イキナリ危機
目が覚めるとそこは何とも不気味な森だった。
それにしても随分暑い…元の世界が秋だったから少し厚手の服を着ているというのもあるが。
異世界で目覚めたら森というのはお約束であるが、知らない森で一人というのがここまで不安だとは想定外だった。
せめて周りの地理でも理解するために、あたりを見渡せそうな樹に登ってみる。
「…しめたっ!!」
かなり遠くはあるが、町のようなものが見える!!
しかも、視界に収まらないほどの城壁がある。どうやらかなり大きい町らしい。
一旦そこを目指して歩いてみることにした。発展した町がある付近には川や湖があることが多い。
それさえ見つかれば一旦生き延びれる!!
「おおーーい!!」
2時間ほど歩いていると、7~8人ぐらいの男の集団と出会った。
人に会えることがここまでうれしいと感じたことは初めてかもしれない!
「君、随分と軽装だが一人なのかい?」
リーダーっぽい中年の男性が聞いてきた。
「はい…どうも道に迷ったらしくて…」
「もしかして君も冒険者かい?」
「冒険者…?違いますけど…」
嘘をついても仕方がないので本当のことを言ったが、一瞬皆の顔が険しくなった気がした。
「…すまないが、身分証を見てもいいかい?」
「…持ってないです…」
幾人かの表情が露骨に曇る。
「あんた…何者?」
本当のことを言うわけにもいかないので、賭けと行こう。
「俺は隣国のものです。旅の途中までは順調だったのですが、獣に襲われて無我夢中で逃げていたらここにいたんです。」
全員の表情が和らいだ。どうやら賭けはうまくいったらしい。
「ヤーリッヒから来たのか!それは災難だったな。ここ一帯はもうあまり強い魔物もいないから、安心していいぜ。」
「しかし、これからどうするつもりだ?見たところ金もおいて逃げてきたようだが。」
釣り目の厳格そうな男が質問してくる。
「できればあなた方が国に戻るのについていきたいのですが。」
「何を言っている?われらの国に外国人が入国したければそれなりの金が要るぞ?まさかそんなことも知らずにこの森を抜けてわざわざやってきたのか?」
どうも言い方がいちいち気に食わないが、いいことは教えてもらえたようだ。
「なに、魔獣被害にあった旨を伝えれば救済措置ぐらいあるんじゃないか。最近の情勢もあってかなり外国人への対応は良いはずだよ。」
こちらの世界の国際情勢がいいのか悪いのか見当もつかないが、俺にとっては好都合だ。
「衛兵に保護さえしてもらえたらあとは安全にヤーリッヒに帰ることが出来るよ。無くした荷物は残念だったが、またベツォルトまで来てくれたらその時はぜひ冒険者ギルドに来てくれ!」
ベツォルトがこの先にある国で、隣国がヤーリッヒというらしい…ってまさか!
「ベツォルトに入国するのは難しいですかね?」
「うーん、気持ちはわかるが、金がなくては難しいだろうね。違うとは思うが、君が”亡”の可能性だってあるしね…」
モウ?また知らない単語だ。
「そ、そうですよね!あ、僕やっぱ大丈夫です!色々ありがとうございました!」
また一瞬皆の雰囲気が悪くなった気がしたが、構ってられない。
隣国に連れていかれたらそれこそ嘘がばれちまう!
「おい!悪魔!!!」
集団と別れてから10分ほどしてからアイツを呼び出してみた。
「はいはい。あ、呼び方悪魔になったんですねぇ。」
考えれば考えるほど腹立たしいなこいつ。
「ベツォルトへの入国料ってどんなもんだ?」
「2つ目の願いはその質問の答えでよろしいですか?」
んなけないだろ。と、楯突こうか迷ったが、一つ閃いてしまった。
「2つ目の願いは、『ベツォルトへの入国料の3倍の金をくれ』だ。」
「ふふっ、それでよろしいのですね。ではこちら、15,000ミナルとなります。」
そういうと悪魔は500円玉より一回りほど大きい金貨を3つだけ渡して消え去った。
正直、それを持った瞬間に異常なほどの後悔が押し寄せてきた。
なんでも願いをかなえられる権利だぞ?それがたったの、金貨3枚???
なんというか…まだ工夫すれば何とかなったんじゃないか??
ただ、結果的にこの判断は間違っていなかった。
「い、一括でお支払い…ですか、かしこまりました!!」
衛兵に金貨を1枚見せて入国料を収めようとしたら、随分驚かれてしまった。
どうやらこの国に入国するには
1,決まった期間の間だけ滞在する権利を買う
2,市民権を買う
の2パターンあり、普通は1で入国し、2の場合でも分割にするのが相場らしい。
でもって悪魔がくれた5000ミナルは市民権を買える値段らしい。話を聞いている様子だと10ミナルあれば1日の食費は充分賄えるらしいので、多分相当な額を一括で払ったらしい。
何はともあれ無事入国した俺は手ごろな宿を見つけ無事異世界生活1日目を終えることが出来た。無事入国出来たときはまず冒険者ギルドに行こうと思っていたが、ただでさえ初めての環境で疲れているのに、今からまた色々作業をいなければならないのはあまりにもやる気が起きなかったので、今日は近くの飯屋で適当に済ませて寝ることにした…
「ふあぁ…ん?ああそうか…」
今までと環境が違いすぎて一瞬違和感があったが、どうも随分寝たみたいだ。
この世界では時間という感覚があまりなく、日の出、日の入り、正午、日の出と正午の間、日の入りと正午に各地の時計塔が鐘を鳴らし、それをもって1日の感覚を把握しているらしい。
ベッドの中でうだうだしていたら正午(にあたる時間)の鐘が鳴ったので、相当寝ていたらしい。
初めての異世界での睡眠の余韻に浸りながら遅めの朝ご飯兼昼ご飯を食べて気づいたが、意外と食事のレベルは高いようだ。
パンは当然のように存在しており、また砂糖を作る技術が発展しているのか甘めの味付けのものが多く、甘党の俺からしたらかなり嬉しかった。
一旦落ち着いたらすぐに冒険者ギルドに行こうと思っていたが、現実世界でも海外旅行の経験がなかった俺は物珍しさからついつい無駄な時間を過ごしてしまった…
今は一旦情報収集だ。新しい発見の連続であった俺は浮かれて色々楽観的に考えすぎていた。
だが、程なくして俺は現実を突きつけられてしまうこととなる。
現在の状況
・10000ミナル手に入れた(多分1ミナル=1000円ちょっとぐらい?)
・ベツォルト国?に入国
・残り願い事3つ