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Confesess 対決 爆弾魔  作者: 蓮時
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第二章 


 その二時間後、天美と競羅は、新宿区羽衣町の雑居ビル内にある御雪の事務所、フェアリーサーチ探偵社の中で、彼女の説明を聞いていた。

 そこには、もう一人、探偵助手である川南絵里が同席しており、彼女は興味深そうな目をして、一連のやりとりを見つめていた。

「これが、今までの爆破事件の現場なのですが」

 御雪は答えながら、携帯用モニターを二人の前に持ってきた。

 その表示画面には、東京周辺の地図と爆発事件の起きた日付やデータが打ち込まれており、地図の部分には、四カ所の×印と二カ所の△印がついていた。

「全部で六件か、こんなにあったかね」

 競羅は、ため息をつきながら口を開いた。

「さようで御座います。今回の高輪の事件で七件目です」

「本当に、あちこちで起きたものだね。ところで、この×と△の違いは何だい?」

「この△印は、警察が、一連の犯行とはみなしておられらない事件です」

「ということは、違うのかよ!」

「さようで御座います。練馬と湾岸の事件なのですが、練馬の方はガス爆発の可能性が御座いますし、湾岸の方は人為的なのですけど、爆薬の種類が違っていたのです」

「違ってたの?」

 天美が声を上げた。

「さようで御座います。確か三件目の事件でしたか。詳しいことまでは存じ上げませんが、爆破の規模も違っていたようです。一連の事件は最新式の固形爆弾のようなものですが、湾岸の事件はダイナマイトです。警察も、当初は一連の犯行だと疑っておられたのですが、次の犯行で以前の形態に戻りましたので、便乗犯ということになりました」

「何か変?」

 天美の声に競羅が反応した。

「おや、そうかい。変でもないよ、ダイナマイトの部類なら、ネットや、用心の悪い工事現場に行けば手に入るものだからね」

「さようで御座います。しかし競羅さん。今回の連続爆破事件、それこそ毎日、ひっきりなしに報道をしているのですが?」

 御雪はいぶかしむように声を出した。

「おや、そうかい、あんなの(ワイドショー)見ていると気分が悪くなってくるのだよ。まして、ネットのニュースなんて、嘘八百か脅かすような内容ばっかりだからね」

「そうだぜ、おれも嫌いだぜ、うるさいし、みんな勝手に予想しているからな」

絵里が口を挟んできた。彼女も競羅同様、アナログ人間だからだ。ただ、違うのは競羅は、まったく流行を無視するのだが、絵里はすぐ、それに、のってしまうことか」

「ほほほ、さようで御座いましたね。しかし、ここまで、無頓着でしたとは」

「いや、こっちも、事件が事件だから、気にはなっていたのだけどね。それはそうと、次はどこで起きるか、あんたは予想がつくかい?」

「かようなこと、予想をできますなら、今日の爆発も防ぐことも可能でした」

 その答える御雪の顔は険しかった。

「まあ、言われてみれば、確かにそうだけどね」

「肝心な警察は、何やっているのだろう?」

絵里が不満そうに口を出した。

「もちろん、彼らも必死で捜査をしていらっしゃると思われます」

「だらしねえなあ。皇居や国会や都庁とかが爆破されたら、どうするつもりなのだろう?」

「あんたねえ、そういう場所は、普段から最重要警戒地点だよ。まして、今は爆弾事件の最中だろ、水ももらさぬような警戒をしているよ」

競羅が説明に入った。

「そうかよ。つまんねえな」

 どうやら、絵里は、そっちの方の爆発だけは期待していたようである。

「しかし、実際のところ、こういう事件が続くと困るね。爆弾犯を捕まえると称して、中心地の警備だけは、より一層厳しくなるからね。各地での検問も多くなっているし、そうなると車の移動も面倒になるしね」

