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【AAつき】勇者に「ダサい」と追放されたので、ホムセン装備で魔王を一点施工した

掲載日:2026/04/16

AAがあとがきのほうについてます。スマホで見るとずれてるかもしれません。そこはスマソ。

 ブラック企業のトイレのドアが、どこでもドアだった。


 それが俺の異世界転移の始まりである。


 今日も仕事はだるかった。

 朝から上司はうるさいし、客は無茶を言うし、会議は長いし、定時後に仕事を増やすなと心の底から思っていた。


「……あー、早く帰ってDIYしてえ」


 俺の生きがいは、休日のホームセンターだ。

 工具、金具、塩ビパイプ、アルミシート、反射材。

 伝説の剣より、そっちの方がよほど胸が躍る。


 とりあえずトイレへ向かい、個室のドアを開けた。


「……は?」


 そこは会社のトイレではなかった。

 見渡す限り草原。風。青空。

 どう考えても異世界だった。


「ブラック企業のトイレのドア、どこでもドアかよ……」


 呆然としていると、近くの農民のおっさんが声をかけてきた。


「あっ兄ちゃん。なにやってるべそんなとこで」

「いや、こっちが聞きたいんですけど……」

「あんた浮浪者か? 変な恰好して」

「いや、まあ、セールで買った安いスーツなんで……」


 話はかみ合わないまま、とりあえずギルドへ行けと言われた。

 登録すれば戸籍がもらえるらしい。

 異世界も意外と役所社会なんだなと思いながら、俺はギルドへ向かった。


 受付嬢に流れるように登録を済まされ、Fランク認定され、支給品の剣を渡され、最初の依頼はスライム1匹。


 草原でぷよぷよしているそれを前に、俺は剣を構えた。


「じゃあ、悪いな」


 振る。

 当たる。

 倒れる。


 倒せはした。


 だが、俺は心の底から思った。


「効率悪すぎるだろこれ……!」


 腕が痛い。筋肉痛になる。重い。

 仕事量の割に消耗がでかすぎる。

 こんなの、休日の午前中に適当に作った治具の方がまだマシだ。


 俺はギルドへ戻るなり、受付嬢にトイレの場所を聞いた。


「えーっとつきあたりをまがって~」

「ありがとうございます。日本帰ります」

「にほん?」


 そして日本へ帰った。



「ホムセン行くしかねえだろ……」


 翌休日。

 俺はホームセンターで資材を買い込んだ。


 アルミシート、反射テープ、塩ビパイプ、収納ケース、バケツ、バッテリー、工具箱、結束バンド、養生テープ、ダクトテープ、サングラス、溶接ヘルメット。


 そのまま家のトイレを開けて、異世界へ戻る。


 村の空き地にブルーシートを広げた。

 ばさっ、と青い布が土の上に落ちる。

 その瞬間、そこだけ急に現場になった。


 コンパネを敷く。

 工具箱を置く。

 ダンボールの裏に書いた設計図を、モンキーレンチで押さえる。


 カチャ。

 ガチャ。

 ギュッ。

 ベリッ。


 異世界の静かな空気の中で、ラチェットの音だけが妙に現実的に響いた。


 胸部は収納ケースの蓋。

 肩は切ったバケツ。

 腕は塩ビパイプとアルミ板。

 関節は結束バンドとガムテープ。

 脚は長靴に反射テープ、腰には延長コード。


 最後に、俺は黒いサングラスをかけた。

 その上から前面を深く下ろせる溶接ヘルメットを被る。


 カチッ。


 顔が隠れた瞬間、一気に人間味が消えた。

 作業員というより、まぶしさに適応した何かになった。


「……よし」


 銀色の腕を持ち上げる。

