アヤシイ男
俺の名前は四絡純。ネット小説を読むのが好きな、しがない会社勤めの男だ。
最近よく「あなたという存在は二人といないのだから特別だ。」とか、「この世に”ふつう”の人なんていない。」なんて言葉を耳にするが、そんな言葉を吐けるのはそれなりの人生を送ってきた奴だけだ。自分でいうのもアレだが、俺の代わりなんていくらでもいる。
今年で25になるが、まあ可もなく不可もない人生だ。こういうと聞こえは良いかもしれないが、刺激がないままこの年になり、多分今後も同じような人生が続くのだろう。かといって人生を冒険できるような度胸もない。
「あーーー、俺も異世界転移出来ねえかなぁー。」
――「じゃあ転移させてあげましょうか?」――
「うわっ!」
振り返るとそこには謎の男が俺のベッドに腰かけていた。
「かっ、金ならあげますっっ、だからっっ…」
「私は強盗ではありませんよ。安心しなさい。」
そう言われた私は何故かすぐに落ち着くことが出来た。目の前の不審者が、俺でも見惚れてしまうぐらいの美男子だったからだろうか。
「強盗じゃ無いんだったらなんなんですか?」
「少なくともあなたに危害を加える者ではありませんよ。そんなことよりあなた、異世界転生を望みましたよね!」
「ま、まあそうですね…」
あまり俺の質問に答える気はないようだ。
「そんなあなたに朗報です!俺があなたを異世界転生させてあげましょう!!今ならなんと願いを5つかなえた状態で!」
いくら何でも怪しすぎるだろ。だが、こいつが一切音を立てずに背後に座っていたのも事実だ。
実力派の不審者にあったのは初めてなので、ちょっと混乱した状態で聞いてみる。
「古典的な悪魔っぽい上に誘い文句が詐欺そのものですけど、代わりに金でも要求するんですか?」
「呼び方は悪魔でも詐欺師でも構いませんが、先ほども申し上げた通りあなたに危害は加えません。
というのも俺、実は別の世界の管理者をやっているものなんです。」
危害を加えないのならまず悪魔と詐欺師は否定してほしいものだ。
「実は異世界ってのはいくつもあって、それぞれに管理者がいるもんなんです。
マンションの管理人然りですが、管理人というのは皆暇でしてね、管理者たちの中で文明の発達度合いを競ってるんです。んで、どうも俺の世界の発展が遅いので、ここでひとつ転生者でも呼んで、起爆剤にしようと思った次第なんです。今までもこちらの世界から何人か送り込ませたのですが、まあ何とも言えない変化しか生まなかったので久しぶりにもう一回やっとこうかなと。」
「あんたが直接その世界の奴らに色々教えてあげたらどうなんだ?」
「二次元の存在があなた達を認識できず、あなた達が四次元の存在を認知できないように、彼らも私のことを認知できないのです。」
「物理のことはよくわからないんだけど。」
「正確に言うと物理の話ではないんですが…そんなことはどうでもいい!とにかく選びなさい!来るのか、来ないのか!」
正直話を聞く限りではワクワクしてしまっている自分がいる。でも本当にこいつを信じていいのか?
てか異世界とかいって本当はやべえ宗教の勧誘とかじゃないのか?
結局いいように金とか個人情報とか取られるだけじゃねえの?
――「lvsvlpupojobuufjsvooeb,ibzblvzftupjf↑1」――
「あぁ、じゃあ安心だ。早く俺を転移させてくれ…あ、その前に願い事を5つかなえられるんだっけ?」
「話がはやくて助かります。ただ願い事には条件があります。
・無限に関することは不可能。(不老不死、願い事を増やせ、等)
・向こうの世界で再現できないものは出せない。(魔法等)
・今いる世界には干渉できない。(一時的に帰る、誰かと連絡を取る、等)
これだけ守ってくれれば、なんでも良いですし、今いっきに5つ叶えなくても大丈夫ですよ。」
「え、魔法無いの?」
「そればっかりは私の世界のシステム上、申し訳ないです…」
「うーーん、じゃあいったん向こうの通貨で10億円ほどいただこうかな?」
「いいのですか?そうするとあなたは家も、お金を入れる袋すらない状態で10億とともに異世界デビューすることになりますが…」
「なんかサービス悪くね…?かといってそのために2つ目の願い事使うのも癪だしな…」
「あ、ちなみに言語も通じませんよ」
「…めちゃくちゃ質の悪い福引の旅行券ぐらいサービス終わってんじゃん…」
「転生にもいくつかルールがあるもんで、申し訳ないかぎりです。」
「なんか騙されてる気分だな…まあでもそういう状況なら一つ目はー、『言語が理解できるようになる!』だ!…あ、ちょっと待て」
「どうされました?」
「これ、おまえの意志にそぐわない行動をしたらどうなる?」
「なにもしませんよ?あなたなりに異世界ライフを堪能していただければ、それだけで異世界への刺激になると思っていますので。」
言質はとった。これが一番欲しかった…!
こいつの言いなりになるつもりはない。断じてない。
「そうかい、そりゃよかったわー。」
「もうよろしいですか?ではもう能力は付与致しましたので、さっそく異世界へgo!!!」
薄れゆく意識の中で最後に一つ聞いてみる。
「…なんで俺を…選んだ…?」
「ふふっ、単純なことです。ある程度知識があり、転移欲があり、それでもっていなくなってもさほど影響がない人物だったからですよ。」
くそっ、本当にナメた野郎だ…
現在の状況
・異世界の言語が理解できる
・願い事残り4つ