「それに、所長のおやじの会社の持ちビルも、いつ狙われるか、わからねえしな」

「絵里さん。その自分勝手なお言葉、いい加減にしなさい!」

御雪が怒り声を出した。一連の発言に我慢できなくなったのであろう。

「けどね。もう、犯人には勝手なことはさせないよ。こっちは、切り・・」

 突然、競羅は言葉を止めた。

 そして、慌てたように言葉を続けると、

「とにかく、こういう犯人は、必ず捕まえないといけないね。世の中が安定になるからね。それで、あんたたちは、奴らのたまり場は、どこにあると思うのだい?」

 と、少し妙な質問をした。

「さようなこと、とても、わたくしには想像もつきませんが!」

 御雪は、再びいらだった口調で答えた。

「そうだろうね。よく考えたら、そんなことわかるわけないね。では、そろそろ帰るとするかな。用事も終わったからね」

 競羅は天美に声をかけた。

「もう、行くの?」

「ああ。聞くことは聞いたから、これ以上、ここにいても仕方ないね」

「でもまだ・・」

「とにかく、出るのだよ」

 競羅はそう言い、戸惑い顔の御雪をしり目にその彼女の事務所を出た。

事務所を出るやいなや、天美が話しかけた。

「どうしたの? 来たばっかりなのに?」

しかし、競羅は、その言葉を無視した。彼女は、そのまま無言で建物を出ると、自分の車が止めてあるビルの駐車場に、足早に歩いていった。

そして、自分の車のところにたどりつくと、天美に向かって声をかけた。

「さあ、乗るよ」

「でも・・」

 天美は、まだ不満そうであった。

「いいから、早く乗りな」

 結局、天美は渋々、競羅に従い彼女の車に乗ったのである。


 しばらく、走ったところで競羅が声をかけてきた。

「あんた、さっき、何か聞いていたね」

「それだけど、どうして、急に帰る気に、なったかって」

「前も言っただろ。あの建物内では、重要なことをうかつにしゃべるなって。まったく、あんたは、まだ、御雪のずるさを知らないね」

「今回、変なこと言ったかなあ」

「あんたの方は違うけど、こっちの言葉の方がまずかったのだよ。さっき、あそこで、うっかり、とんでもないことを言いそうになったからね」

「わったしは気づかなかったけど」

「こっちも慌てて止めたし、御雪も精神が高ぶっていたからよかったね。いつもの状態だったら、ばれるとこだったよ。だから、急いで出ることにしたのだけどね」

 競羅は、実際、顔色を変えていた。

「ばれるって?」

「その前に、あんたに、あやまらなくてはいけないのだけど、御雪に会う前にかけた電話、つい成り行きで、あんたが事件に遭遇したことをしゃべっちまったのだよ」

「それぐらいなら、わったし、気にしないけど。所長さん頼りになるし」

「けど、まずかったのだよ。さっき、『こっちは切り札を持っているからね』と、うっかり、言いそうになったからね。あのときは本当にあせったよ」

「切り札って?」

「そんなの、あんたのことに決まっているだろ」

「今一つ言ってる意味、わからないけど」

「御雪は、あんたが事件を目撃したことを聞いているのだよ。となると、犯人に対する切り札と言ったら、これしかないだろ。あんたが、犯人の顔を見ていたということだよ」

「そ、そんなことなの? それぐらい、教えてあげてもいいのに」

「あんた、御雪の性格を知っているだろ! また、おとりにされたいのかい!」

「あの憎たらしい犯人、捕まえるためなら、喜んで、おとりになるけど」

 天美はそう答えた。実際、おとりになって性犯罪事件を何度も解決したのだ。

「そのされ方が問題だよ。御雪のことだから、かなりの手を使うと思うよ。知り合いの弁護士や女性雑誌記者などと一緒に、派手に宣伝をするだろうね。【爆発から危機一髪で逃れた少女、犯人に見覚えが】とかね。そうなったらどうするのだよ? 接触してくるのは犯人だけではないよ。うっとおしいと思うけどね」

「でも、次の事件、起きるまでに捕まえるには、その方法しかないと思う」

 天美は肯定的であった。

「でもね、果たして、それだけですむのかね。そんなことすれば、警察だって指をくわえて見てなんていないよ。当然、あんたを聴取しにくるし、そうなると、知り合いの警部にだって、ばれるのだよ」

