【AAつき】勇者に「ダサい」と追放されたので、ホムセン装備で魔王を一点施工した
AAがあとがきのほうについてます。スマホで見るとずれてるかもしれません。そこはスマソ。
ブラック企業のトイレのドアが、どこでもドアだった。
それが俺の異世界転移の始まりである。
今日も仕事はだるかった。
朝から上司はうるさいし、客は無茶を言うし、会議は長いし、定時後に仕事を増やすなと心の底から思っていた。
「……あー、早く帰ってDIYしてえ」
俺の生きがいは、休日のホームセンターだ。
工具、金具、塩ビパイプ、アルミシート、反射材。
伝説の剣より、そっちの方がよほど胸が躍る。
とりあえずトイレへ向かい、個室のドアを開けた。
「……は?」
そこは会社のトイレではなかった。
見渡す限り草原。風。青空。
どう考えても異世界だった。
「ブラック企業のトイレのドア、どこでもドアかよ……」
呆然としていると、近くの農民のおっさんが声をかけてきた。
「あっ兄ちゃん。なにやってるべそんなとこで」
「いや、こっちが聞きたいんですけど……」
「あんた浮浪者か? 変な恰好して」
「いや、まあ、セールで買った安いスーツなんで……」
話はかみ合わないまま、とりあえずギルドへ行けと言われた。
登録すれば戸籍がもらえるらしい。
異世界も意外と役所社会なんだなと思いながら、俺はギルドへ向かった。
受付嬢に流れるように登録を済まされ、Fランク認定され、支給品の剣を渡され、最初の依頼はスライム1匹。
草原でぷよぷよしているそれを前に、俺は剣を構えた。
「じゃあ、悪いな」
振る。
当たる。
倒れる。
倒せはした。
だが、俺は心の底から思った。
「効率悪すぎるだろこれ……!」
腕が痛い。筋肉痛になる。重い。
仕事量の割に消耗がでかすぎる。
こんなの、休日の午前中に適当に作った治具の方がまだマシだ。
俺はギルドへ戻るなり、受付嬢にトイレの場所を聞いた。
「えーっとつきあたりをまがって~」
「ありがとうございます。日本帰ります」
「にほん?」
そして日本へ帰った。
◇
「ホムセン行くしかねえだろ……」
翌休日。
俺はホームセンターで資材を買い込んだ。
アルミシート、反射テープ、塩ビパイプ、収納ケース、バケツ、バッテリー、工具箱、結束バンド、養生テープ、ダクトテープ、サングラス、溶接ヘルメット。
そのまま家のトイレを開けて、異世界へ戻る。
村の空き地にブルーシートを広げた。
ばさっ、と青い布が土の上に落ちる。
その瞬間、そこだけ急に現場になった。
コンパネを敷く。
工具箱を置く。
ダンボールの裏に書いた設計図を、モンキーレンチで押さえる。
カチャ。
ガチャ。
ギュッ。
ベリッ。
異世界の静かな空気の中で、ラチェットの音だけが妙に現実的に響いた。
胸部は収納ケースの蓋。
肩は切ったバケツ。
腕は塩ビパイプとアルミ板。
関節は結束バンドとガムテープ。
脚は長靴に反射テープ、腰には延長コード。
最後に、俺は黒いサングラスをかけた。
その上から前面を深く下ろせる溶接ヘルメットを被る。
カチッ。
顔が隠れた瞬間、一気に人間味が消えた。
作業員というより、まぶしさに適応した何かになった。
「……よし」
銀色の腕を持ち上げる。
ぎち、と鈍い音が鳴った。
安っぽい。ださい。でも、支給品の剣よりはずっと信用できた。