 ぎち、と鈍い音が鳴った。

 安っぽい。ださい。でも、支給品の剣よりはずっと信用できた。


「なっ……なんだべ、その防具……」


 農民のおっさんの声が震える。


 それもそうだろう。

 目の前にいるのは伝説の騎士でも神に選ばれた勇者でもない。

 青いシートの上で生まれた、ガムテープとアルミ板の工事用金属生命体だ。


「ホムセンマン・プロトタイプです」

「ぷ、ぷろと……?」

「試作機ってことです」


 俺は台車の柄を握った。

 銀色の長靴が土を踏みしめる。


 カチャ、カチャ、と全身が鳴る。


 かっこよさは、たぶんない。

 でも妙に圧があった。

 生活感の塊みたいな見た目なのに、近づきたくない種類の迫力だけはある。


「じゃあ、ギルド行ってきます……」


 青空の下、銀色の不審者が台車を押して歩き出す。


 異世界の勇者譚に、最初の労災案件が投入された瞬間だった。



 ギルドに戻った瞬間、受付嬢が固まった。


「え!? なんですかその恰好!?」

「改良型です」

「どこをどう改良したらそうなるんですか!?」


 モブ冒険者たちもざわつく。


「なんだあの銀色は? 純銀? いやミスリルか?」

「にしても、だっせえ……」

「でも近づきたくはねえな……」


 その時だった。


「おい、56番! てめえ!」


 ギルドの外で怒鳴り声がした。

 奴隷商人らしき男が、猫耳の少女を叩いていた。


「うう……」


 うずくまる少女を見て、俺は思わず歩み寄る。


「大丈夫ですか?」

「なんだ? くそださ鎧やろう」

「まあまあ落ち着きましょうよ」

「おらっ!」


 男が殴ってきた。

 だが、アルミと収納ケースと補強材とダクトテープの塊は、わりと硬かった。


「無傷!?」


「正当防衛だから恨むなよ」


 俺はそのまま奴隷商人をぶん殴った。

 見た目はださいが、質量と補強は裏切らない。


 少女は震えていた。

 名前を聞いても答えなかったので、俺が勝手に決めた。


「じゃあ、お前、みけな」

「……みけ?」

「そう。嫌か?」

「……ううん」


 みけは小さく頷いた。

 それから、俺の後ろをついてくるようになった。



 しばらくして、ギルドに勇者一行が来た。

 勇者と魔法使いの2人組。

 いかにも主役、いかにも正統派、いかにも自分が世界の中心だと思ってそうな男だった。


「おい、荷物持ちは?」

「募集中でして……」

「いねえのかよ!! 王様との会食もあるんだぞ! 決戦はどうすんだよ!」


 受付嬢が困っていたので、俺は手を挙げた。


「あっ、僕でよければ」

「……だっさ。お前、面白いから採用」


 こうして俺とみけは勇者一行に同行した。

 だが、数時間でわかった。

 こいつはろくでもない。


 武勇伝ばかり。

 自分語りばかり。

 やたらと美学を語る。


 俺はみけに、コンビニで買った税込み364円のチョコを渡した。


「食うか?」

「……こんなもの、初めて食べました」

「そうか」


 ほんの少し顔をほころばせたみけを見て、まあ来てよかったかもしれないと思った直後だった。


「てめえ、やっぱダサすぎるわ。俺の美学に反する。あとケモミミ無理。追放」


「は?」

「出て行けよ、カス」


 勇者は本当にそう言った。


 俺は一瞬あっけに取られたが、すぐに頷いた。


「わかりました」


 帰り道、襲ってくる雑魚魔物をプロトタイプで普通に殴り倒しながら、俺はみけを連れてギルドへ戻った。


 そこで聞いた。

 魔王軍との決戦が、もう目前に迫っていると。


 ギルドマスターが厳しい顔で言う。


