第19話 番外編
世界に平和が戻ってから、しばらくの月日が流れた。
王都では復興が進み、魔王城にも穏やかな風が吹き抜けていた。
その日、デュンケルハイトのもとへ、王国から急ぎの使いがやって来た。
「リヒト王子より、“至急見せたいものがある”とのことです。」
デュンケルハイトはポナを腕に抱えながら首をかしげる。
「……何の用だ、あいつは。」
ポナが「クゥ?」と鳴き、首をかしげて真似をした。
リヒトが待っていたのは、王宮の奥深くにある古文書室だった。
机の上には、古びた布と一冊の書物が置かれている。
「デュンケルハイトさん。これ……あなたに関係があるかもしれません。」
デュンケルハイトは眉をひそめ、静かに本を開いた。
そこには――25年前の出来事が記されていた。
『王家に生まれた第一子、行方不明』
『森に捨てられた可能性』
『黒髪・青い瞳。強い魔力反応』
ページをめくるたび、デュンケルハイトの表情が固まっていく。
「これは……」
リヒトは小さく息を飲んだ。
「年齢も、特徴も……全部、あなたに一致してる。そしてこれ――」
彼が布を広げると、王家の紋章が描かれていた。
魔王城の倉庫で見つかったという、その布切れは――
デュンケルハイトが赤子のときに包まれていたものと同じだった。
「……まさか。」
デュンケルハイトが呟く。
「リヒト。まさか、私は――」
リヒトは静かにうなずいた。
「うん。……僕の兄さん。」
沈黙が落ちた。
その沈黙を破ったのは、ポナの「クゥ!」という明るい声だった。
デュンケルハイトはゆっくりと視線を落とす。
「……私に、“血のつながった家族”がいたのか。」
それは、前魔王に拾われて以来、ずっと胸の奥にしまい込んでいた願いだった。
誰かと血がつながっているという実感が、胸を震わせる。
リヒトは照れくさそうに笑った。
「実は……どこか父に似てると思ってたんだ。目の色とか、ちょっとした雰囲気とかさ。兄さんがいたら、きっとこんな感じなんだろうなってずっと思ってた。」
「……そうか。」
デュンケルハイトは目を細め、ゆっくりと息を吐いた。
「リヒト。これから、どうする?」
「どうするも何も……兄さんでしょ?これからも普通に会いに行くし、兄さんが迷惑でも押しかけるよ。」
「……騒がしい弟だ。」
しかしその声音には、僅かな笑みが混じっていた。
ポナが二人の肩を行ったり来たりして鳴く。
「クゥ♪」
兄弟としての新しい時間が、静かに始まっていく。
魔王と王子――立場が違う二人が、実は血を分けた兄弟だったという真実は、すぐには国には広まらない。
だが、それでよかった。
「家族」として過ごす時間は、誰かに見せるためのものではなく、ただ静かに、確かに二人の心を満たしていくものだった。
デュンケルハイトは空を見上げ、そっと呟く。
「……悪くないな。弟という存在は。」
「兄さん、それ褒めてる?」
「さあな。」
二人の笑い声が響き、ポナが嬉しそうに鳴いた。
読んでいただきありがとうございます。
本編にいれられなかった設定です。次回、最後の番外編を更新予定です。
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