「なっ……なんだべ、その防具……」
農民のおっさんの声が震える。
それもそうだろう。
目の前にいるのは伝説の騎士でも神に選ばれた勇者でもない。
青いシートの上で生まれた、ガムテープとアルミ板の工事用金属生命体だ。
「ホムセンマン・プロトタイプです」
「ぷ、ぷろと……?」
「試作機ってことです」
俺は台車の柄を握った。
銀色の長靴が土を踏みしめる。
カチャ、カチャ、と全身が鳴る。
かっこよさは、たぶんない。
でも妙に圧があった。
生活感の塊みたいな見た目なのに、近づきたくない種類の迫力だけはある。
「じゃあ、ギルド行ってきます……」
青空の下、銀色の不審者が台車を押して歩き出す。
異世界の勇者譚に、最初の労災案件が投入された瞬間だった。
◇
ギルドに戻った瞬間、受付嬢が固まった。
「え!? なんですかその恰好!?」
「改良型です」
「どこをどう改良したらそうなるんですか!?」
モブ冒険者たちもざわつく。
「なんだあの銀色は? 純銀? いやミスリルか?」
「にしても、だっせえ……」
「でも近づきたくはねえな……」
その時だった。
「おい、56番! てめえ!」
ギルドの外で怒鳴り声がした。
奴隷商人らしき男が、猫耳の少女を叩いていた。
「うう……」
うずくまる少女を見て、俺は思わず歩み寄る。
「大丈夫ですか?」
「なんだ? くそださ鎧やろう」
「まあまあ落ち着きましょうよ」
「おらっ!」
男が殴ってきた。
だが、アルミと収納ケースと補強材とダクトテープの塊は、わりと硬かった。
「無傷!?」
「正当防衛だから恨むなよ」
俺はそのまま奴隷商人をぶん殴った。
見た目はださいが、質量と補強は裏切らない。
少女は震えていた。
名前を聞いても答えなかったので、俺が勝手に決めた。
「じゃあ、お前、みけな」
「……みけ?」
「そう。嫌か?」
「……ううん」
みけは小さく頷いた。
それから、俺の後ろをついてくるようになった。
◇
しばらくして、ギルドに勇者一行が来た。
勇者と魔法使いの2人組。
いかにも主役、いかにも正統派、いかにも自分が世界の中心だと思ってそうな男だった。
「おい、荷物持ちは?」
「募集中でして……」
「いねえのかよ!! 王様との会食もあるんだぞ! 決戦はどうすんだよ!」
受付嬢が困っていたので、俺は手を挙げた。
「あっ、僕でよければ」
「……だっさ。お前、面白いから採用」
こうして俺とみけは勇者一行に同行した。
だが、数時間でわかった。
こいつはろくでもない。
武勇伝ばかり。
自分語りばかり。
やたらと美学を語る。
俺はみけに、コンビニで買った税込み364円のチョコを渡した。
「食うか?」
「……こんなもの、初めて食べました」
「そうか」
ほんの少し顔をほころばせたみけを見て、まあ来てよかったかもしれないと思った直後だった。
「てめえ、やっぱダサすぎるわ。俺の美学に反する。あとケモミミ無理。追放」
「は?」
「出て行けよ、カス」
勇者は本当にそう言った。
俺は一瞬あっけに取られたが、すぐに頷いた。
「わかりました」
帰り道、襲ってくる雑魚魔物をプロトタイプで普通に殴り倒しながら、俺はみけを連れてギルドへ戻った。
そこで聞いた。
魔王軍との決戦が、もう目前に迫っていると。
ギルドマスターが厳しい顔で言う。