「王国軍も、勇者連合軍も、北平原に集まり始めておる」

「……プロトタイプでは足りねえな」


 俺は再び日本へ戻った。



「チェンソーでは効率が悪すぎる……いや、違うな」


 俺はダンボールの裏に書いた設計図を見た。

 プロトタイプの図面の横に、赤ペンで何本も修正線が走っている。


 1号案は、作った。

 そしてわかった。

 あれは動く。殴れる。でも、決戦では壊れる。


 関節が弱い。

 ケーブルが危ない。

 熱で死ぬ。

 雨と泥で光が死ぬ。

 台車が悪路で沈む。


「2号は駄目だな。関節が甘い」

「3号も駄目。熱中症で俺が先に死ぬ」

「……だったら4号だ」


 俺は設計図の右上に、でかく書いた。


 mark4


「決戦用完成版。これでいく」


 ホームセンターのカートに、必要な物を次々放り込んでいく。


 蝶番。

 L字ステー。

 ボルトとナット。

 塩ビ継手。

 大容量ポータブル電源。

 コルゲートチューブ。

 インシュロック。

 空調服。

 小型ファン。

 撥水コート。

 高圧洗浄機。

 エンジンブロワ。

 鉄芯入り安全靴。

 悪路対応キャリーワゴン。


「決戦に必要なのは、ロマンじゃない」

「継戦能力だ」



 異世界へ戻ると、農民のおっさんとその奥さんは、みけをすっかり気に入っていた。


「健気ないい子だべ」

「娘にしたいぐらいよ~」


 みけの顔色も、前よりずっとよくなっていた。


「ご主人様、今日も手伝います!」

「頼む」


 ブルーシート工房の上で、俺はプロトタイプを1度ばらした。


 ガムテープで留めていた関節を外す。

 結束バンドを切る。

 甘かった箇所を、全部見直す。


 そこへ、新しい骨格を通していく。


 蝶番。

 L字ステー。

 ボルト。

 ナット。

 塩ビ継手。


 銀色の見た目はそのままに、中身だけが急に工業製品になる。


 背中には、背負子ごと固定した大容量電源。

 ケーブルはコルゲートチューブで保護し、インシュロックで全身に這わせる。

 インナーには空調服。

 ヘルメット内部には小型ファン。

 鏡面板には撥水コート。

 台車は悪路対応ワゴンに換装。

 さらに横へ、高圧洗浄機とブロワを積む。


 最後に、俺はサングラスをかけた。

 その上から溶接ヘルメットを下ろす。


 カチッ。


 プロトタイプにあった安っぽさは残っている。

 だがもう、それは雑さではなく、現場で生き残るための完成度に変わっていた。


 空調服のファンが回り始める。


 ブオオッ。


 背中の電源ユニットが低く唸る。


 ゴウン。


 投光器が、順番に目を覚ます。


 カッ。

 カッ。

 カッ。


「すごいです……ご主人様……!」

「兄ちゃん、前よりもっとヤバくなってるよ!!!」」


「当然だ」


 銀色の装甲が太陽を返す。

 鏡面板が白く光る。

 背中の電源、腰の配線、横のワゴン。


 勇者でも騎士でもない。

 戦場へ行く前に、現場を完成させた者の姿だった。


「ホムセンマン mark4」

「決戦用完成版だ」


「まーくよん?」

「2号と3号は設計だけで捨てた」

「実際に作ったのは、これで2機目だ」


「わかりにくいべ!!」

「設計者にはよくあることです」



 ギルドに戻ると、受付嬢とギルドマスターは揃って頭を抱えた。


「えっ……また増えてる……」

「事故物件が進化しとる……」


 モブ冒険者たちも引いていた。


「なんだあれ……前よりもっとだっせえ……」

「でも今度は本気で近寄りたくねえ……」


