「変身/その遺伝子(ゲノム)は変化する」
前に投稿した作品「ARK」をリメイクしました!
深い眠りから目を覚ます。
「んんっ……ここは…」
重たい瞼をこじ開け、体を起こすと激痛が走る。思わず
「痛っ……」
と言葉を零すと部屋の奥から
「まだ無理しないで!」
と声を上げ勢いよく少女が飛び出してきた。
少女は金色の髪を軽やかに揺らし、大きな青い瞳に心配そうな色を浮かべていた。少女は
「大丈夫?無理しないでね…」
と優しく言いながら、そっと僕の頬に手を添えた。添えられた手の優しさと暖かさに懐かしさと切なさを感じた。
僕はふと、我に返り少女に質問をする。
「えっと……あなたは?というかここは?」
少女は僕の質問に少し困ったように首を傾げた。彼女の金色の髪が肩に滑り落ち、青い瞳には優しさが宿る。
「私は倉床柚葉だよ。ここは私の部屋で、あなたが倒れてたから連れてきたの。」柚葉さんは笑顔を見せながら、少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「見た感じ、なんにも覚えてなさそうだけど……なにか思い出せる事は無い?」
柚葉さんはそっと僕の手を握りしめた。その手の温かさが、心にじんわりと染み込んでくる。
「なにも……自分の名前すらも思い出せなくて……」柚葉さんの手の温もりを感じながら返答する。
「そっか……あっ!そうだ、ちょっと待ってて!」
柚葉さんはいきなりそう言って部屋の資料が管理されている棚から1冊のファイルを取り出し、次々とページをめくり始める。そして5ページくらいに到達するとある名前に指を指す。
「えーと、あっ!あった!君の名前は……萩野秋君……だね」
「萩野秋……」
柚葉さんから告げられた自分の名前を呟く。しっくりはこないが、どこか懐かしいものを感じる気がする。どうやら僕の名前は「萩野秋」で間違いないみたいだ。
柚葉さんは考え込む僕の顔を覗き込み、優しく問いかけた。
「なにか……思い出した?」
「いや、特には……でもどこか懐かしい感じがします。」
「そっか……」
僕が少し微笑んで話すと柚葉さんも優しく微笑み返してくれた。
「そういえば、さっき僕が倒れてたって言ってましたけど、この体の傷のこととか柚葉さんはなにか知りませんか?」
僕がそう問いかけると柚葉さんは明るい表情を曇らせ、俯きながら
「ちょっとした実験みたいなもののトラブルでね…」
と教えてくれた。
「トラブル……?うっ…」
その言葉を聞いた瞬間、僕の頭に激痛が走ると共にノイズがかかったような曖昧な記憶が蘇る。
【インジェクターセット!】
「遺伝子武装!」
そこから強い電撃が身体中に走って……と、ここまでで僕の記憶はフェードアウトしてしまった。
「秋……くん?」
「え、あ、えっと…」
曖昧ではあるが、記憶を一瞬だけ思い出し変な汗をかく僕を柚葉さんは不安そうに見つめた。
「あっ!そうだ。そういえばスイーツ作ってたんだ!ちょうど15時だし。おやつにしよっか。」
柚葉さんは重たくなった空気を晴らすようにそう明るく声をかけ、キッチンへと向かっていった。
キッチンでスイーツの仕上げをする柚葉さんの背中を見つめながら僕は先程思い出した曖昧な記憶について考えていた。あの左腕につけてた手袋みたいなのは……黒い液体が入ってた注射器は……考えれば考えるほど謎は深まるばかりだった。
柚葉さんはキッチンでスイーツを仕上げながら、僕の様子をちらちらと見ていた。彼女の手も少し震えているように思えたが、それでも微笑みを絶やさずにカップケーキにイチゴを載せていく。
「秋くん、あのね。無理に思い出そうとしなくていいんだよ。少しずつでいいからね。」柚葉さんは不安と恐怖で震える僕を慰めるように言葉をかけてくれた。
その言葉に、僕は我に返り、柚葉さんの姿を見つめた。彼女の背中には、何か隠しているような気がした。でも、そんなことを思っても仕方ないと首を振る。
「ありがとう、柚葉さん。でも、どうしても気になるんだ。」
恐怖で手足を震わせながらも柚葉さんにそう伝えた。
柚葉さんは僕の言葉を聞いて一瞬だけ悲しそうな顔をしたが、すぐに明るい表情に戻った。「じゃあ、これを食べて元気出して!特製のカップケーキだよ。」そう言って内に秘める何かを取り繕うような……どこか中身が抜けたような明るさを見せ、カップケーキを僕に差し出した。