「王国軍も、勇者連合軍も、北平原に集まり始めておる」
「……プロトタイプでは足りねえな」
俺は再び日本へ戻った。
◇
「チェンソーでは効率が悪すぎる……いや、違うな」
俺はダンボールの裏に書いた設計図を見た。
プロトタイプの図面の横に、赤ペンで何本も修正線が走っている。
1号案は、作った。
そしてわかった。
あれは動く。殴れる。でも、決戦では壊れる。
関節が弱い。
ケーブルが危ない。
熱で死ぬ。
雨と泥で光が死ぬ。
台車が悪路で沈む。
「2号は駄目だな。関節が甘い」
「3号も駄目。熱中症で俺が先に死ぬ」
「……だったら4号だ」
俺は設計図の右上に、でかく書いた。
mark4
「決戦用完成版。これでいく」
ホームセンターのカートに、必要な物を次々放り込んでいく。
蝶番。
L字ステー。
ボルトとナット。
塩ビ継手。
大容量ポータブル電源。
コルゲートチューブ。
インシュロック。
空調服。
小型ファン。
撥水コート。
高圧洗浄機。
エンジンブロワ。
鉄芯入り安全靴。
悪路対応キャリーワゴン。
「決戦に必要なのは、ロマンじゃない」
「継戦能力だ」
◇
異世界へ戻ると、農民のおっさんとその奥さんは、みけをすっかり気に入っていた。
「健気ないい子だべ」
「娘にしたいぐらいよ~」
みけの顔色も、前よりずっとよくなっていた。
「ご主人様、今日も手伝います!」
「頼む」
ブルーシート工房の上で、俺はプロトタイプを1度ばらした。
ガムテープで留めていた関節を外す。
結束バンドを切る。
甘かった箇所を、全部見直す。
そこへ、新しい骨格を通していく。
蝶番。
L字ステー。
ボルト。
ナット。
塩ビ継手。
銀色の見た目はそのままに、中身だけが急に工業製品になる。
背中には、背負子ごと固定した大容量電源。
ケーブルはコルゲートチューブで保護し、インシュロックで全身に這わせる。
インナーには空調服。
ヘルメット内部には小型ファン。
鏡面板には撥水コート。
台車は悪路対応ワゴンに換装。
さらに横へ、高圧洗浄機とブロワを積む。
最後に、俺はサングラスをかけた。
その上から溶接ヘルメットを下ろす。
カチッ。
プロトタイプにあった安っぽさは残っている。
だがもう、それは雑さではなく、現場で生き残るための完成度に変わっていた。
空調服のファンが回り始める。
ブオオッ。
背中の電源ユニットが低く唸る。
ゴウン。
投光器が、順番に目を覚ます。
カッ。
カッ。
カッ。
「すごいです……ご主人様……!」
「兄ちゃん、前よりもっとヤバくなってるよ!!!」」
「当然だ」
銀色の装甲が太陽を返す。
鏡面板が白く光る。
背中の電源、腰の配線、横のワゴン。
勇者でも騎士でもない。
戦場へ行く前に、現場を完成させた者の姿だった。
「ホムセンマン mark4」
「決戦用完成版だ」
「まーくよん?」
「2号と3号は設計だけで捨てた」
「実際に作ったのは、これで2機目だ」
「わかりにくいべ!!」
「設計者にはよくあることです」
◇
ギルドに戻ると、受付嬢とギルドマスターは揃って頭を抱えた。
「えっ……また増えてる……」
「事故物件が進化しとる……」
モブ冒険者たちも引いていた。
「なんだあれ……前よりもっとだっせえ……」
「でも今度は本気で近寄りたくねえ……」
「完成版です」
「mark4です!」