「完成版です」

「mark4です!」


「ま、まーくよん……? 2つ目ですよね?」

「はい」

「じゃあなんで4!?」

「2号と3号は図面で死にました」

「嫌すぎる開発史じゃな……」


 その時、伝令が駆け込んできた。


「報告ーっ! 王国軍、北平原へ布陣! 勇者一行も前線入りしました!」


 ギルド全体が緊張に包まれる。

 俺は一言だけ言った。


「じゃあ俺は施工で」

「お前だけ戦争をなんだと思っとるんじゃ」

「工事ですけど」



 北平原の最終決戦は、まさに地獄だった。


 王国軍が横一列に並び、勇者連合軍が前へ出る。

 対する魔王軍は、黒い波のように押し寄せてくる。


 その横で、俺とみけは悪路対応ワゴンを押していた。


「はい、そこ資材置いてー」

「反射板こっちです!」


 兵士たちが目を丸くする。


「な、なにしてるんだお前ら!?」

「見りゃわかるでしょ、施工ですよ」

「決戦中なんだが!?」

「だから決戦仕様にしてるんです」


 意味がわからないという顔をされながらも、俺は投光器を設置した。

 カッ、と強烈な光が走る。


 魔王軍前列が怯み、足を止めた。


「やっぱ光量は正義だな」


 そこへ勇者が振り向いた。


「なっ……お前!?」

「あっ、どうも追放された荷物持ちです」

「なんだその格好!? 前よりひどくなってるじゃねえか!」

「現場対応した結果です」


 さらに反射板を増やし、角度を合わせる。

 3ミリのズレも許さない。

 みけがきっちり補助してくれるのがありがたい。


 試しに魔王軍幹部っぽい黒いのへ照射してみた。


「みけ、試射」

「はい!」


 白い閃光。

 幹部、消滅。


 王国軍全体が静まり返った。


「……今なんかとんでもないことしなかったか!?」

「試射です」

「試射で幹部級が消えるな!!」


 そこからは早かった。

 王国軍が俺を守れと叫び、勇者は前線で時間稼ぎをさせられ、みけは配線と角度調整に走る。


 そして、空気が変わった。


 黒い雲のような圧。

 魔王だった。



「よくぞここまで余を楽しませた、人間ども」


 魔王が現れた瞬間、兵士たちが総崩れになりかけた。

 勇者だけが前へ出る。


「倒す! 俺が、お前を!」

「あっどうぞどうぞ」


 勇者は一瞬だけ変な顔をしたが、そのまま突っ込んでいった。

 俺はその隙に、mark4の施工を始める。


「みけ、斜め鏡面、左右展開」

「はい!」

「足元反射シート」

「固定しました!」

「バッテリー接続」

「接続完了!」

「照準、魔王1点」

「魔王さん、3歩右です!」


 勇者が吹き飛ばされる。


「ぐああっ!」

「勇者様!」

「すみませーん」

「なんだよ!! 今忙しいんだよ!!」

「芯出し終わったんで、そこ退いてもらっていいですか」

「は?」

「そこ照射線上なんで」

「もっと早く言えええええ!!」


 勇者が転がるように退避した、その時だった。


 魔王軍の後方で、軍師らしき男が叫んだ。


「ミラーシールド部隊、前へ! 奴の光を跳ね返せ!!」


 黒い甲冑の兵士たちが、一斉に前へ出る。

 手にしているのは、異様なまでに磨き上げられた盾。

 ミスリルだか鋼だか知らないが、とにかく鏡みたいにぴかぴかだった。


 軍師は勝ち誇ったように笑う。


「フハハ! 己の放った強烈な光で、自らの目を焼かれるがいい!!」


 次の瞬間、ミラーシールド部隊が一斉に盾の角度を変えた。

 反射された白光が、まっすぐ俺の顔面へ返ってくる。


 ギラアアアアアッ!!


