pipkとタイツにあげたあれを収納したこれ(マニキュア/家事)
pipkとタイツにあげたあれを収納したこれ
※ベアトリーチェとカルミラとソフィアの話
僕は男の子なのに、他の名前で呼んでほしいのに。言葉がわからないために、伝える手段もない。
「ソフィアちゃん、爪出しなさいな」
ピンクに彩られる爪。三人の上客である、自分のことを膝の上に乗せているベアトリーチェとお揃いのそれ。
母の指はいつも派手だった。あの飲んだくれの男に絡みつく指は、学校の図書室で読んだ魔女の手に似ていた。ベアトリーチェの指も派手ではあるが、母とは違う。
出来上がった爪を眺める。乾くまで動かせない。爪が膜で覆われる感覚に慣れることができず、違和感から指を動かせば、ダメよ、と嗜んで手を取ってくる。肉の柔らかさを堪能するかのように手を揉まれ、そのまま自身の横に並べてくるベアトリーチェ。
「おばさんとお揃いよ、今度は違う色を塗ってあげるわ」
色を自身の一部としている大人の手と比べて、マニキュアがあるだけの自分の手は貧相だ。
顔を上げて、ベアトリーチェの顔を見る。
「どうしたの?」
商談をしていた時のこの人の顔は怖かった。初めて見たこの人は悪女と呼ぶにふさわしく、目につくもの全てを滅することを目的としていたのに、今ここにいるのは一人の女で、母性に満ち溢れている。
母に会いたいと、寂しいと思うのは、きっといけないことなのだろう。一緒に暮らしたいわけでも、帰りたいわけではない。ただ、母に会いたい。
「ソフィアちゃん、あんたはダンテみたいにならないでね。普通の男の人になるのよ」
ダンテ、これが名前なのはわかる。その人だあれ、そう聞きたいのに、言葉がわからない。
掃除をするカルミラ。いつものスーツ姿ではなく、動きやすいジャージ姿で掃除をこなす。椅子を踏み台に、カルミラに倣って窓を拭いてみる。
「ソフィア、落ちないように気をつけるんですよ」
ベアトリーチェの住居の管理は、カルミラ一人で行っている。この屋敷では、男の人が訪問をすることはあっても住むことはないらしく、二人と話すと早々に出て行ってしまう。
「ビーチェがズボラなのは父の影響なのは間違いありませんが、ほんとどうにかしてほしいです」
慣れているのか、手早く窓拭きを終えるカルミラ。曇りが取れず、終わらない焦りから手に力を込めた。自分の頭の上にあった汚れを見つける。それを取ろうと、椅子の上で背伸びをしてたために、バランスが崩れる。
「ソフィア!」
床に叩きつけられるかと思った。だが、カルミラが体で受け止めてくれたためにどこも痛くはない。
「何をやっているんですか! 椅子の上で背伸びなんていけませんよ!」
頭や顔を触られ、あちこちを見るカルミラ。それが嫌でやめて、と首を振れば怒鳴られた。まだそんなに言葉はわからないが、怒っていることは確か。
「……すくーざ」
「もう二度としてはいけません。いいですね!」
怪我をしていないことを理解すると、カルミラは深く息を吐き出した。