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04:幼竜グランとの出会い

 転生先の卵はすぐ近くにある――という話だったはずだが。


「――全っ然、近くじゃなかったじゃないですか……」

 三時間後。

 私は息を切らしつつ、山の中腹に立っていた。

 竜の霊の案内に従い、道なき道を強引に進んできたせいで、お仕着せはボロボロ。

 腕も足も傷だらけ。

 木の枝で引っ掛けた右頬にも一本の赤い筋ができている。


 それでも、魔物に襲われなかっただけ幸運だった。

 竜の霊が周りを警戒し、危険なときは警告してくれたおかげだ。


 ――ふむ。我ならひとっとびの距離だったんだがな。


「お忘れかもしれませんが、人間には翼がないんですよ。私が風の魔法を使えれば良かったんですけどね……」

 ぜえはあと、息を切らしながら言う。


 ――ないものねだりをしても仕方あるまい。目的地はもうすぐ、右手に見えるあの大きな木の根元だ。立ち止まらずに進め。


「はい……」

 ぐうぅ。

 森に成っていた小さな木の実しか食べていないお腹が、抗議するように鳴っている。

 今日はお昼を食べ損ねた。

 空腹を気力で無視して歩き続け、私は大きな木の根元で止まった。

 木の根元には淡く虹色に輝く卵があった。

 一抱えもありそうな大きさの卵だ。


「わあ……綺麗」

 神秘的な光を放つ卵を見て、思わず感嘆の息が漏れる。


 ――人間が竜の卵殻に高い価値を見出す理由がわかっただろう。


 私はハッとした。

 そうだ、竜の卵殻は装飾品として高く売れるんだ!!

 ちなみに、人間の手で調教可能な段階にある生まれたての竜には卵殻どころではない、とんでもない値がつく。それこそ、家が買えるくらいの値段だ。

 でも、もちろん私に竜を売る気はない。

 そんなことしたら信頼関係ぶち壊し。その場で殺されても文句言えません。


「……あの。ご存じの通り、いまの私は無一文でして……竜さんが無事に生まれた後、卵殻を売っても良いでしょうか……」

 胸の前で両手を組み、私は懇願した。

 

 ――……。不本意だが、許してやる。


「ありがとうございますっ!! この御恩は一生忘れませんっ!!」

 私は深々と頭を下げた。

 良かった、これでお腹いっぱい食べられる!

 ふかふかのベッドで寝られる!

 旅に出ることだってできる、それこそ、憧れの王都リゼルタにだって行けるんだ!!


 ――わかったから、早く我に名をつけろ。まさか、これだけ時間があって、まだ考えていないとは言うまいな?


 溢れる涙をハンカチで拭っている私に、竜の霊が言った。


「もちろん、言いません。ここに辿り着くまでの道中、一生懸命考えました。気に入ってくださると良いのですが……」

 私はハンカチをポケットに入れて虹色の卵の前で膝をつき、緊張しながら言った。


「あなたの名前は、『グラン』」

 私がそう言った瞬間、卵に亀裂が入った。

 亀裂はみるみるうちに広がって、そこから虹色の光が溢れ出し、私の視界を真っ白に染める。

 まばゆい光が収まった後、私の前には成猫くらいの大きさの竜がいた。

 陽光を浴びて銀色に輝く皮膚。

 金色の爪と角に、くりっとしたエメラルドグリーンの瞳。


「きゃ~、可愛い~! しかも、その姿! 皮膚の色といい、目の色といい、まるで神話に出てくる光竜の赤ちゃんみたいですね!」

 なんとも愛らしいその姿に、私は大はしゃぎ。


「……いや、これは……『まるで』というか、その通りなのでは……?」

 幼竜は自分の姿を見下ろし、何やら酷く困惑している様子。

 美しいバリトンだった声が、少年のような高い声に変わっていた。


「どうしましたか? もしかして身体に違和感が? 具合が悪いんですか?」

 心配になり、前のめりになって尋ねる。

 さきほどのグランの声は尻すぼみになっていたため、「いや、これは」までしか聞き取れなかった。


「……いや。何でもない。転生先の竜の種類が何であろうと些末なことだ。我が我であることに変わりはないのだから」

 グランは首を振った。

 翼を動かして宙を飛び、私の目の前にやってくる。


「転生と記憶の引継ぎには成功した。これからは我が護衛役を担ってやろう。知恵ある竜が矮小な人間を護衛するなど、考えられぬことだぞ。身に余る光栄に感涙するが良い」

 偉そうな言動と見た目の愛らしさのギャップに笑いつつ、私は頷いた。


「はい、ありがとうございます。それではこの卵殻、約束通りに貰いますね! こんなに状態が良いなら、500……ううん、1000ピアになるかも!? そうだ、グランさんに出会えた記念と家出記念も兼ねて、今日は思い切ってステーキ……それも、肉厚のステーキを食べてしまおうかしら!? きゃー、ステーキなんて何年ぶりかしら!!」

「……意外と逞しいな、お前……」

 張り切って卵殻おたからの破片を集める私を見て、グランは呟いた。

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