「ま、まーくよん……? 2つ目ですよね?」
「はい」
「じゃあなんで4!?」
「2号と3号は図面で死にました」
「嫌すぎる開発史じゃな……」
その時、伝令が駆け込んできた。
「報告ーっ! 王国軍、北平原へ布陣! 勇者一行も前線入りしました!」
ギルド全体が緊張に包まれる。
俺は一言だけ言った。
「じゃあ俺は施工で」
「お前だけ戦争をなんだと思っとるんじゃ」
「工事ですけど」
◇
北平原の最終決戦は、まさに地獄だった。
王国軍が横一列に並び、勇者連合軍が前へ出る。
対する魔王軍は、黒い波のように押し寄せてくる。
その横で、俺とみけは悪路対応ワゴンを押していた。
「はい、そこ資材置いてー」
「反射板こっちです!」
兵士たちが目を丸くする。
「な、なにしてるんだお前ら!?」
「見りゃわかるでしょ、施工ですよ」
「決戦中なんだが!?」
「だから決戦仕様にしてるんです」
意味がわからないという顔をされながらも、俺は投光器を設置した。
カッ、と強烈な光が走る。
魔王軍前列が怯み、足を止めた。
「やっぱ光量は正義だな」
そこへ勇者が振り向いた。
「なっ……お前!?」
「あっ、どうも追放された荷物持ちです」
「なんだその格好!? 前よりひどくなってるじゃねえか!」
「現場対応した結果です」
さらに反射板を増やし、角度を合わせる。
3ミリのズレも許さない。
みけがきっちり補助してくれるのがありがたい。
試しに魔王軍幹部っぽい黒いのへ照射してみた。
「みけ、試射」
「はい!」
白い閃光。
幹部、消滅。
王国軍全体が静まり返った。
「……今なんかとんでもないことしなかったか!?」
「試射です」
「試射で幹部級が消えるな!!」
そこからは早かった。
王国軍が俺を守れと叫び、勇者は前線で時間稼ぎをさせられ、みけは配線と角度調整に走る。
そして、空気が変わった。
黒い雲のような圧。
魔王だった。
◇
「よくぞここまで余を楽しませた、人間ども」
魔王が現れた瞬間、兵士たちが総崩れになりかけた。
勇者だけが前へ出る。
「倒す! 俺が、お前を!」
「あっどうぞどうぞ」
勇者は一瞬だけ変な顔をしたが、そのまま突っ込んでいった。
俺はその隙に、mark4の施工を始める。
「みけ、斜め鏡面、左右展開」
「はい!」
「足元反射シート」
「固定しました!」
「バッテリー接続」
「接続完了!」
「照準、魔王1点」
「魔王さん、3歩右です!」
勇者が吹き飛ばされる。
「ぐああっ!」
「勇者様!」
「すみませーん」
「なんだよ!! 今忙しいんだよ!!」
「芯出し終わったんで、そこ退いてもらっていいですか」
「は?」
「そこ照射線上なんで」
「もっと早く言えええええ!!」
勇者が転がるように退避した、その時だった。
魔王軍の後方で、軍師らしき男が叫んだ。
「ミラーシールド部隊、前へ! 奴の光を跳ね返せ!!」
黒い甲冑の兵士たちが、一斉に前へ出る。
手にしているのは、異様なまでに磨き上げられた盾。
ミスリルだか鋼だか知らないが、とにかく鏡みたいにぴかぴかだった。
軍師は勝ち誇ったように笑う。
「フハハ! 己の放った強烈な光で、自らの目を焼かれるがいい!!」
次の瞬間、ミラーシールド部隊が一斉に盾の角度を変えた。
反射された白光が、まっすぐ俺の顔面へ返ってくる。
ギラアアアアアッ!!
