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Confesess 対決 爆弾魔  作者: 蓮時
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第五章 


翌朝、六時頃、天美と競羅は荒川沿いにあるトタン造りの建物の前にいた。店主からもらった用紙に書いてある住所である。そこは、町工場の倉庫跡地らしく、引き戸風の小さな小窓があり、正面玄関は赤茶けた鉄の二枚扉であった。

「ここか。またまた、いかにも、という場所らしいね」

競羅は微妙な顔をしながら口を開いた。一方、天美の方は無言である。彼女は、中から聞こえてくる作業音を、厳しい顔をしながら聞いていた。

「さて、これから、どうするかだけどね」

「むろん、中に入って情報、得ないと」

「けどね、簡単には入れないだろ。おそらく、鍵がかかってると思うし」

「とにかく、それも確かめてみないと」

「そうだね、まずは確かめてみるか。奴らに気づかれないように」

 そう答えた競羅は、取っ手に手をかけた。そして、

「おや?」

 と、つぶやいた。

「鍵、かかってなかったの?」

「そうだよ。不用心なことに、かかってなかったよ」

「もしかして罠かも?」

「それはないよ。罠というのは相手を待ち受けるのに使うのだよ。今、中で仕事をしているのだろ。誰も入ってこないと思って油断をしているのだよ。だいたい、こんなところに入ってくるのは、浮浪者ぐらいなものだろ。よくよく考えたら、出入りがしやすいように、鍵がかかってなくても不思議ではないよ」 

 競羅は説明をしながら、そのまま扉を開けた。

扉は、きしんだ音を立てながら開いた。

 中にいたのは三人の男たちであった。制服なのか、三人とも、ハイネックのセーターの上に白衣を着ていた。彼らは仕事に夢中になっていたらしく、戸がきしんだ音がしたのにもかかわらず、誰一人、ふり返りすらしなかった。その代わりというか、

「玉置さんか、遅かったね。例のもの買ってきてくれたかい?」

背中越しに、リード線を持っていた男が声を出した。

「そうかい。あの死んだ男の名は玉置というのだね」

 競羅が鋭い声を出して答えた。

「えっ! 死んだって?」

男はびっくりして振り向いた。金縁眼鏡をかけた小柄な男である。

残りの二人の男たちも、慌てて、彼女たちの方を振り向いた。そのうち一人は、茶縁の眼鏡をかけていた。

「なるほど、その様子じゃ、昨日からテレビを見てないようだね。昨日、アキバに使いにいった男なら確実に死んでいるよ。持っていた爆弾で身体を吹っ飛ばしてね」

「ひえー」

 眼鏡をかけていない男が声をあげた。

 競羅は、その驚いている男の顔を見ながら言葉を続けた。

「ああ、あんたらの作っている爆弾だよ。この様子では、あんたらも昨日のニュースを見ていなかったようだね。ドジったのだろうね、警察も出動して大騒ぎになったようだよ。今頃、連続爆破事件の関係について調べているだろうね」

