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Confesess 対決 爆弾魔  作者: 蓮時
16/18

第15章 

爆発五分前になりました

十五


午後七時五十分、爆破十分前、ビル内に入った競羅は地下の現場に到着した。

 その現場には、種間記者を始め新聞記者は、もう一人も残っていなかった。爆破時刻が近づいているため強制的に追い出されたのだ。

中にいたのは、犯人の坂梨、鈴木警部補、渡辺、小林、佐々木刑事。そして現在、ドリルで落盤を崩している爆発物処理班の大黒主任の六人だけであった。

 鈴木警部補は落盤に向かって大声を出していた。

 競羅は現場に着くなり、刑事たちの背後から声を張り上げた。

「おーい。あの子は無事かい?」

 その声に、鈴木警部補は振り向いた。そして、

「何です! いきなり!」

 厳しい表情をして競羅をにらんだ。

 残りの三人の刑事も同様に彼女をにらんだ。

「鈴木さんか。こっちの顔に見覚えはないのかい?」

「朱雀競羅さんでしたかな。よーく、覚えていますよ。高橋君から入ったことも」

 警部補は皮肉っぽい口調をして答えた。

「それなら、何の用事で来たかわかるだろ」

「例の少女のことですね。あなたと、あの新聞記者は親しいですからなあ」

「ああ、わかっていたら話が早いね」

「しかし、本当に無茶をする人ですね。今はこんな状況なのに」

 鈴木警部補は答えながら、顔をしかめていた。

「どんな状況かは、じゅうじゅう承知の上だよ。それより、あの子の方こそ、どういう状態になっているのだよ?」

「一応、無事ですけど」

「よかった。では会わせてもらえないかい」

「そうさせてあげたいのは、やまやまですが」

 警部補は気の毒そうに、大黒主任が掘削している崩落現場の方を振り向いた。

「まだ、こんな状態なのかよ! 爆破時刻が近いのに!」

 競羅は天をあおぐように声を出した。

「見ての通り、この状態では何とも」

「それで、あんたは何をしていたのだよ!」

「先ほどから、警部と会話をしていましたが」

「と、いうことは向こうとは連絡が取れるのだね」

「はい、大声を出せば何とか」

「そうかい。よかったー」

 競羅は安堵の声を出すと、質問を始めた。

「それで、この落盤のことだけど、救助隊には連絡をしたのかい?」

「もちろん、連絡をしました」

「それで、どうだったのだい?」

「難しいですね。準備ができしだい、ヘリで出発をするという連絡は入っていますが、とうてい、爆破時刻の八時までには・・」

 警部補の返答に競羅はがっかりとしたが、すぐに納得したように、

「確かに、言う方が無茶だったね」

「そんなことはありません、気持ちはわかりますから」

「仕方ないね。爆破まで、あと十分か。残った人数で何とかしないと」

 競羅は不満そうにつぶやきながら、崩落現場に近づいた。

 そのとき、ドリルの掘削音に混じって、

「ざく姉! 来てくれたの!」

 落盤の向こうから明るい声がしたのだ。天美である。

「あんた! 無事だったのだね!」

 競羅は反射的に声を返した。

「何とか、しかし、ざく姉の声、相変わらず迫力あるー こんな、うるさい音の中でも、はっきり聞こえてきたから。今、ちょうど前にいるのでしょ」

「ああ、すぐ前だよ。待ってな。もうすぐ助かるからね」

