pipkとタイツにあげたあれを収納したこれ(父)
pipkとタイツにあげたあれを収納したこれ
※リチャードとマンディサの話
家の中は静かだ。何か音を立てれば、咎められそうな。そんなことはないのに、躊躇してしまう。
リチャードは余程のことでもない限り喋ることはなく、声をほとんど聞くこともないため、忘れてしまいそうになってしまうこともある。
与えられた飴玉を噛むことなく舐めて溶かし、ノートへ文字の書き取りを行っていた。拙くても、書けばみんなは褒めてくれる。褒められたことなんてほとんどないために、それが嬉しくて仕方がなかった。
何個目かになる飴玉。飛龍は滅多なことがない限り菓子を与えてくれない。ルチアーノはその当てつけかのように菓子をくれて、飛龍とよく喧嘩をする。リチャードはその点、隠れて与えるのが上手く、飛龍の目を欺き、菓子を渡してくれる。今、舐めているこれもそう。飛龍が家にいないことを理解した上で、渡してくれた。
力の入れ方がうまくいかなかったためか、袋がうまく破けず、床に落ちてしまったそれを慌てて拾い、土がついた部分をパーカーで拭う。多少の土や埃は、体に入れたところで害はない。母の元にいた時、床に落ちたものが晩御飯になる場合もあった。汚いものを食べることには慣れている。
だから、そのまま飴玉を口に入れようとした。
「マンディサ」
口に含める前に、立ち上がったリチャードが声をかけてくる。先ほどまでパソコンに向き合い、キーボードと画面に向き合っていたのに。こちらのことなんて見ていないと、そう思っていたのに。
「土がついたものを食べるな」
土がついた飴玉は取り上げられて、新しいものを渡される。
「……せんきゅー」
頭を撫でられ、リチャードは席へと戻り、再びパソコンに向き合った。
寡黙ではあるが、確かにリチャードは優しい。
どうして僕にはお父さんがいないの、と家にいた時、母に聞いたことがある。浮気して出てっちゃったのよ、と酔っ払った母から答えが返ってきた。
お父さんはリチャードのような人がいい。浮気なんかせずに、どこにも行かない、僕を連れていってくれるような、優しい人がいい。
飴玉を口に入れて、ペンを握り、再びノートに文字を書く。