「十条さんのこと!」

 天美の表情が明るくなった。

「そう、その十条警部のことだよ。また、叱られるだろうね。『あれほど、何度も注意をしておいたのに、懲りずに事件に首をつっこんだ』てね」

「それは、ちょっと」

「だろ。だから、この、おとり作戦はまずいのだよ」

「だったら、どうやって、次の爆破、防ぐつもりなの?」

「そのことだけどね。頼りになるのは、やはり、あんたの記憶だよ。あの事件のこと、もう少し詳しく、思い出せないかい?」

「詳しくって?」

「まず、そいつが、どうやって爆弾を仕掛けたかだよ」

「仕掛けたって、確か一度、店の中、入って来て」

「それで?」

「しばらく、きょろきょろして、すぐに出てったと思うけど」

「それだけか、あとは、何か思い出せないかい? どのような不審行動をしたか、または、手に何か持っていなかったか」

「あ、そういえば!」

 天美の、そのリアクションに、

「何か重要なこと、思い出したのかい?」

 競羅は目を輝かせて尋ねた。

「うん。小さな紙包み、持ってた。きっと、あれが爆弾!」

「それは、どれぐらいの大きさだい?」

「確か、消しゴムぐらいの大きさだった、と思うけど」

「もう間違いないね、小型爆弾だよ。それぐらいの大きさなら誰かを捜す振りをして、素早く、どこかのテーブルの下に隠せるからね。しかし、今の爆弾はすごいね。その程度の大きさでも、ビルが全壊かよ」

「くやしい! そこで、気づいていれば、あんな惨劇ふせげたのに!」

 天美は興奮した声を上げた。

「仕方ないよ。いくらあんたでも、そこまではわからないよ。第一、この話が出るまで、その包みのことは、思い出さなかったのだろ」

「だからこそ、自分に腹立つ!」

「そういうものは、あとからあとからと思い出すものだよ。たいてい、そのときは、気づかないものなのだよ」

「でも、最初から爆弾と気づいてたら、絶対、仕掛けさせなかったのに! そうすれば、中にいた女の人や子供たちも死ぬことがなかった」

 天美は、なおも、あきらめきれないように言葉を続けた。

「そんなの仕方ないよ。こっちだってそうだよ。食事をするくらいで、いちいち、人の持っている荷物なんてチェックしないよ。まして、それが爆弾だなんて誰が思うかよ」

「だけど、爆弾事件、続いてたこともわかってたのよ。どうして、あのとき、そこまで頭結びつかなかったのか、今更ながら!」

「それ以上、自分を責めたって仕方がないだろ。余計に頭が痛くなるだけだよ。それより、他に思い出したことはないのかい?」

「あとは、もう! 腹立って、何も考えつかない!」

「よく考えたら、そうかもしれないね。これで、事件の話はもう終わりにするよ。夜も遅いし、あんたも精神的に疲れているだろうと思うからね」

 競羅は優しい口調で言った。

「さあ、このまま、あんたの家に送っていくよ。かなりの興奮状態だからね」

 そして、天美は自宅に戻ったのである。


 その夜、天美は寝付かれなかった。やはり、今回の事件は、彼女にとって、かなりの衝撃度であったのだ。まるで、セラスタ時代を彷彿させる体験である。

まぶたを閉じようとするたび、犯人の顔と爆破現場の赤い炎が脳裏にうかんだ。

ズドドーン ぎゃあー ママーあついよー 

 次から、次へと、爆音と逃げまどう人たちの声が頭の中に響いてきた。

「もう、やめて! たくさん」

 彼女は思わず叫んだ。だが、再び、まぶたを閉じても、その状況は変わらなかった。逆に、前より鮮明になってきたぐらいである。

「あの男の顔だけは、もう絶対絶対、忘れない!」

 天美は怒りで、こぶしを握りながら、つぶやいていた。



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