行間一
「今からあいつのところにいってくるけど、ついてくんなよ」
桜咲く屋敷で二人の子供の声がする。
年の頃は九、十歳
話しかけられた方がもう一人に返す。
「うん。兄さんはあの子が本当に好きなんだね」
「まあな。いつか俺に靡かせてやる。それで、悪いけどーー、今日は一人で遊んでくれるか?」
「大丈夫だよ。もう兄さんについていてもらわなくても平気」
「そうか…、それはそれで寂しいんだけど」
二人の顔立ちは瓜二つで、違うところといえば、兄さんと呼ばれた方が少し強気な顔をしていて、もう一人は穏やかな顔だっった。
「嘘だよ。そんなことより、ほら、早くしないとあの子が出掛けちゃうよ」
「あ、と。そうだった。でも何で同じ屋敷に住んでんのに、俺達は外に出たらいけないんだよ」
「僕たちが双子だからでしょ。双子は疎まれるものだから…。殺されないだけましだよ」
「父さんも、そう思ってんのかな…」
落ち込む兄を弟がすかさず励ます。
「そんなことないって。だってこの前、父さん、兄さんの事誉めてたよ、器量がよくて自慢の子だって」
「本当に?」
「うん。落ち込む必要はないよ。兄さんは早くあの子のところにい行ってきなよ」
「っ、うん!!」
満面の笑顔をして兄が屋敷を駆けていく。
それを微笑ましく弟が見送った。
「ふぅ。やっぱり兄さんと話すと疲れるよ…」
たまらず息をはく。
彼は知っていた。
今のがうわべだけの会話だということ。
自分が本当は兄から疎まれていることを。
それでも原因が自分にもあるので強くは出れなかった。
そしてその原因がーー
「だーれだ?」
急に視界が閉じられる。
目にはひんやりとした手の感触。
背中には何かが被さっている。
なれた手つきで目もとの手をつかむ。
そして振り返り、
「幽々子…。何をしてるんだい?」
後ろの少女を見る。
年は同じくらい。
桃色でふわりとした質の髪。
水色の着物からまだ未発達だがそれなりの身体が浮き出ている。
そして、間から見えるのは今にも溶けてそうな雪のように白い肌。
これだけでも彼女は魅力的な女の子だといえる。
そう、彼女こそが兄の意中の相手である。
そして、彼女は彼が兄から疎まれている理由に繋がる。
「何って、ーーを驚かそうと思って」
「はぁ…。女の子が男の人をベタベタ触るものじゃないよ…。それこそ、好きな人とかとだけーーー」
「あら、だって私、ーーが大好きだもの。それならいいでしょ?」
「 」
話を遮られとんでもないことを言われる。
つまりこういう事だ。
彼は望まれずして兄の恋敵になった。
そして
「兄さんに会わなかった?」
「会いそうになったから逃げてきたのよ。兄さんは自慢ばかりして、あなたの事を馬鹿にするから嫌い」
まいったな。
そこまで嫌われてたなんて。
明日から顔を直視でにるだろうか…。
「そっか。まあせっかく来たんだ、ゆっくりしていきなさい」
「本当!? だからーーって好き!!」
「あはは…」
しかし、こうやって彼女に弱いから僕も悪いのだ。
兄さんばかり悪いわけではない。
気持ちを切り替え考える。
ーーーさて、今日はなにして遊ぼうか…
誰かの昔の話。