「まあ、そんなに危険な場所行かなくてもいいんだぜ?せっかくだから歌ってくれよ・・・、おおーい皆!ここに未来のカリスマシンガーソングライターの高菜修希がいるぞ!聞こうじゃないか!」

 「ふふふ?いいじゃない。実はあたしたち3年は学祭の日、なぜか大会とぶつかっちゃってね。今聞きたいっ・・・て瑠璃ちゃんも言ってるし」

 そういえば瑠璃ちゃんって誰だ?可愛い子だといいなあ。

 って思いながら、ギターケースからギターとピック、チューナーを取り出し、チューナーをギターの先端に取り付けて5、4、3、2、1、6弦の順でチューニング。俺的にこの順ほうがなんか安定してる気がしているんだ。

 

 そんな最中でも、「おおっ、なんかそれっぽい!」っていう声が聞こえてくる。

 

 俺はテニス部の練習を途中でやめさせてしまったことについてもきちんとお詫びを入れながら、人生で2回目に作った自作の曲『save』を歌った。


 


 

 

 

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