 兵士たちが歓声を上げた。


「やった! 顔面に直撃してるぞ!」

「奴の目はもう使い物になら――」


 だが、俺は微動だにしなかった。


 溶接ヘルメットの液晶面が、ピッと反応する。

 光を感知した瞬間、自動遮光フィルターが一気に落ちる。


 視界が、すうっと暗くなった。


「……みけ」

「はい、ご主人様!」

「面が遮光モードに入って、前が全然見えん」

「魔王軍の皆さんが、必死に鏡でこっちに光を当ててきてます!」


 俺はヘルメットの奥で、小さくため息をついた。


「バカなのか? こっちはJIS規格適合の遮光度13だぞ」

「じすきかく?」

「アーク光も防げる。まぶしいんじゃなくて、ただ暗くなるだけだ」


 みけが目を丸くする。


「じゃあ、ご主人様は大丈夫なんですか!?」

「俺はな。問題は前が見えないことだけだ」

「どうしますか?」

「俺は動けない。その代わり、みけが芯出ししてくれ」

「了解です! そのまま! 上下ヨシ! 左右ヨシ!」


 一方、ミラーシールド部隊は地獄を見ていた。


「ぐああっ! 盾が熱い! 持ってられない!」

「目が焼ける! どこだ!? 奴はどこにいる!?」

「前が見えん! 誰だ、俺の足を踏んだのは!」

「少しでも盾の隙間から見たら終わるぞ!!」


 軍師の顔が引きつる。


「な、なぜだ!? なぜ奴は倒れん!?」

「軍師様! 乱反射した光が味方にも!」

「盾が熱を吸っています!」

「隊列が維持できません!」


 完璧な鏡面ではない。

 しかも、相手は超高輝度の塊だ。

 反射しきれなかった分の熱が盾に溜まり、乱反射した光が陣形の中へ降り注ぐ。


 魔王軍兵士たちは次々と目をやられ、熱くなった盾を投げ捨てて後退した。


「ご主人様、正面の鏡部隊、崩れてます!」

「よし。大体わかった」

「どうします!?」

「出力最大」


 俺はポータブル電源のダイヤルを回した。

 背中の電源ユニットが低く唸る。


 ゴウン。


 さらに強い白光が放たれた。

 ついに熱に耐えきれなくなった魔王軍の盾が、じわじわ赤くなり、端から溶け始める。


「ひぃぃぃっ! 盾が!」

「溶けた! 溶けたぞ!!」

「撤退! 撤退だあああ!!」


 軍師は絶望に顔を歪めた。


「ば、馬鹿な……我々が跳ね返した光を、無防備に直視し続けているだと!? 奴の目はどうなっているのだ!?」


 俺は溶接面の奥で鼻を鳴らした。


「現場を舐めるな。こっちは安全衛生込みで組んでるんだよ」


 カチッ。


 ミラーシールド部隊が崩れた瞬間、自動遮光フィルターが明るいモードに戻る。


 視界が開ける。


「……終わったか」

「はい! 相手の盾、なんかドロドロになってました!」

「熱対策もせずに反射なんかするからだ。現場の基本がなってないな」


 みけが元気よく頷く。


「ご主人様、今です! 魔王さん、真正面です!」

「よし」


 俺は鏡面板の角度を最後に1度だけ微調整した。


 魔王の側近たちが叫ぶ。


「魔王様! 敵陣より高エネルギー反応!」

「ほう、勇者の最後の切り札か」

「いえ……魔力ではありません!」

「ならば何だ」

「わかりません! ただ、眩し――」


 白が刺さった。


 光は飛んできたのではない。

 もう届いていた。


「防御を!」

「もう当たっています!」

「転移を!」

「座標が見えません!」

「結界を張れ!」

「結界の外側が先に焼けています!」


 魔王がうめき、影が先に消えた。


「ご主人様、右反射板3度!」

「よし」

「横からも来ます!」

「違う! 反射です!」

「下からも白いぞ!?」

「足元反射! 視界が全部潰されています!」


 みけが叫ぶ。


「ご主人様、照射角固定しました!」

「よし。ホムセンソーラレイ、1点施工」


 白。


 音より先に、光が終わらせた。


 魔王の王冠が赤熱し、黒いマントが形を失い、障壁はガラスみたいに泡立つ。


「これは魔法ではない……施工……!」


 魔王、消滅。


 魔王軍全体に、数秒遅れて恐怖が広がった。


「魔王様がやられたあああああ!!」

「撤退だあああああ!!」


 黒い波のようだった魔王軍が、一気に乱れる。

 前列は立ち止まり、中列は押し合い、後列は何が起きたかもわからないまま逃げ始めた。


 その瞬間だった。


 王国軍隊長が、我に返ったように剣を振り上げる。


「陣形が崩れたぞ!」

「あのダサいやつがやったのか!?」

