第16話
悪魔が消滅し、闇の圧が晴れたことで、
戦場を覆っていた黒い霧はゆっくりと薄れていった。
けれど、まだ終わりではない。
ジュルが空を見上げてつぶやく。
「……人間たちが、まだ互いを“敵”だと思ったままだ。」
リヒトが頷く。
「悪魔が残した洗脳は、完全には消えていません。このままでは、憎しみがぶり返して戦争が続いてしまいます。」
デュンケルハイトがポナを下ろし、片膝をついた。
「ポナ……もう一度、力を貸してほしい。この世界の争いを止めるには、おまえの力が必要なんだ。」
ポナは一度だけ瞬きをし、次の瞬間、覚悟を決めたように鳴いた。
「……クゥ!!」
その小さな声はまるで「任せて」と言っているようだった。
戦場となった場所で、二つの国の兵がにらみ合っていた。
両軍とも目に焦点がなく、悪魔の呪いに囚われたように怒りだけを燃やしている。
リヒトが叫ぶ。
「もうやめてください!あなたたちの“敵”は、目の前の人ではありません!」
だが、洗脳された兵士たちには届かない。
剣が抜かれ、空気が張り詰める。
そのとき――
ポナが一歩、また一歩と、兵士たちのもとへ歩み出た。
ポナの身体からあふれた暖かな光が霧のように広がり、兵士たち一人一人の胸へと吸い込まれていく。
光が触れた瞬間、兵たちの瞳に揺らぎが生まれる。
「……俺は……何を……?」
「どうして……剣を……?」
兵士たちは次々と崩れ落ち、怒りの奔流が溶けるように静まり返っていった。
ジュルが感嘆の息を漏らす。
「すごいな……こんなに広範囲に……!」
デュンケルハイトは静かに見守りながら言った。
「ポナの“浄化”は怨念だけでなく、心の曇りすら晴らす力。これで、全員が正気に戻るだろう。」
両国の将軍たちも光に包まれ、戦う意味を見失ったように剣を落とした。
「……いつの間に、我々は戦争に……?」
「民が傷つくだけだ……我らは何をしていた……」
ジュルが前へ進み、力強く声をあげる。
「悪魔の力によって、皆は洗脳されていたんだ。
その憎しみは“本来のあんたらの心”ではない。」
続いてリヒトが宣言する。
「もう争う必要はありません。
この戦いは、今日ここで終わりにしましょう。」
将軍たちは長く黙り合い、そして――ゆっくりと頷き合った。
「……意味も分からず続けていた、この争いを終わらせよう。」
「これ以上の犠牲は出せぬ。」
その言葉に、兵たちも次々と武器を置く。
ポナは疲れたようにふわりと座り込んだが、その顔はどこか誇らしげだった。
「クゥ……」
デュンケルハイトがポナを抱き上げ、優しく頭を撫でる。
「ポナ。よくやったな……世界を救ってくれた。」
リヒトとジュルも穏やかに微笑んだ。
こうして、長く続いた戦争は終わりを迎え、世界にようやく平和が戻り始めたのだった。
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