そのとき、突然、彼女の背後から、

「えへへへへ。果たして、助かるかなあ」

 その競羅をあざ笑うような声がしたのだ。声を出したのは坂梨である。坂梨は、なおも挑戦するように言葉を続けた。

「わしの爆弾は完璧だ。助かるわけないよー。あと少しで、みーんな、おしまーい」

「何がおしまいだって!」

 競羅は怒りの目をして振り向いた。

「えへへへへ。お姉さんとやら、どうも、怒ったみたい。命が惜しかったら、おとなしく帰った方が、いいのじゃないかな、ははは」

「もう一度、言って見ろ!」

 競羅は坂梨に近づくと、その襟首をつかんだ。

「おたく! 何をするの!」

慌てて、佐々木刑事と渡辺刑事が止めに入った。

「何をするって? こいつをしめるのだよ。解除ワードを吐かせるためにね」

「それは暴行だよ。拷問は禁止されているんだ!」

「何をふざけたことを言っているのだよ。時間がないだろ!」

「ですが、被疑者への拷問は禁止されているのです」

 小林刑事も反論をしてきた。

「そんな、杓子定規みたいなことを言っている場合じゃないだろ! こんな、弱っちょろい年寄り、しめ上げたら吐くよ。もう、ここには、あんたらを監視する新聞記者はいないのだよ。ぼこぼこにしても構わないと思うけどね」

 ところが、坂梨は相変わらず、不気味な笑いを続けていた。

「えへへへへ。でもねえ、わしは、なーんにもしゃべらないよ。面白いから」

「面白いだって!」

 競羅はつかんでいる手に力を加えた。

「あはははは、苦しいなあ。お姉さん、わしが憎いなら、殴ってもいいし蹴ってもいいぞ。どうせ、しゃべらないからな。もっともっと、極楽だ」

 坂梨は陶酔した表情をしていた。

「何だよ! こいつは、いっちゃってるのかよ」

「実は、本庁内の取り調べのときから、ずっとずっと、この調子らしいのです。ベテラン取調官も手を焼いてしまって」

 鈴木警部補が苦々しい顔をしてそう説明をした。

渡辺刑事も同様な顔をして言った。

「こいつは、あきらかに狂っているよ。だから、あんたも相手にしない方がいいね」

「参ったね、これでは!」

 競羅は口惜しそうに手を放した。

「わしの勝ちだ。最期に女を道ずれとは、これはまた、あはははは。きっと、その中の子も、あんたと一緒なら、さびしくないでしょうなあ」

 その言葉に、今まで我慢をしていた競羅も堪忍袋の緒が切れた。胸ポケットから、ハンカチを取り出すと、それを紐状にして坂梨の口に押し込み、がっちりと結んだのだ。

 あまりにものことで、あっけにとられ、四人の刑事は声も出なかった。

 やがて、小林刑事が声を出した。

「あのう、そんなことをしてもらっては困りますけど」

「何が困るのだよ! どうせ、こいつは吐く気はないよ。それなら、おとなしくさせていた方が精神的にいいだろ。馬鹿笑いを聞かずにすむしね」

「ですが、万が一、自白をする気になったときは」

「ごちゃごちゃうるさい人たちだね。わかったよ、では、こうすればいいのだろ」

 面倒くさそうに答えた競羅は、坂梨の口に食い込んだ、くつわの紐を、ぐいっとつかみ、

「いいかい、解除ワードを話す気になったら、足でトントントンと、ゆっくりと三回ステップを踏みな。それ以外では、そんな、まぎらわしい行動をしたら許さないよ。もし、はずしても、何もしゃべらなかったら、そのまま、首を絞めるからね」