兵士たちが歓声を上げた。
「やった! 顔面に直撃してるぞ!」
「奴の目はもう使い物になら――」
だが、俺は微動だにしなかった。
溶接ヘルメットの液晶面が、ピッと反応する。
光を感知した瞬間、自動遮光フィルターが一気に落ちる。
視界が、すうっと暗くなった。
「……みけ」
「はい、ご主人様!」
「面が遮光モードに入って、前が全然見えん」
「魔王軍の皆さんが、必死に鏡でこっちに光を当ててきてます!」
俺はヘルメットの奥で、小さくため息をついた。
「バカなのか? こっちはJIS規格適合の遮光度13だぞ」
「じすきかく?」
「アーク光も防げる。まぶしいんじゃなくて、ただ暗くなるだけだ」
みけが目を丸くする。
「じゃあ、ご主人様は大丈夫なんですか!?」
「俺はな。問題は前が見えないことだけだ」
「どうしますか?」
「俺は動けない。その代わり、みけが芯出ししてくれ」
「了解です! そのまま! 上下ヨシ! 左右ヨシ!」
一方、ミラーシールド部隊は地獄を見ていた。
「ぐああっ! 盾が熱い! 持ってられない!」
「目が焼ける! どこだ!? 奴はどこにいる!?」
「前が見えん! 誰だ、俺の足を踏んだのは!」
「少しでも盾の隙間から見たら終わるぞ!!」
軍師の顔が引きつる。
「な、なぜだ!? なぜ奴は倒れん!?」
「軍師様! 乱反射した光が味方にも!」
「盾が熱を吸っています!」
「隊列が維持できません!」
完璧な鏡面ではない。
しかも、相手は超高輝度の塊だ。
反射しきれなかった分の熱が盾に溜まり、乱反射した光が陣形の中へ降り注ぐ。
魔王軍兵士たちは次々と目をやられ、熱くなった盾を投げ捨てて後退した。
「ご主人様、正面の鏡部隊、崩れてます!」
「よし。大体わかった」
「どうします!?」
「出力最大」
俺はポータブル電源のダイヤルを回した。
背中の電源ユニットが低く唸る。
ゴウン。
さらに強い白光が放たれた。
ついに熱に耐えきれなくなった魔王軍の盾が、じわじわ赤くなり、端から溶け始める。
「ひぃぃぃっ! 盾が!」
「溶けた! 溶けたぞ!!」
「撤退! 撤退だあああ!!」
軍師は絶望に顔を歪めた。
「ば、馬鹿な……我々が跳ね返した光を、無防備に直視し続けているだと!? 奴の目はどうなっているのだ!?」
俺は溶接面の奥で鼻を鳴らした。
「現場を舐めるな。こっちは安全衛生込みで組んでるんだよ」
カチッ。
ミラーシールド部隊が崩れた瞬間、自動遮光フィルターが明るいモードに戻る。
視界が開ける。
「……終わったか」
「はい! 相手の盾、なんかドロドロになってました!」
「熱対策もせずに反射なんかするからだ。現場の基本がなってないな」
みけが元気よく頷く。
「ご主人様、今です! 魔王さん、真正面です!」
「よし」
俺は鏡面板の角度を最後に1度だけ微調整した。
魔王の側近たちが叫ぶ。
「魔王様! 敵陣より高エネルギー反応!」
「ほう、勇者の最後の切り札か」
「いえ……魔力ではありません!」
「ならば何だ」
「わかりません! ただ、眩し――」
白が刺さった。
光は飛んできたのではない。
もう届いていた。
「防御を!」
「もう当たっています!」
「転移を!」
「座標が見えません!」
「結界を張れ!」
「結界の外側が先に焼けています!」
魔王がうめき、影が先に消えた。
「ご主人様、右反射板3度!」
「よし」
「横からも来ます!」
「違う! 反射です!」
「下からも白いぞ!?」
「足元反射! 視界が全部潰されています!」
みけが叫ぶ。
「ご主人様、照射角固定しました!」
「よし。ホムセンソーラレイ、1点施工」
白。
音より先に、光が終わらせた。
魔王の王冠が赤熱し、黒いマントが形を失い、障壁はガラスみたいに泡立つ。
「これは魔法ではない……施工……!」
魔王、消滅。
魔王軍全体に、数秒遅れて恐怖が広がった。
「魔王様がやられたあああああ!!」
「撤退だあああああ!!」
黒い波のようだった魔王軍が、一気に乱れる。
前列は立ち止まり、中列は押し合い、後列は何が起きたかもわからないまま逃げ始めた。
その瞬間だった。
王国軍隊長が、我に返ったように剣を振り上げる。