「総攻撃だ! 全軍突撃! 追撃しろ!!」


 兵士たちが一斉に雄叫びを上げた。


「うおおおおおおおおお!!」


 王国軍が雪崩れ込む。

 さっきまで押されていたはずの兵たちが、今度は逃げる魔王軍を追い立てる側に回っていた。


 勇者も、剣を構えたまま呆然とその光景を見ていた。


「あいつ……なんなんだよ……」


 魔法使いが引きつった顔で答える。


「勇者様……私にも、もうよくわかりません……」


 みけは誇らしげに胸を張る。


「ご主人様です!」

「いや雑すぎるだろ説明が……」


 俺は溶接ヘルメットの縁を指で押し上げ、逃げていく魔王軍の背中を見た。


「まあ、現場を終わらせただけですよ」

「終わらせ方が現場じゃねえんだよ……」



 戦場は、静まり返った。


「……終わった?」

「終わったっぽいな」


 みけが嬉しそうに言う。


「ご主人様、魔王軍が逃げていきます!」

「指揮官落としたからな」


 勇者は呆然としていた。

 魔法使いも、王国軍隊長も、兵士たちも、みんな同じ顔だった。


「……速すぎるだろ」

「光ですから」

「そういう問題か!?」

「そういう問題です」


 やがて、現実が勇者を殴り始めた。


「最大戦果は、あの銀色の……」

「ホムセンマンです!」

「ホムセンマンの者によるものと確認!」


「待て待て待て!! 俺は!?」

「時間稼ぎでした!」

「言い方ァ!!」


 しかも、魔法使いまで言う。


「……実際、時間稼ぎではありました」

「お前まで!?」


 受付嬢も駆けつけてきた。


「追放された荷物持ちが勇者様より活躍して帰ってくるとか……最高じゃないですか……!」

「やめろ!! 俺の前で言うな!!」


 農民夫婦も来た。


「勇者様って聞いてた兄ちゃんより、兄ちゃんの方が勇者っぽかったべ」

「ほんとほんと」


 勇者はもう何も言い返せなかった。


 さらに王国軍隊長が、とどめを刺した。


「では、本戦の功績を記録する。魔王討伐の最大功労者、佐藤殿」

「あっ、どうも」

「補佐、みけ殿」

「えっ、私もですか?」

「そりゃそうだろ。お前いなかったら配線ぐちゃぐちゃだったし」

「ご主人様……!」


 勇者が震えた声で聞く。


「……で、俺は?」


 全員が1度黙ったあと、隊長が言った。


「……時間稼ぎ」

「やめろおおおおおお!!」


 兵士たちが面白がる。


「いい二つ名じゃないですか!」

「時間稼ぎの勇者!」

「魔王を3分止めた男!」


 勇者の悲鳴が、平原に響いた。



「ご主人様、帰りましょう。ホムセン閉まっちゃいます」

「あっ、やべ。特売今日までだった」

「魔王討伐より特売優先!?」


 俺はみけを連れて、いつものドアを開けた。

 向こうには蛍光灯の白い光。消毒液の匂い。そして現実のトイレ。


「帰るぞ。次は省エネ型だ」

「はい、ご主人様!」


 ドアが閉まる。


 背後ではまだ勇者が叫んでいた。


「俺は勇者だあああああ!!」


 その声は、異世界の空にむなしく吸い込まれていった。


 後日、王国の史書にはこう記された。


『魔王討伐戦。

 最大功労者、異界の施工士サトウ。

 補佐、猫耳のみけ。

 勇者、時間稼ぎに大きく貢献』


「……なんか俺の職業変わってるな」

「施工士、かっこいいです!」


 まあいいか、と俺はレシートを見る。


 税込み、78,400円ちょい。


「……ギルドで経費落ちるかな」


 おわり。

          【 魔 王 】

            ▲

            │

          超集束反射光

            │

      \      │     /

      \      │    /

     [斜鏡]  [正面反射]  [斜鏡]

       \     │    /

        \    │   /

         [溶接ヘルメット]

         [サングラス]

         [ サトウ ]

          │

         [ mark4 ]

          │

          [みけ]


みけ「ご主人様! 魔王さん三歩右です!」

俺「よし。芯出し」

勇者「もっと早く言えええええ!!」

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