其の七
「いつまで寝てんのよ、ご飯食べたら出るわよ!!」
朝、気持ちのいいまどろみに包まれて眠っていると、頭から角を生やした霊夢がーーーー
布団を捲るだけではあきたらず、蹴りまでいれられる。
もう少し味わっていたかったが泊まっている身なので、起きることにする。
「ああ…、おはよう、霊夢」
「はい、おはよう。顔洗ってきなさい、そのあとご飯にするから」
「…ん」
頭がはたらかないので、素直にしたがう。
考えるのもめんどくさい…。
「ふう」
顔をあらって居間にはいる。
すでに霊夢が食事の準備を終えて待っていた。
「ごめん、待たせたな」
「別にいいわよ。それより昨日もさっきも言ったとおり、今日はあんたの仮拠点を探しにいくから、早く食べましょ」
言われて腰をおろす。
まだ少し眠いが、あくびをかみ殺す。
机を見ると、ご飯に味噌汁、焼き魚に漬物。
オーソドックスな日本の朝食だ。
「うまそうだな」
「別にいつもどおりよ。まあ客がいるから少し豪華だけどね」
「え、やっぱ貧乏なのか…?」
「何を見てそう思ったのかは知らないけど、立地が立地だからね、参拝客がほとんど来ないからね」
「ふーん、苦労してんだな」
話をそこそこに口をつける。
やっぱり、うまい。
朝から良いものが食べれた。
「じゃあ、今から人里にいくわけだけど、あんた飛べたりはしない…よね…?」
「当たり前だろ。他は知らんが人間は普通飛べないよ」
唐突に言われたので至極当然のことを言っておく。
「うーん…、イメージしてみて。浮く感じ」
「お、おう。でも期待すんなよ。人間はそんな簡単に飛べるもんなのか?」
「いや、そうじゃないけど…。あ、あんたは飛べそうと思ったのよ!」
そんなもんか…?
まあやってみるか。
浮く感じ…か…
ーーーー
「やっぱ私の考え違いだったかもしれないわ…」
「露骨にがっかりすんな、これが普通なんだよ!!」
大体十五分くらいしたが一向に飛べる要素が出てこない俺に霊夢がついにこぼした。
「だったらどうするかな…。……うん、あんた抱えたが早いか」
「は?」
「いいから、早く掴まりなさい。ただでさえ無駄な時間食ったんだから」
「それはお前のせいだろうが…」
しかし飛べないのはしようがないので大人しく体に掴まるとする。
「変なとこ触んないでよ?」
「わかったわかった。早くいこうぜ」
飛ぶ。
力を押さえているのか、単純にめんどくさいのか大体二十メートルほど上がったら滑空し始める。
俺のことを気遣っているのか速度はあまり出ておらず、体に当たる風が心地いい。
ふとーーー顔をあげる。
言葉を失った。
ただただ綺麗という言葉以外は浮かんんでこなかった。
喉から出た言葉はーーー
「ああ。幻想郷…か…」
ここが幻想郷と感じると同時に、やっぱり自分がいた世界じゃないってことを認識した。
「ん?なにか言った?」
霊夢の声が聞こえた気がしたが耳からすり抜けていった。
しかしーーー同時にこの光景を懐かしいと感じてしまった。
でもこのときの俺はその気持ちを疑問に思わなかった。
だってそうだろ?
こんなに綺麗な景色、余計な雑念はまじらせたくなかったんだ。