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ジュースパラダイス

作者: 信濃

ランタンをかざしてみると、そこにはオレンジの液体が視界いっぱいにひろがっていた。洞窟の暗がりの中でそれは、一度入ればそのまま夢の中につれていかれそうな雰囲気を醸し出していた。いや実際、一歩間違えば本当に底なし沼のようにずぶずぶとはまってしまうだろう。ここは、そういったジュースの沼が無数にある。

「ここも違うな。たぶんオレンジの沼だよ。」

僕は妹に言った。妹の顔はよく見えないけど、少し疲れているようだ。

「そう・・・・・・。なかなかないね、グレープジュース。」

妹は無理に笑おうとしたようだ。僕にはそれがわかった。妹は、辛いとき、悲しいとき、無理に笑おうとする。お母さんの教えだ。お母さんが教えてくれたことはたくさんあったけど、その中でも「辛いときこそ笑う」は妹が自然とするようになったことだ。

「行こう。きっと次こそグレープジュースの沼だよ。そしたら、いっぱい飲んで、それでたくさんお母さんのところに持っていってやろう。お母さん、喜びすぎて病気のことなんて忘れちゃうよ、きっと。」

「そうだね・・・・・・。」

妹は浮かない顔をしている。無理もない。このジュースの洞窟に入って半日は経っている。妹はそこまで体力もないし、ここに来るのは初めてだ。暗がりの中で歩くのは、なかなかに疲れる。僕も初めて来たときは、かなり疲れた。そういえば、あの時は何のジュースを取りに来たんだろうか。りんご?パイナップル?ピーチ?それとも・・・・・・。

「お兄ちゃん。」

妹の声で我に返った。そうそう、今はそれはいい。とにかくグレープジュースだ。


トック、トク、トック、トク・・・・・・


僕の村の人間はかなり特殊だと思う。病気になると、薬の代わりにジュースをとにかく飲む。そして、この洞窟のジュースじゃないとだめなのだ。いつからそうなったかはわからない。ただ、僕たちは病気になると洞窟のジュースを飲まないとだめで、一人一人飲む種類が違う。フルーツであることは変わらないが、その人にあったジュースを飲まないとだめなのだ。オレンジ、リンゴ、パイナップル、ピーチ、マンゴー・・・・・・などなど。だから誰かが病気になったら、その家族とかがジュースを取りに洞窟に行く。洞窟に入るには大人が行けばいいんだろうけど、穴が小さすぎて入れないのだ。だからジュースを取りに行くのは子どもの仕事だ。それはこの村では当たり前のことで、誰もがそれをやっていた。僕と妹もご他聞にもれず、というわけだ。


オレンジ、リンゴ、パイナップル、ピーチ、マンゴー、キウイ、グレープフルーツ、マスカット。行けども行けどもグレープジュースの沼が見つからない。何でだろう。さすがに疲れてきてしまった。妹もかなり疲れている。

「少し休もう。」

僕は妹に言った。そして、近くの岩に座った。妹も別なのを見つけて座った。妹はこちらをみて、無理に笑おうとした。よっぽど疲れているのだろう。顔が青くて、ひきつっている。無理しなくていいのに。僕は確かに自慢になるような体力はないけど、妹一人ぐらいおぶるぐらいできると思う。そういえば、お兄ちゃんと一緒に来たときも、お兄ちゃんにおぶってもらった。・・・・・・と、そこまで考えて思い出した。

「そうだ、お兄ちゃんと来たときだ!」

妹がびくっと身体を震わせた。びっくりさせたかな。でも、かまわず続ける。

「グレープジュースはお兄ちゃんと来たときだ!やっと思い出した!行こう、こっちだ!」


トック、トクトク、トック、トクトク、トック、トクトク、トック、トクトク、トック、トクトク・・・・・・


オレンジ、リンゴ、パイナップル、ピーチ、マンゴー、キウイ、グレープフルーツ、マスカット、イチゴ、バナナ、色とりどりの沼、そして、


「グレープ!」


そこには、紫色の沼があった。やっとたどり着いた。なんてきれいなんだろう。ここの入口にも「Welcome to PARADISE!」とあった。まさしく楽園だ。全てが輝いて見える。とにかくのどが渇いた。妹が後から来ているのがわかるけど、待ちきれない。妹には悪いけど、先に一口飲もう。手に紫の雫をすくう。まさしく、楽園パラダイスへの一口だ。


トクトク、トクトク、トクトク、トクトク、トクトク、トクトク、トクトク、トクトク、トン。


やっとお兄ちゃんに追いついた。そこには、眠ったように静かなお兄ちゃんがいた。頬を触ると、顔が笑っているのがわかる。おにいちゃんの側にゆっくりと行く。やっぱり軽い。お兄ちゃんは途中で何度もおぶってくれようとしたけど、私はそれを大丈夫と言って断った。とてもじゃないけど、そんなことはさせられなかった。私の家系は、みんなグレープジュース、一番上のお兄ちゃんもそうだった。だから私はこの色が嫌いだ。あの時は大変だった。お兄ちゃんは動けなくなっていた。私が何度言っても口も聞けない状態で、だから私がお勤めをしなければいけなかった。お勤めはこれで2度目。絶対慣れはしないけど、今回はお兄ちゃんに一言言うことができた。それだけが救いだ。


「お兄ちゃん、いってらっしゃい。天国パラダイスへ。」


第3作です。なんかダークな感じになってしまいました。

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