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Confesess 対決 爆弾魔  作者: 蓮時
14/18

第13章 

何とか、爆破現場に潜入することができた天美。ここで、思わぬアクシデントが起こる。

そして、絶体絶命のピンチ

十三


 声をかけた検問場所は、ETLSまで一番近く、直線一キロの地点である。

「真知さんですね」

提示された社員証を見ながら警官は言った。その質問に数弥は、

「そうす。先輩のところに合流をしに行きます」

「そちらは?」

 警官の尋ねた対象は天美だ。紺色のつば付き帽子に、茶縁メガネ、グレイのブレザーを羽織っていた。確かに報道記者に見える服装である。

「今年入ったばかりの駆け出しす。現場を体験させようと思って連れてきました。社員証はまだありませんが、間違いなくうちの社員です。さあ、名刺名刺」

 数弥にうながされ、天美は打ち合わせどおりに名刺を提示した。その名刺には、真知新聞社の社名と、かねてから作ってあったのか、架空の女性の名前が刷ってあった。

 警官は名刺を惰性的に一瞥した。そして、何も怪しむ様子もなく言った。

「では、お通りください」

こうして、天美は非常線を抜けたのであった。


「こんな、簡単に抜けれるなんて?」

背後の警官の姿が見えなくなると、天美が声を上げた。

「ですから、記者の姿を警官が認めてくれたんすよ」

「でも、罠にかかったみたいで。気持ち悪いというか」

「そんなことはないすよ。結果的には抜けられたんすから、いいじゃないすか」

「この国の治安、こんなことで、いいのかなあ」

「もう、そんな、感想はどうでもいいすから、まずは、先に進みませんと。では、打ち合わせ通りに、一端、ここでお別れすね」

そして、数弥はビルの方向に走っていった。


 七時半少し前、その打ち合わせ通り天美はETLSに到着した。そこは、ロープ前の厳しい警備とはうってかわって、石で造られた両端の踊り場に通じる階段前を含め、どこにも警備の警官の姿はなかった。爆破時刻が刻々と迫っていることも確かだが、正面玄関を除いては、すべての出入口が中から施錠されているからでもあるからだ。

 その正面玄関には、十条班の高橋刑事が、形だけの見張りとして立っていた。

天美は外階段を登って、二階に当たる踊り場に着いた。そして、そこから 見つめるなか、数弥は、その高橋刑事に社員証を見せて中に入っていった。

 さて、ここからが問題である。作戦を成功させるためには、その天美を建物の中に入れなければ何も始まらない。数弥は中の階段で二階の場所まで登ると、当初の予定通りに、踊り場に通じるドアの内ロックをはずし、その取っ手を引っ張った。

何と、そのドアは簡単に開き、警報機すら鳴らなかった。あらかじめに、踊り場に待機をしていた天美は、そのドアが開くと同時に素早く中に入った。

「どうして、ここから、簡単に入れるの?」

 中に入った天美は、数弥に向かって不思議そうに尋ねた。

「だから、打ち合わせの時にも説明をしたでしょう、この建物は二十四時間年中無休なんすよ。また、二階は温泉施設ということで、この場所のドアは、本来なら、いつも解放をされているんす。今日は、このような事件が起きたので閉められていましたけど」

「だけど、手であけることできるなんて」

「これも、防犯上の理由すよ。昔は、このような、ハイテクビルで災害があったとき、勝手に機械制御がはたらき、閉じこめられて、かえって、命を落とした人が多かったすからね。ですから、この踊り場に通じるドアだけは機械任せにはせずに、万が一のときのために、中から手で開けられるようになっているんす」

「でも、まわりに、警備一人もいないなんて、なんか、やっぱり、罠にかかったみたいで」

「その言葉、さっきも言ってましたね。いいすか、警察としては、危険なところの人数は、なるべく制限したいんすよ。その分、非常線の方は厳しかったでしょう」

「厳しいねえ」

そう答える天美はじと目であった。

「それに、だいたい、この時間にビルに侵入するのは自殺行為すよ。これが逆に、今から爆弾を仕掛ける、というのなら、まったく、話は別すけど。それよりも、今はまず、現場に急ぎましょう。爆発まで、あと三十分ぐらいしかありませんから」

「それだけあれば、充分だと思うけど」

「こういうことは、早いに超したことはないすから。何が起きるかもわかりませんし」


そして、二人は地下の現場に向かった。そこは、昼間のときと違って、こうこうと照明が輝いていた。むろん、爆破処理をしやすくするためである。

 二人は爆弾が仕掛けられている自販機に向かうため、昼間と同様に通路を曲がった。

 そこは当然のごとく、数人の警察関係者が場を仕切っていた。手前には進入禁止のロープが張られ、一人の男が見張りに立っていた。十条班の佐々木刑事だ。

また、ロープの向こう側には十人の男がいた。五人の爆発物処理係、爆弾犯の坂梨、十条警部と鈴木警部補、そして、小林、渡辺の二人の刑事だ。

 処理班は真剣な表情で、専門器具を使いながら爆弾解体作業を続けていた。

 小林、渡辺の両刑事は交互に、手錠がかかり腰縄をうたれた坂梨を尋問していた。

 天美はその坂梨を見つめた。坂梨は、超高齢の白髪頭の男である。だが、その目は異様に輝いていた、さながら、マッドサイエンストのような。

 一方、十条警部は、警部補や部下の刑事たちと離れたところで腕を組み、悲壮を込めた厳しい顔つきをして、その坂梨をにらんでいた。

 また、ロープの手前では、各会社の腕章をはめた新聞記者が数名、望遠レンズを使い、忙しそうに前方を写していた。その記者の中に見知った顔の人物がいた。赤いジャケットを着て、真知新聞の腕章をつけた男性を見つけたのだ。数弥は思わず声をかけた。