「頂きます」
混乱はしているもののお腹は減っていたので期待を込め、カップケーキに手を伸ばそうとした時だった。
【ドカァァァァァン!!】
と普段生活していて滅多に聞くことない力強い爆発音が鳴り響いた。
「な、なに?!」
僕は驚愕のあまり腰を抜かす。
「だ、大丈夫?」
柚葉さんは慌てて僕に駆け寄り手を差し伸べてくれた。
「は、はい…ちょっとびっくりしちゃって」
僕は差し伸べられた柚葉さんの手を掴み立ち上がる。
「一体、なにが……」
「まさか……」
柚葉さんの表情はまるで恐怖に支配されたように酷く引きつっていた。
「柚葉さん…?」
「秋くんはここに居て」
柚葉さんはいきなり真剣な表情になり僕の両肩を掴んでそう告げた。
「でも、柚葉さんは…?」
「私は…大丈夫だから」
柚葉さんはそう言って僕の寝転がっていたソファのそばに置かれてあるアタッシュケースに手を伸ばした。
「待って!行くなら僕も一緒に……」
「ダメ!」
僕が柚葉さんを引き留めようと肩を掴み、そういうと柚葉さんは今までにないほど怖い表情をして声を荒らげた。
「ごめんなさい……けど、秋くんだけは……」
「なにがあったかは覚えてないけど……柚葉さんひとりじゃ危険すぎるよ。」
「それでも……」
「それにさ、なんだか行かなきゃ行けない気がするんだ。」
僕は引き寄せられるように柚葉さんが握っているアタッシュケースを手に取る。
「それが僕の運命な気がして……」
「秋くん……少しでも秋くんに危険が及んだら意地でも連れて帰るから」
「……わかりました」
そう約束し、僕と柚葉さんは家を飛び出た。
☆★☆★
街に出ると、建物は崩壊し、あらゆるところが燃え上がっている絶望的な光景が広がっていた。
「なんだよこれ……地獄絵図じゃん」
思わずそう呟き、立ち尽くしていると小さな女の子の泣き声が聞こえてくる。
「パパー!ママー!」
必死に両親を呼んでいるその姿を見て胸が痛む。どうして……どうして……なんの罪もないこんな小さな子がこんな思いを……そう思うと行き場のない怒りと憎しみが湧き上がり、拳を握りしめる。
「危ない!」
柚葉さんの言葉が耳に入り、顔を見上げて見ると、さっきの女の子に建物の瓦礫が落ちてきているのが目に入る。
「っっ……!!」
気づいたら僕の足は動いていた。咄嗟に少女を抱え込み、なんとか瓦礫が落ちてくる前に少女を助けることができた。さらに泣き声をあげる少女の頭を優しく撫で
「怖かったね。」
と言葉をかける。
「パパ……ママ……」
「大丈夫。お兄ちゃんが必ずパパとママのところに帰してあげるから。」
そう言って少女に微笑みかけると、少女は
「ほんと…?」
と純粋な目で問いかけた。
「うん……だから今は安全な所へ隠れててね」
「さぁ、こっちへ」
柚葉さんが少女を安全な場所へと避難させる。
柚葉さんに連れられた少女の背中を見送り前を向こうとすると白い、糸のようなものが僕の左足に付着する。
「なんだっ!?」
「へぇ〜、こんな勇敢な人間がまだ残ってたなんてなー」
「お前は……」
糸によって身動きが取らなくなった僕の前に蜘蛛と人が融合したような不気味な怪物が街灯にぶら下がっていた。
「まさか、街をこんな風にしたのはお前か…!」
「御明答!よっ!」
怪物は僕の質問に指パッチンをして、答え、街灯から降りてきた。
「俺は遺伝子組み換え実験によってさらなる進化を遂げた。常人じゃたどり着けない程にな。これは腕試し程度の準備運動みたいなもんさ。」
「腕試し……だと」
怪物の明らかに舐めた言葉を聞いて、先程の少女が泣きながら声を上げ、両親を呼ぶ姿が思い返される。
「……ふざけんな!お前のせいでどれだけの人が傷ついたと思ってんだ!」
「はっ、知るかよ」
僕が怒りで声を荒らげるも、怪物はそれをあしらうように僕に向かって糸を飛ばした。
怪人の糸によって完全に身体が拘束される。
「俺はこれからさらなる進化を求め世界中を破壊する。そしてやがて俺が最強になる。」
「ふっ……」
怪物の言葉に笑いが零れる。
「……なにがおかしい?」
「……貴様の野望などつまらん!くだらん!気しからん!」
「なんだと……!」
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
