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ハジメテの仕事

異世界にやってきてから1週間がたった。

この1週間でやったことと言えば2,3回ギルドに行ったことぐらいだ。

適性ランク検査とか、ある程度の指南があるかと思いきや、ただ身分証の職業欄に「冒険家」とハンコを押されただけだった。ランクは5段階中の一番下スタートであり、全体の3割ほどは一番下のランクにいるとのことだった。一番下のランクで受けられる仕事は正直報酬がしょっぱく、意外と自分に金の余裕があることもあり、あまり仕事には行っていなかった。

ただ、その間町で情報収集したことでこの国のことがだいたい理解できた。

その中でも重要そうだったのは

・ベツォルトは西に海、東にどの国も管理できないほど危険かつ大きな森(最初にいた場所はこの森のはずれだったっぽい)があり、比較的鎖国気味であること

・最近は貿易を活性化させるため外国に対し融和的な政策をとっているらしいこと

・この国は職業階級があり

     王族

     貴族

  行政人、軍人、衛兵

  冒険者、生産者、商人(資格等が無ければ基本的にこの3つ)

    のどれかの職につかねばならないこと

・冒険者は常に命の危険があり、給料も高くないが唯一の非課税対象職らしく、貧乏な家の次男や三男が多いこと


そしてなにより……酒がない!!!どこの飯屋に行ってもなかったので、まさかとは思ったがそのまさかだった。果実を発酵させて作ったワインのようなものはあったが、調味料としてしか使われておらず、とても飲めたものではなかった。

ここは転生者らしく自力で作ろうとしたが、あまりにも知識がないのでどうしようかと思案しつつ日がな一日過ごしていた。

しかし、1週間目にして町に変化があった。どうやら町の実力派冒険者チームが帰ってくるとのことで、せっかくならとその顔を拝みに行ってみる…

「⁉」

驚くことに、そいつらは森で会った男たちであった。なんでもゴブリンの本拠地を探しており、発見に至ったため討伐隊を集めるために帰ってきたらしい。


次の日、俺は当然のように討伐隊へ応募し、そのまま20人ほどの集団で討伐に向かうこととなった。

「…俺なんかが参加して大丈夫ですかね…?」

本当は優しそうなリーダーと話がしたかったが、どうも忙しそうだったので、殿を務めるという一線は退いていそうなおじいさんに話しかけてみた。

こういう時はできるだけ年配者に話を聞くほうが何かと都合がいい。背は低いもののがっしりとした体つきで、鋭く、優しい眼をしている。

「おお、見ない顔じゃが名前はなんという?」

「ジュンと言います。1週間前ほどに初めて冒険者になりました。」

「ジュン君か。ワシはロイじゃ。新入りなのにこんな仕事に参加するとは感心じゃ!

なに、ランクが低い者の今回の仕事は索敵と、素材の運搬ぐらいじゃ。命の危機はないはずじゃから安心せい!」

えげつないフラグを建てられた気がしたが気にせずに話す。

「そういえば、この仕事の推奨ランクが2以上(俺はランク1)だったのですが、参加してもよろしいのですか?」

「推奨ランクはあくまで推奨じゃ。早くランクを上げるために高いランクに挑戦するものは少なくないぞ…と言っている間に今日のキャンプ地についたらしいぞ?」

今回の作戦では一旦夜になるまでゴブリンのテリトリー外で待機し、夜に強襲するつもりらしい。

ゴブリン如きにそこまでやるのかと思ったが、なんやかんや既に5キロほど歩いていたので一安心できた。

「久しぶりだな!!ロイさんもお久しぶりです!」

あのリーダーが話しかけてくる。ロイさんとは仲がいいようだ。

「しかし、あのときは心配したがまさか入国した上に冒険者になってこの仕事に参加するとはな!」

「ああ、外国の方じゃったか。外国人は訛りがあって会話が大変と聞いていたからすっかり勘違いしておったわ。」

「はは、こちらのしゃべり方を勉強してから来たものですから…」

変なとこでウソがばれるかと冷や冷やしてしまう。

「まあ、向上心があるのはいいことだ!早くかつ安全に仕事を終わらせて、たんまり報酬をもらって宴会やろうぜ!」

この人が何故周りから慕われているかよくわかる気がする。

「ああ、ロイさんに今回お願いしたい役割があって…」

なんかリーダー(そういえば名前知らないな)とロイさんの二人が作戦の話を始めたのでそそくさと去る。最初は結構緊張していたが、思っていたより周りの空気も緩いので気が抜けてしまった。

しかしこの後、一生忘れられないような絶望的な経験をすることになる事を俺はまだ知らなかった。


数時間後…


「お前ら行くぞおお!!!」

リーダーの掛け声とともに全員でゴブリンの本拠地であるほら穴へと駆け込む。

「はあっ、はあ、はああっ…うっ…」

作戦はつつがなく進行した。

…しかし、なんだこれは。汗でぐっしょりぬれた肌に土埃が舞い落ちる。むせるような血の匂い。ゴブリンの断末魔のような叫び声。首のないゴブリンの死体を踏みしめながら前に進む。

ほら穴の奥からはしゃがれたような鳴き声が響いてくる。服と、借り物の鎧が鉛のように重い。


ここが地獄か…?


中にいたゴブリンたちが全員たった2時間…いや、本当はもっと短かったかもしれないが、そんな短時間でただのモノとなってしまった。

ギルドに報告するために死体から右上の犬歯を抜いて集めるのだが、まだ生温かい”彼ら”から犬歯を取る感覚はすさまじく、三本目を取ったところで我慢できなくなり吐いてしまった。

後から聞いた話だが、討伐隊の中で魔獣を殺したことがなかったのは俺だけであり、

ランク1,2の冒険者のほとんどは生涯魔獣を殺さず、探検などで稼ぐものらしい。

小説の主人公達はこんなことを平然とやってのけたのか…?

とてもじゃないが正気とは思えない。俺は絶望と何とも言えない喪失感とともに帰路についた。


「いや、初めての仕事だったのならついてこれただけでも充分すごいさ…」

討伐隊の面々で打ち上げをしている時にロイさんが話しかけてくれた。何気に彼は背後からの応援部隊を一人で捌ききっていた功労者だ。

「…これは、い、いつか慣れるものなのですか…?」

「ずっと続けていれば慣れてくるさ。でも、どうも何か大切なものを売っちまっている気がするがな。」

そういうと彼は別の席に去っていった。

宿に帰って何度もシャワーを浴びた。でも、何度シャワーを浴びても薄暗いほら穴の中の光景がこびりついて離れなかった。

…帰りたい…



現在の状況

・念願の冒険者になった

・残り願い事3つ






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