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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

始まりの胎児

作者: 空柴 ゆう

世界の根底を崩そう。

ある生き物が生まれた日のこと。

 マントルという空間が地球の内部にあるらしい。

 俺はどうやら、その灼熱地獄で生きているようだ。

 人間の発する声。交信。すべてが俺の鼓膜と流れ込んでくる。

 俺の居場所が「マントル」と呼ばれているのがつい先日聞こえてきた。


 それにしても、俺の分裂はどうやら止まらないようだ。

 細胞が俺の体から血のように流れ出ていく。

 じきに、この分身は地上へと達するだろう。


 無くなった。空っぽになった。俺の中から出ていくものはもういない。

 あいつらはもう、地面を掘り起こしただろうか。

 いや、何億年も前の分身たちは無事に地上で生きているのだろうか。

 俺と分身にはつながりがないのだ。何も伝わってはこない。

 

 俺の役目は終わった。あとは地球のあらゆる物質に還るだけだ。

 もう、寝てしまおう。


 おかしい。毎日寝ているのに、目が覚めるのだ。覚めてはいけない。なぜ、意識がある?

 もう俺は俺を出し切ったはずだ。本能のままに。

 仕方ない。当分、眠りつづけるしかないな。


 変だ。分裂が終わってからも、覚醒してしまう。俺の予想を何かが裏切っていく。

 そして、俺に変化が訪れた。

 どんどん上へ昇っていく感覚に襲われる。

 ふわふわと浮くようなものではなく、まっすぐに向かっていくような。

 これは何だ。五本の丸い肉が細く整えられていく。どす黒い色から、薄い肌色へ。

 

 これまで地上から受け取ってきた知能で今起きている変化を分析した。

 そして一つの結論がはじき出された。

 俺は今、人間の胎児へと変身しつつあるようだ。

 もともと俺がどんな形だったかはもう忘れたが、この変体には驚いた。

 

 それも変体が進むのと同時に、俺は上へと押し上げられているのだ。

 これは笑える。まるで、母体から胎児が出てくるようなものだ。

 この先どうなるか分からないが、しばらく身に任せてみよう。


 俺の顔はどうなるのだろう。醜い顔か。それとも……

 そんなことを想像していると、突如頭に何かがぶつかった。

 ぐしゃりという音。俺の頭に何か突き刺さっている。

 痛みは一瞬だった。そのままなんという事もなく上へあがろうとした。

 しかし、身動きがとれない。俺をぶち抜こうとするものが阻んでくる。


 岩だ! そうか、ここは地層の中か! 

 ということは俺も分身たち同様、地上へと出ようとしているのか。

 ここが地層なら、もうすぐ出られる。この岩さえ何とかすれば……。

 がきん! 試しに岩をへし折ってみた。何だ、簡単に壊せるものなんだな。


 そこから、俺は自然と上昇することはなかった。

 もがくように手を使い、足をばたつかせ上へ、上へと目指した。

 顔に土がずっしりと被さり、口に虫や砂やらが入ろうが構わず上だけを見つめた。

 

 気づくと、両手が血まみれになっていた。もちろん両足も。

 俺の体はもうちょっとのところでおしまいになりかけている。

 それでも、地上に出たい。体の一部がなくなってでも。あとで、再生すればいいことだ。


 今や俺の脳は地球の交信ではなく自分の意志に支配されていた。

 もうすぐ。もうすぐ!

 俺はうがっ、と叫び片腕を地に向かって突き立てた。

 ずぼり、という新しい音が俺の耳に入ってくる。

 血まみれの指先にひんやりとしたものが当たる。風だ。いや空気だ。人間が呼吸するための物質。

 最初に出迎えてくれたものに俺は酔いしれた。

 

 そこから俺が地上に出るのは早かった。

 かがむように俺は頭を地へと押し付けた。

 気持ちいい。俺の分身たちも、こんな快感を味わったのだろうか。


 長い間、その態勢で地面の匂いを嗅いだ。

 俺が今まで嗅いだことのない異臭。

 その新鮮な匂いに夢中になった。

 がむしゃらに鼻先ごと地面につきつけて、しまいには顔を地にうずめていた。

 人間の胎児も生まれたすぐはこんな気分なのだろうか。

 真新しい世界に初めて触れた生き物は、狂ったように大地を味わった。


 そうだ。いいことを思いついた。

 分身たちに会いに行こう。

 つながりを作りに行こう。

 人間たちが言う「社会」というものを塗り替えるような「つながり」を。

 

 もう地の味に酔うことはなくなった。

 今度は空へと顔を上げた。

 次はお前を味わってやる。

 そう思うと、口がにへらっと歪んだ。

 

 人間とは違う新しい生き物の世界の始まりだ。




 

 

 

 

 

 

 

 

 

分かりにくい表現ですが、面白く読んでくだされば幸いです。

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