「あんたも警察か?」

 金縁眼鏡が厳しい顔をして質問をした。

「馬鹿を言っているのじゃないよ。警察だったら、女二人で入ってくるわけないだろ。もっと大勢で来て、今頃、建物は完全に包囲されているよ」

「では、誰だ?」

「誰でもいいだろ。けどね、E計画を止めにきたのは確かだよ」

競羅の発したE計画という言葉を聞き、男の顔は大きくゆがんだ。同時に、残りの二人の顔も険悪になった。

「どうやら、あんたらも知っているようだね」

 競羅は背後の二人にも言い聞かすように言葉を続けた。

「どうして、あんたたちが知っているんだ?」

「さっきも言っただろ。突然、爆死した玉置という男が吐いたのだよ」

「まさか、あの玉置さんが」

 金縁眼鏡が声を発すると同時にあたりはざわめいた。もれたのが、どうしても信じられない様子である。

「こうなったら、生かして返すわけにはいかない」

 茶縁眼鏡が横から声を出した。いつのまにか彼の手にはナイフが握られていた。

「あんたら、やる気だね」

 競羅は言うが早いか、茶縁のナイフを足で蹴り上げ、腹にパンチを埋め込んだ。

 茶縁は、その場に崩れ落ち気絶した。

 明らかに競羅の方が強かった。男たちは理系なのか、格闘がまったくできなかったのだ。また、研究による極度の疲労で身体もまいっていたのである。

 一方、競羅はケンカの達人、そんなことはお見通しであった。

 天美は、またかと顔をしかめながら、その光景をながめていた。

「さあ、次はどいつだい?」

言うが早いか、競羅は、次に眼鏡をかけてない男の襟首をつかんだ。その強い衝撃で、男は泡をふいて気絶した。

「何だよ。こいつら本当に男かよ。だらしないね」

 競羅は呆れ声を出すと、残った金縁をにらんだ。

 金縁は身体じゅうガタガタふるえ、戦闘ができる状況ではなかった。

「とにかく、こっちも、本当はケンカをしにきたわけでないからね。ちょいとした二、三の質問を答えてくれれば許してやるよ」

そして、競羅は質問を始めた。

「まず、最初はE計画っていうものが、どういうものか知りたいのだけどね」

 競羅の言葉を聞き男の顔色が変わった。恐怖に包まれた顔になり、今にも、泣き出しそうであった。

「その様子じゃ、かなりの計画みたいだね。それは、どこで起こすつもりなのだい?」

「そ、それを言うのだけは勘弁してくれ」

男はふるえるように答えた。

「何だって!」

競羅は怒ったように答えると男の腕をねじり上げた。そして、言葉を続けた。

「言えないって! あんた骨が折れてもいいのかい?」

「お、折れても言えない」

「どうも、思っているよりは根性があるようだね。それに免じて、この質問は、あとにまわしてやるよ。まだまだ、色々と聞きたいがことあるからね。では質問を続けるよ。この中の誰がボスなのだい?」

「この中にはいない?」

「いないって、では玉置という男か?」

「彼も違う。ボスは坂梨さんだ」

「坂梨!」

その言葉を競羅は驚いたように復唱した。天美は、その変化を見逃さなかった。

「坂梨って、あの坂梨友重のことかい?」

「そ、そうだ。その坂梨さんだ」

「それで、奴はどこに隠れているのだい?」

「わからない」

「わからないだって! ふざけやがって」

「実際すべて、配信で命令が来ただけで、会っていないのです」

「そんな、世迷いごとが通用するわけないだろ」

「本当です、とにかく、痛いから手を離してくれませんか。詳しいことしゃべりますから」

「ざく姉、離してあげてよ」

 天美の言葉を聞き、競羅は仕方なく男を解放した。


 そして、男は神妙な顔つきで話し始めた。

「玉置さんを含めた僕たち四人は爆弾愛好会として、一つのサークルを作っていました。ある日、そこに、Sという人物から、突然メールが入ったのです。『今の日本を、どう思うかって』いきなりのことで驚き、初めは無視をしようと思ったのですが、相手も、色々と面白い情報を教えてくれるので、話を聞いていたのですよ。そのSという人物、最終的には、私と杉尾だけには、坂梨と素性をあらわしてくれたのですけど、『日本転覆を仕掛けてみないか』と誘ってきたのです。彼のアドバイスで、私たちは法外な報酬をもらい、爆弾を作りました。主に仕掛けは行動的な玉置さんが主でしたが。

 そして、今回E計画を持ちかけられたのです。そのE計画ですが、計画も素晴らしいのですが、爆弾も魅力的なもので、どうしても造ってみたくなり、まあ、僕たちもお金を欲しかったのが事実だったのですが、ついつい、深みにはまって、このようなことになったのです。どうか、命ばかりはお助けください」

そこで、男の説明は終わった。

「だいたい、あんたらの事情がわかったよ。結局、坂梨の行方はわからないってことだね。けどね、その今夜にでも爆発する爆弾は、どこに仕掛けたぐらいかはわかるだろ」

 競羅は詰め寄った。

「それも、わかりません。今も言ったように、玉置さんが仕掛け専門でしたから」

「複数人で仕掛けたことはわかっているのだよ、さっき、折れても言えないとか、言ってただろ! だいたいね、素晴らしいとか、何というふざけた言い草だよ。あんたらのせいで、何人の人たちが死んだと思ってるのだよ! 死ぬことに比べたら、手の一本や二本、折れることなんて大したことないね。さあ、折られたくなかったら、素直に吐きな!」

