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07:魔力測定

 私は宿屋に戻り、グランと共に王宮所有の馬車に乗った。

 王宮に向かう馬車の中で、私はリベルタに来るまでの経緯を包み隠さず話した。

 すると、セルジュ様は同情を示した後で、私の魔力測定をしたいと言った。


 セルジュ様の指示に従い、馬車は宮殿の南方に聳える建物の前に到着した。

 王立魔導院とは、国内全ての主要都市に支部を持つ宮廷魔導師団の総本部。


 かつて古代神殿だったというその建物は、威圧感すら覚える荘厳さをたたえていた。

 巨石の柱には古代文字が刻まれ、女神や聖獣を模した彫像が並び立つ。

 アーチ状の天井には見事な星辰図が描かれており、できることならじっくり鑑賞してみたいと思った。


 もっとも、そんな機会は多分、二度と訪れない。

 王立魔導院は国家機密すら扱う最先端の魔法研究機関。

 本来であれば、私のような一般人が足を踏み入れてよい場所ではないのだ。


「ここが魔力測定室だ。入ってくれ」

 右手に並ぶ扉の一つの前で、セルジュ様は足を止めた。


「はい」

 セルジュ様に続いて入室すると、虹色に光る長方形の水晶板が部屋の中央で浮いていた。

 水晶板の周囲には魔法陣があり、魔法陣が放つ光が部屋を複雑な色に染めている。

 水晶板の傍には赤や黒のローブを纏った宮廷魔導師たちが立っていた。

 黒のローブは『修行中の魔導師見習い』で、赤は一流の『魔導師』を示すらしい。


「水晶板の前で手をかざしてください」

 黒のローブを着た女性が言った。


「はい。グラン、ちょっと待っててね」

 私は肩に乗っている竜を床に下ろし、水晶板の前に立った。

 しかし、いくら経っても何の反応も起きない。

 まるで選定式の再現だ。

 あのときは水晶板ではなく、水盤に手をかざしたのだけれど。


「……これ以上は時間の無駄のようですね。もう手を下ろしていいですよ、フィオレットさん」

 赤いローブを着た女性が人差し指でクイっと眼鏡を持ち上げ、水晶板の近くにある金属板のようなものを見て言った。


「測定結果が出ました。フィオレットさんの魔力値は『0』です」

 ざわつきが起きた。

 宮廷魔導師たちが次々に近寄り、水晶板の記録装置らしき金属板を覗き込む。


「ありえない。魔力反応が、全くないだと? 魔力回路そのものが存在していない……いや、極端に非活性なのか?」

「ノミよりも小さな虫の魔力さえ捉える最新式の測定器が無反応とは……凄いな。『魔力無し』が現れたのは二百年ぶりではないか?」

「でも、どういうことなの? 『魔力無し』が生まれたという報告は上がっていないわ」

「恐らくは彼女の両親による見栄だろう。身内から『魔力無し』が出たと知られたくなくて、神官を買収したのさ。公式記録を改竄しようとする奴は意外といるんだよ。嘆かわしいことにね」

「……王子。これなら、いけるかもしれません」

 赤ローブを着た宮廷魔導師の男性がセルジュ様に一歩近づき、小声で言った。


「そうだな。試してみる価値はありそうだ。彼女が現れたのは女神の導きかもしれない――」

「おい、何の話をしている?」

 部屋の隅で私と一緒に待機していたグランが飛び上がり、内緒話中のセルジュ様たちの間に割って入った。


「わあ!」

 赤ローブの宮廷魔導師は仰け反った。

 セルジュ様もさすがに驚いたらしく、一歩足を引いている。


「つまらぬ企みでフィーを害そうとするなら許さんぞ。王宮ごと焼き払ってくれる――」

「グラン、待って! 落ち着いて!! 神竜が絶対言っては駄目な台詞よそれ!!」

 私は慌てて駆け寄り、グランを抱きしめて深々と頭を下げた。


「大変申し訳ありませんでした。どうか、不敬罪の罰は私だけに……」

「顔を上げてくれ。罰を与えるつもりはない。こちらこそ、誤解されるような言い方をして悪かった。私にフィオレット嬢を害するつもりはないよ」

「セルジュ様。お茶のご用意ができました。お話の続きは、別室でされてはいかがでしょう?」

 タイミングを見計らったかのように、黒のローブを着た女性が言った。


「ありがとう。そうさせてもらうとしよう」

 私たちは黒のローブを纏った女性に案内され、別室に向かった。

 どうやらここは応接室らしく、立派な長椅子とテーブルがある。

 テーブルの上には湯気の立てる紅茶と、焼き菓子が置いてあった。

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