 厳しい目でにらみつけたのだ。

 モゴモゴ

 声が出ない坂梨は、そのような返事しかできなかった。

「どうやら、承知をしたようだね」

 競羅は満足そうに声を出し、四人の刑事は呆れたように、その競羅を見つめていた。


 やがて、時間は過ぎ、爆発五分前になった。

ドリルの掘削が内部まで進んだのか、その音は以前より大きくなり、お互いに、向こう側とは、連絡が取れない状態になっていた。

「困ったね。こんなにうるさくなっては、もう、あの子とは話ができないよ」

 その口惜しそうにつぶやいている競羅に向かって、警部補が声をかけてきた。

「さあ、あなたも、そろそろ、ここを退出してください」

「退出? あの子をおいてかい?」

「はい、仕方ありません。あと、五分で爆発ですから」

「そんなことはわかっているよ。だからといって、こっちだって帰る道理はないだろ」

「あなた、そんな無茶を言って。死にたいのですか!」

「あの子と死ぬのなら本望だね。最近、世の中、いいことがないからね」

「そんなこと、おっしゃられても困ります、一般人を巻き込むわけにはいきませんから」

「もう、しっかり巻き込んでいるだろ。あの子を!」

 競羅の声が甲高くなった。

「もちろん、中の少女は、私たちが全力で救出します」

「あんた、状況をわかって言っているのかい」

「むろん、わかっています」

「それでも、間違いなく、助けることができると言うのだね」

「間違いなくとまでとは、はっきり、申し上げられませんが」

 警部補のトーンが下がった。

「それじゃあ、困るのだよ! きちんと助けてもらわないと」

「こちらも、警部の命がかかっているのだよ! 言われなくてもわかっているよ」

 横からいらだった声が聞こえた。渡辺刑事である。

「何と言われようが、ここを、どかないよ」

 その競羅の態度に、しびれを切らしたのか、鈴木警部補の言葉が命令口調になった。

「佐々木君、小林君、渡辺君、君たちも、この女の人を連れて退去しなさい!」

「私たちもですか?」

 小林刑事が聞き返した。

「そうです。あなたたちもです」

「警部補殿は?」

「私はいい。警部と運命をともにする。それが職務だ! 表にいる高橋君に声をかけて、一緒に立ち去りなさい!」

「ですが、私たちだけというわけにはいきません。一緒にいきませんと」

「君たちは、まだ将来がある。上層部も理解してくれるよ」

「では、捕まえているこいつはどうするのです! まさか、連れ帰るわけでは?」

 渡辺刑事が困ったように声を出した。

「それは私が管理する。君たちは、早く、この女の人を連れて、出ていきなさい。これは、私の命令です」

「わかりました。警部補殿!」

 佐々木刑事がそう答え、小林、渡辺両刑事も敬礼をした。そして、渡辺刑事は競羅に近づくと、その腕をとろうとした。

「あんたら、もう、構わないことね!」

 競羅は顔を紅潮させ、その腕を振り払うと、鈴木警部補の方を向いて声を出した。

「鈴木さん、あんた一人だけで、いい格好はずるいよね。こっちも何と言われようが、この場所に残るよ」

「それは、絶対にダメです」

「とにかく、我々と一緒に帰ってもらう。どんなことをしても帰ってもらう」

 渡辺刑事はそう強い口調で答えると手錠を取り出した。

それでも、競羅は負けなかった。

「ああ、かけてみなよ。鈴木さん、本当にいいのかい。あんた、どうやら、ここにいる三人の刑事の将来を大事にしているようだけど、強引に、こっちを連れ出すようなことをしたら逆効果だよ。こっちが、真知の記者と仲がいいことは知っているだろ。カメラの前で泣き顔で、『この三人の刑事は、願いを無視して十五才の少女を見殺しにした』と、しゃべってみな。もう、刑事はできないよ。それでもいいのかい?」

競羅の威嚇言葉に刑事たちの顔は真っ青になった。そして、先ほどまでの強気の態度はどこにいったのか、渡辺刑事は、こびるような目をして警部補を見つめた。

 競羅を連れて行く気は完全になくなったようである。

 それに、追い打ちをかけるように競羅の言葉は続いた。

「おや、あんたら、元気がなくなったようだね。やはり、自分の身が可愛いのだろ。そういえば、一度も、あんたたちからは、『自分たちも残ります』と、いうような、声が聞こえてこなかったからね。警察も昔と違って人材がいなくなったものだね」

その競羅の反撃に鈴木警部補はついに折れた。

「わかった、渡辺君、小林君、佐々木君。まずは君たちだけで行ってくれ。この人のことは、私が説得をするから」

「ですけど、警部補殿」

「とにかく、時間がない。早く行きなさい」

 結局、三人の刑事は現場を退去していった。



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