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1.先代魔王からの……遺言?









「いやいや、キミはいったい誰なんだよ! それに『魔王様』って――」

「状況が理解できないのも無理はございません。そのため、こちらには貴方様に説明をする準備がございます」

「説明をする、準備……?」

「えぇ、そうです。ではまず、こちらをご覧ください」



 ボクを助けた女の子は、何やら宝玉を取り出してそう言った。

 すると、それの上にボンヤリと映像が浮かび上がる。仕組みは良く分からないが、そこに映し出されているのは仄暗い城の謁見の間のようであった。

 四人の魔族らしき者たちが膝をつき、一人の男性に頭を垂れている。

 大きな体格や威厳、その身に纏う雰囲気といえば良いのか、おそらくその男性こそが魔王と呼ばれるその者だろうと見て取れた。



 そして、魔王は玉座からおもむろに立ち上がり話し始める。







「はっはっは! 人間側に、物凄い力を持った者がいるらしい! よもや魔族領にまで、これほどの雷雨をもたらさんとは!!」

「いかが致しますか、魔王様。その者の力は、脅威です」

「力を使いこなすより先、こちらの手の者に殺害を命じるべきかと」



 頭を垂れていた魔族のうち二名が、高笑いをする魔王に進言した。

 しかし意に介した様子もなく、王はこう続ける。



「その必要はなかろう。よもや貴様らは、かような人間如きに我が敗れるとでも思っているのか? もし、そのようなことを口にするなら首を刎ねてやろう」

「め、滅相もございません!!」

「私どもは、あくまで露払いをすべきと考えたまで!!」



 その言葉に意見を述べた二名は委縮し、弁明を図った。

 彼らの様子を認めた後、魔王はくつくつと邪悪な笑い声を発する。そして、



「だが、しかし! この力は何とも魅惑的ではないか!! このような規模で魔法を展開できる才能など、前代未聞だ!!」



 窓際へと立ち、大袈裟に両腕を広げるのだった。



「それでは、魔王様。その者をこちらに引き入れるのは、いかがでしょう?」

「そうすれば我が魔王軍は、人間どもを簡単に呑み込むでしょう」

「ふむ、そうだな――」



 するとそこで、残り二名がそう進言する。

 魔王は彼らの言葉にしばし考え、だがゆっくりと首を左右に振って叫んだ。



「いいや、我はこの力の持ち主と戦いたい! そして万が一にも我が敗れたのなら、次代の魔王として君臨する権利を与えようではないか!!」――と。





 その、直後だった。





「む……?」





 ひときわ大きな雷鳴が響き渡り、世界が一瞬で漂白されたのは。

 そして、その最中で魔王の身に――。





「ぐ、ぐあああああああああああああああああああああああああああ!?」

「ま、魔王様あああああああああああああああああああああああああ!?」





 なんと不幸なことだろうか。

 窓を突き破って落ちた雷によって、魔王は貫かれたのである。

 断末魔の叫びを上げて絶命した彼のもとに、配下の魔族たちが駆け寄った時にはもう遅い。魔王と呼ばれた男は全身が黒焦げになり、白目を剥いていたのだった。









「――このように。魔王様の遺言に従って、貴方様をお迎えに上がったのです」

「それ遺言じゃなくない? きっと、軽い冗談か何かだよ」




 映像が終わって女の子が真顔でそう口にしたので、ボクは思わずツッコむ。

 しかしながら、彼女は至って平静で真面目な眼差しでこちらを見ていた。ゆっくりと首を左右に振り、このように続けるのだ。



「いいえ。魔王様は常日頃から『我の言葉は九割が本気だ』と仰っていました」

「……その残り一割、引いちゃったかー…………」



 ボクは思わず、会ったことのない魔族の王に同情する。

 生涯最期の言葉がくだらないものだと、いかに威厳があっても締まりがない。何とも名状しがたい思いが胸に去来したが、しかし本題はそこになかった。

 一度、咳払いをしてからボクは女の子に告げる。



「えっと……悪いんだけど、その魔法はボクのじゃないよ。ボクの魔法はそんなたいそうな威力のものじゃない。きっと偶然が重なっただけなんだ」――と。



 そうなのだ。ボク自身、この一連の魔法は自分のそれでないと分かっていた。

 たしかに自分の『範囲魔法』は『世界規模』なのかもしれない。しかし仮にそうだとしても、このような威力になるのは考えにくいのだった。

 みんながみんな『ボクを過大評価して勘違い』しているに違いない。

 そう伝えると、女の子は目を丸くした。



「それは、本当なのですか……?」



 おそらく、相当に驚いたらしい。

 彼女はあからさまに狼狽えて、手を震わせてうつむいてしまった。



「あー……だから申し訳ないんだけど、他を当たって――」



 ボクは彼女にそう告げて、今後のことを考えようとする。

 だが、その時だった。



「……殺される」

「え……?」



 何やら不穏な言葉が、女の子の口からこぼれたのは。

 思わず訊き返す。すると彼女は面を上げ、潤んだ瞳でこちらを見た。




「ほ、本日中に魔法の主を探さないと、私は殺されるのです!」

「え……ええええええええええええええ!?」




 そして、そんな衝撃的なことを口走るのだ。



「ど、どういうことなの!? どうして、キミが……!!」

「だって、だって……私は魔王の娘、だから……!!」

「……魔王の娘?」



 それを聞いて、ボクは一つの可能性に至る。

 もし魔王の後任が見つからなければ、どうなるか。真っ先に考えられるのは、その子供が即位することである。しかし、目の前の女の子は――。



「わ、私……私ではまだ、無理なんです……!」



 まだ、あまりにも幼い。

 あまりの事態に気にしていなかったが、人間の年齢にして十代前半だろう。そんな子供が魔族の王位継承の争いに巻き込まれたら、どうなるかは火を見るよりも明らかだった。


 つまり今の彼女には『居場所』がない。



「…………分かった」

「え……?」



 いつの間にか泣きじゃくっていた女の子に、ボクはそう言って立ち上がった。

 そして、こう告げるのだ。



「いつまで誤魔化せるか分からない。だけど、ボクが時間を稼ぐよ!」




 元々、行き場のない人間だ。

 それだったら、この子の弾除けくらいにはなりたい。

 そう思ってボクは、彼女に手を差し伸べながらこう訊ねるのだった。




「キミ、名前は……?」――と。




 まずは、互いの名前を交換するところから。

 ボクの顔を見た少女は、まだ震える手でそれを取りながら小さな声で言った。




「ミラ……ミラ・アルキメデス」

「……そっか。それじゃあ、ミラ! これからよろしく!!」




 思い切り彼女――ミラの身体を引き上げる。

 瞬間、フードとマスクが外れた。



 そうして露わになった彼女の素顔。

 それはやはり、まだまだ幼い愛らしい女の子のそれだった。



 


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