償い
「私は、幸せです。」
男は女の長く伸びた黒髪をとかしながら言った。
女は表情を変えず応える。
「何故?」
女は振り返りもしない。
しかし男は微笑んで
「貴女のお側に居られる、そして、こうして髪をとかしている。それだけで、幸せです。」
女は男の髪をとかしていた手を振り払うとゆっくりと立ち上がって
「私はお前に罪を償わせているだけだ。勘違いするな。」
表情は相変わらずだった。男はまたも微笑み
「承知しております。私は貴女に償いをしています。承知しております。」
「ならいいの。」
女はそう言うと、ベッドの上に腰を下ろし
「続けて。」
相変わらずの表情で。
「承知しました。」
男は長い長い女の黒髪に櫛を通す。
女は小さく溜め息を吐き
「お前は私に惚れた。」
いきなり呟いた。
「あ、はい。」
男は驚き目を丸くしながらも応える。
「それは罪だった。だから、私達は二人で逃げ出した。」
「はい…。貴女はお姫様さまでした。私はそんな貴女に恋をしてしまい…。」
男が言葉に詰まると女は続けた
「私もお前に惚れた。だから逃げてきた。それは罪だ。」
男は女の台詞に驚き手を止めた
「何をしている、早くとかせ、罪を、償え。」
男はいつものように微笑み
「かしこまりました。」
言った。
二人はしばらく黙っていたがある時女は口を開いた。
「そして私もまた、罪を犯した罪人だ。罪は償わなければならない。」
女は頬をほんの少しだけ赤らめて
「だから…私は…お前を愛して罪を償う。だから……お前も…………」
女はブツブツと何かを言おうとしているが聞こえないので男が代わりに言った。
「はい、私は貴女を愛します。罪を償う為に。」
男と女は罪を犯した。
そして罪を償い合った。