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雨に隠れるその前に
中雨、なんて言葉を自分で作って勝手に使いたいくらい、雲に向かっておいお前もうちょっと頑張れよ、とか、もうちょっと休めよ、とか言いたくなる雨模様だった。
車の中は外の世界に雫が張り付いていて、ペーパードライバーの私には少々危険だ。
--次を……どっちだっけ?
なんてよそ事を考えていた私は案の定信号に気付くのが遅れた。頭をハンドルに勢い良くぶつける。
「……きれいだー」
ふと助手席のタクミがそう言って、私の頭部打撲に気遣う素振りも見せずに窓にかじりついた。
「……なにが?」 決して子供に語り掛けるトーンではない。案の定タクミは、こちらを見てから、声を出してしまった自分を恥じるように、俯きながら「ごめんなさい」、と呟いた。
「……男の子なら、もっと堂々としなさい」
溜め息だったのか、或いはセリフだったのか。
言った本人である私でさえよく分からないものにタクミがもう一度「ごめんなさい」と言ったのを飽き飽きしながら聞き流し、私は信号が青になったことをしつこいくらい確認してアクセルを踏み込んだ。