身体中に力を込め、叫びをあげると、僕の体を拘束していた糸が破れる。
「……なにっ?!」
「秋くん……?!」
「なぁ、それがあればこいつを倒せるんだろ?」
僕は柚葉さんのもつアタッシュケースに視線を送り、問いかける。
「ダメっ!これは……絶対。」
柚葉さんはアタッシュケースを抱き抱え、必死に否定する。
「ごちゃごちゃうるせーんだよ!」
痺れを切らした怪物が柚葉さんに糸を吐く。
糸が柚葉さんに付着する寸前に僕は柚葉さんを抱え込み、糸を回避する。
「いいから、それを俺にくれ!」
僕は真剣に、そしてまっすぐ柚葉さんを見つめると
「わかった……。けど、少しでも危なくなったらすぐに使うのをやめて。」
「約束する。」
そうして再び柚葉さんと約束を結び、アタッシュケースを開く。
「おぉ……!」
アタッシュケースを開くと、そこにはさっき思い出した記憶で僕が装置していたものと同じ手袋のような装置と黒い液体が入った注射器が入っていた。
「使い方は……」
「いや、……知ってる。」
僕は柚葉さんの言葉を遮って、手袋のような装置を左手に填める。
【アークデバイザー!】
そのまま、装置に注射器を装填する。
【インジェクターセット!】
待機音が流れ始め、僕は深く腰を落とし、
「遺伝子武装!」
と思い出した記憶で僕が言っていた言葉を放ち、注射器の針を押し込む。すると、黒い液体が注射器から溢れ出し、僕の身を包み黒いボディを生成する。そしてさらに白いアーマーとマスクが装着され、衝撃波によってローブが靡く。
【チェンジングゲノム!ARK!】
装置が喋り僕は姿を変えた。
「嘘……」
柚葉さんは僕の変わり果てた姿を見て、口に手を当て驚愕していた。
「お前も……遺伝子組み換え実験をしてたのか!」
「えっ?」
「オラッ!」
怪物の言葉に困惑する僕を気にすることなく怪物は襲いかかってくる。僕は咄嗟に怪物に殴りを入れる。
「ぐはッ!」
すると衝撃波が起こり、怪物は瓦礫へと吹き飛ばされる。
「すごい力だ。……これなら守れる!」
僕は勢いよく、怪人の方へと走り出す。
「調子にのんなよ!」
怪物が声を荒らげ、糸を連射する。僕は大きく足を振り上げ、飛んできた糸を蹴り飛ばし、怪物に跳ね返す。
「うわっ!」
怪物は自分の放った糸が目に付着し、身動きが取れなくなっていた。その隙に複数回殴りを入れ、最後に思いっきり怪物の顔を殴る。
「俺はこんなところじゃ終わらねぇ!」
怪物は僕の殴りで後退れるも、負けじと背中に生やした蜘蛛の足のようなものを勢いよく僕にぶつけてくる。
「うおっ!」
蜘蛛の足の攻撃を食らった僕は地面に転がり込む。
「いやっ!ここで終わらせる!」
そう宣言し、僕は迫り来る蜘蛛の足を回避しながらインジェクターの針を引く。
【インジェクターチャージ!】
装置の音声と共に徐々に僕の全身にエネルギーが溜まっていく。
「はっ!」
蜘蛛の足を全て回避し、高く飛び上がると怪物の隙を見つける。
「今だ!」
僕は力強くインジェクターの針を押し込む。
【ゲノムブレイク!】
「はァァァァ!!」
装置の音声が流れ、身体中に蓄積されたエネルギーが一斉に左足へと集中し、そのまま怪物にキックをする。
「グハァァァァ!」
僕のキックを喰らった怪物は悲痛な叫びを上げた。そのまま全身に電流を走らせ、今にも爆散しそうな状態で
「覚えておけよ……お前も俺たちの同じ化け物だからな!」
そう言葉を残して爆散して行った。
怪物の言葉に困惑を覚えたが、ただの卑屈だと思い、受け流すことにした。
「秋くんっ!」
柚葉さんが駆け寄ってきたため、慌ててインジェクターを装置から外すと身体に付着した黒い液体と白いアーマーが溶けるように崩れ落ち、僕は元の姿へと戻った。
「やったね……!」
柚葉さんは勢いよく僕に抱きつき、そう呟く。
安心して、涙を流しながら抱きつく柚葉さんが何故か懐かしく、そしてとても愛おしく思えた。
「ありがとう。柚葉さん。」
気づけば僕は囁くようにお礼を言い、柚葉さんを抱き返していた。ふと、我に返りさすがにまずいと思い、柚葉さんを見ると、寧ろ嬉しそうに僕の胸に顔を埋めていた__。
☆★☆★
「萩野秋……君に足りなかったのは【覚悟】だったか。」
to be continued…
to be continuedとありますが、続きを書くかは分かりません。