pipkとタイツにあげたあれを収納したこれ(所有権)
pipkとタイツにあげたあれを収納したこれ
※飛龍と春蕾の話
言い争いが聞こえる。目を開けると、まだ外は暗かった。寝ぼけた頭は言い争いの方に意識を向けていた。
ソファを降りて、部屋の戸を開ける。その声たちがする方まで歩みを進め、ドアノブに手をかける。
「ダメよ、あれワタシのよ。アイツ潰れた、売らないのバラさないの決めたね。攫ったワタシが、アイツ好き勝手する権利あるはずね」
「あ? んなこたぁてめえに決める権利なんざねえだろ。オレにだってあるはずだろうが」
酒臭い。酒の匂いは嫌いだ。飲んだくれのあの男と、隣でその男に媚を売る母を思い出す。決められた年齢が来るまで飲めないものなのに、体に悪いと公言しているようなもの何に、なぜ大人は酒を好むのだろうか。
でも、煙草の匂いは好きだ。この男たちの吸う煙草の匂いだけは。
奥の方に座っていた男がこちらに気づいた。いつも喋らない、だけど優しいあの男。酒を飲んでいる粗暴な男もこちらに気付き、二人は動こうとした。先ほどまで言い争いをして、殺気立っていたのに、こちらに気がつくとすぐに表情を和らげた。
だが、二人よりも早かったのは、手前の方に座っていた、おかしな発音で英語を話すこの男。
「ああ、ゴメンよ。気にしないでちょうだい、まだ寝てるがいいよ」
手を引かれ、部屋を出て、眠っていた部屋へと再び元に戻される。ソファの上に戻され、毛布を掛けられる。黒マスクを外した男は、傷だらけの顔で、不器用ながらに優しく笑んで、体を撫でて寝かしつけてくれる。
「おやすみ、私の可愛い春蕾」
先ほど、話していたのとは違う言葉で男は言う。
チュンレイ、とこの男は呼び、キャロルと粗暴な男は呼んで、マンディサと寡黙な男は呼ぶ。この単語たちが自分の名前を示しているのだけはわかった。僕の名前はそうじゃないよ、と言いたいが言葉が通じないために男たちに伝える術はない。
この男たちのことは好きだ。暖かい寝所に食べ物を与えてくれて、何かと気にかけてくれる。
寝惚けと覚醒の間にあった頭は、再び訪れた眠気で満たされる。
おやすみなさい、飛龍。
その言葉は、口の中から出てこない。