 競羅のその言葉に金縁眼鏡は真っ青になった。口元はガタガタふるえ精気はなかった。

「本当に死にたいのか! 時間が過ぎるまでは、言う必要はない!」

 そのとき、横から声が聞こえた。いつのまにか、茶縁眼鏡の男が息を吹き返していたのだ。そして、その手には自家製らしき形のピストルが握られていた。

「君たち、申し訳ないが、知っていても、どうしても言えない事情があるのでね」

 男は不気味な笑みを浮かべて言葉を続けた。

「あんたが、杉尾さんか。それより、こ、こんなものまで作っていたのか。けどね、こ、こんな場所で! その辺に、とんでもない爆薬があるだろ」

 競羅がおびえるように声を出した。

「もう、ありませんよ。計画のために、あらかた使ってしまいましたからね。それなりの火薬はありますけど、発砲ぐらいの火では引火はしませんよ。おっと、動かないように、まだ撃ったことないけど、ちょっとでも動いたら、本当に撃ちますよ」

 その威嚇の言葉に、ついに、黙っていた天美が口を開いた。

「ふーん。おとなしくしてたから、まともと思ってたけど悪党は悪党だったね。こうなったら、わったしも決心したし、ここで、あっなたたちの悪事、しゃべってもらおかな」

 ここで、彼女の決めゼリフが出た。だが相手は気に介せず、

「そんなこと、我々が話すわけありませんよ。命が惜しいですからね。とにかく、あなたには、こちらに来てもらいましょう」

 茶縁眼鏡の男性、杉尾は薄笑いを浮かべながら、ピストルを持っていない、もう一方の手で天美をつかんだ。そのとたん、はたらいた天美の強善流。

杉尾は能力にかかると、弾かれたように手を離した。その光景を見ながら、

「あんた、今、使ったのかい?」

「そう、十二時間たってるでしょ」

「確かにそうだけどね。文句を言っても仕方ないから講釈を聞くか」

競羅はそう答え、そして、天美の強善流に屈した杉尾は、昨日の玉置と同様に、過去に自分たちの起こした犯罪について、自白をし始めた。

やがて、その自白の内容は、核心であるE計画のところにさしかかってきた。

ところが、ここで、杉尾の口が口ごもったのだ。

「その、ばばば、場所は、わわわわ・・・」

 杉尾は、まるで、悪霊を見ているような苦悶の形相をしながら、何かを必死に抵抗をしていた。その様子を見て、金縁眼鏡の男の顔色も変わってきた。

 もう一人の眼鏡をかけてない男は、逃げだそうとする始末である。だが、足がもつれたのか配線コードにつまずいて転んでしまった。

 天美は、そのとき、再び、とてつもない危機感を感じた。

不穏な空気の中、能力に屈した杉尾の口が再び開きかけた。彼女の強善流に屈している限り、どんなに、意志が強くても、必ず最後には自白しなければならないからだ。

そして、ついに、

「湾岸の・・・」

と答えかけたのだ。だが、天美はその言葉を最後まで聞く余裕はなかった。

競羅の手を引っ張ると、倉庫の入口に向かって突進したのだ。

「あ、あんた、今、大事な時なのに・・」

競羅に最後まで言わせず、天美は全速力で、倉庫の入口を駆け抜けた。

駆け抜けたと同時に、背後から、誰でも爆音とわかる大音響が響きわたった。

 その倉庫が大爆発をしたのだ。男たちの言葉通り、それなりの火薬はあったのだろう。あっというまに建物は木っ端みじんになっていた。

「大丈夫?」

 天美は、身体を伏せながら競羅に声をかけた。

「ああ、ひどいことになったね。まさか、急に爆発するなんて」

「あれでは、中にいた人たち、みんな、助からない!」

「そうだろうね。こっちも、わけがわからないよ。とにかく残念だけど、こうなったからには長居は無用だよ。今の音で警察が飛んでくるし、一旦は戻るよ」

競羅の声を聞きながら、天美は口惜しそうに、くちびるを振るわせていた。



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