「陣形が崩れたぞ!」
「あのダサいやつがやったのか!?」
「総攻撃だ! 全軍突撃! 追撃しろ!!」
兵士たちが一斉に雄叫びを上げた。
「うおおおおおおおおお!!」
王国軍が雪崩れ込む。
さっきまで押されていたはずの兵たちが、今度は逃げる魔王軍を追い立てる側に回っていた。
勇者も、剣を構えたまま呆然とその光景を見ていた。
「あいつ……なんなんだよ……」
魔法使いが引きつった顔で答える。
「勇者様……私にも、もうよくわかりません……」
みけは誇らしげに胸を張る。
「ご主人様です!」
「いや雑すぎるだろ説明が……」
俺は溶接ヘルメットの縁を指で押し上げ、逃げていく魔王軍の背中を見た。
「まあ、現場を終わらせただけですよ」
「終わらせ方が現場じゃねえんだよ……」
◇
戦場は、静まり返った。
「……終わった?」
「終わったっぽいな」
みけが嬉しそうに言う。
「ご主人様、魔王軍が逃げていきます!」
「指揮官落としたからな」
勇者は呆然としていた。
魔法使いも、王国軍隊長も、兵士たちも、みんな同じ顔だった。
「……速すぎるだろ」
「光ですから」
「そういう問題か!?」
「そういう問題です」
やがて、現実が勇者を殴り始めた。
「最大戦果は、あの銀色の……」
「ホムセンマンです!」
「ホムセンマンの者によるものと確認!」
「待て待て待て!! 俺は!?」
「時間稼ぎでした!」
「言い方ァ!!」
しかも、魔法使いまで言う。
「……実際、時間稼ぎではありました」
「お前まで!?」
受付嬢も駆けつけてきた。
「追放された荷物持ちが勇者様より活躍して帰ってくるとか……最高じゃないですか……!」
「やめろ!! 俺の前で言うな!!」
農民夫婦も来た。
「勇者様って聞いてた兄ちゃんより、兄ちゃんの方が勇者っぽかったべ」
「ほんとほんと」
勇者はもう何も言い返せなかった。
さらに王国軍隊長が、とどめを刺した。
「では、本戦の功績を記録する。魔王討伐の最大功労者、佐藤殿」
「あっ、どうも」
「補佐、みけ殿」
「えっ、私もですか?」
「そりゃそうだろ。お前いなかったら配線ぐちゃぐちゃだったし」
「ご主人様……!」
勇者が震えた声で聞く。
「……で、俺は?」
全員が1度黙ったあと、隊長が言った。
「……時間稼ぎ」
「やめろおおおおおお!!」
兵士たちが面白がる。
「いい二つ名じゃないですか!」
「時間稼ぎの勇者!」
「魔王を3分止めた男!」
勇者の悲鳴が、平原に響いた。
◇
「ご主人様、帰りましょう。ホムセン閉まっちゃいます」
「あっ、やべ。特売今日までだった」
「魔王討伐より特売優先!?」
俺はみけを連れて、いつものドアを開けた。
向こうには蛍光灯の白い光。消毒液の匂い。そして現実のトイレ。
「帰るぞ。次は省エネ型だ」
「はい、ご主人様!」
ドアが閉まる。
背後ではまだ勇者が叫んでいた。
「俺は勇者だあああああ!!」
その声は、異世界の空にむなしく吸い込まれていった。
後日、王国の史書にはこう記された。
『魔王討伐戦。
最大功労者、異界の施工士サトウ。
補佐、猫耳のみけ。
勇者、時間稼ぎに大きく貢献』
「……なんか俺の職業変わってるな」
「施工士、かっこいいです!」
まあいいか、と俺はレシートを見る。
税込み、78,400円ちょい。
「……ギルドで経費落ちるかな」
おわり。
【 魔 王 】
▲
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超集束反射光
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[斜鏡] [正面反射] [斜鏡]
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[溶接ヘルメット]
[サングラス]
[ サトウ ]
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[ mark4 ]
│
[みけ]
みけ「ご主人様! 魔王さん三歩右です!」
俺「よし。芯出し」
勇者「もっと早く言えええええ!!」