「あっ! ここの担当は、種間先輩だったんすか」

「おっ、野々中か。本当におまえ、今日も大手柄だったなあ。おまえがつかんだ情報のおかげで、あの坂梨が捕まったのだぜ。今回もトクやデスクが感心していたよ。社長も、ずっとニコニコだよ。だから、ここでも特別待遇だよ」

 種間記者も応答をしてきた。

「いや、大したことないすよ」

「ところで、その子は、どうしたのだい? おまえが、よく、連れ歩いている子だけど」

 そのときの天美は、帽子もメガネも取り、グレーのブルゾンを脱いでいた。

「ええ、この子すか。実は今日、たまたま、会うことになったんすよ」

「たまたま? それはまた、どういうことだい?」

 種間記者は不思議そうな顔をして問い返してきた。見張りの佐々木刑事も、気になったのか、二人の会話に耳をかたむけた。ある意味、当然の反応であろう。

 そして、数弥の弁解が始まった。かねてからのシナリオ通り、

「確かに、先輩が不審がるのは、もっともすよね。また、偶然が起きたんすよ」

「偶然って?」

「僕が、こういうことを言うのも変なんすけど、この子、すごく事件とか、そういうものに興味があるんすよ」

「だから、ここまで、連れてきたのか!」

 種間記者の言葉がとがった。とんでもないことをしてくれたな、という目である。

「まさか、いくら何でも、そんな理由で、こんな、危険なところに連れてくるわけなんてないじゃないすか。実は、一時間程前に、この子から、僕の携帯に電話がかかってきたんす。どうも、話を聞いてみると、偶然にも、このビルに遊びにきて、この爆弾騒ぎを知ったようなんす。おとなしく避難誘導に従えばよかったんすけど、どうやら、持ち前の好奇心が持ち上がってきたみたいで、トイレか、どこかに、絶対に見つからないように隠れていたようなんすけど、やはり女の子、不安になって」

「それで、結局、ここにか?」

 種間記者は呆れたような声を出した。

「ええ。僕も、徳本さんから、いまだに解除ができてないと聞いたもんすから、どうしても気になって、このあたりを取材していたんすよ。だから、何とか駆けつけることができたんす。それで、二階まで迎えに行って、戻ってきたところす。あっ、二階にいくとき、そのあたりの話は玄関にいた刑事さんにも了解を取っています」

「なんだかなあ」

「そのあと、初めのうちは、一緒に連れて帰ろうと思ったんすけど、やはり、えへへ、ここまで来たら、現場を見たいじゃないすか。でも、そうなると、この子を一人で帰らせないといけないし、そんなことは危険すから、そうこう思っているうちに、この子が言い出したんすよ。『どこかに、十条警部がいるはずでしょ。さっき、声がしたんだから、そこに連れて行って』と。よくないこととは思ったんすけど、やはり実際、一人で外に出すわけにはいきませんし、まずは、警部に会わせる方がいいと判断しまして」

「結局、そういうことで連れてきたのだな!」

 声を出したのは佐々木刑事である。彼は怒ったように続けた。

「やはり君か! いつも、危険なことばっかり、首を突っ込んで!」

佐々木刑事は天美をしかりつけた。そして、十条警部の方を向くと、困ったような顔をして、大声で叫んだ。

「ちょっと、警部! また、この子ですよ。何とかしてください!」

十条警部は、佐々木刑事に呼ばれるまで、天美の存在に気づかなかった。それだけ、坂梨の方に意識を集中していた。今回、自分の取った行動は、刑事生命、いや本当の命を賭けたものなのだ。実際、坂梨が最後まで自白しなければ、爆死は確実の状況でもあった。

「警部、本当に、何とかしてください!」

 その声に、十条警部は、ようやく我に返った。そして、反射的に、佐々木刑事の方に振り向き、天美がいることに気づいた。

 天美と警部は目と目があった。警部は何とも言えない複雑な顔をした。たとえて言えば、自分が、命がけで働いている危険な現場に、娘が見学をしにきたような気分であろう。

 天美も、すまなさそうな顔をして、警部を見ていた。その様子を見て、

「天ちゃん、これは、警部にあやまりにいった方がいいすね」

 数弥が声をかけてきた。計画通りの行動である。しかし、その天美は、警部のいる方角を真剣に見つめているだけであった。

「どうしたんす。早く、あやまりにいかないと」

 その数弥の声に、天美は、ピント違いの質問をした。

「ところで、一つ気になることあるけど、さっきから、処理係の人たち、あの変てこりんな機械、使って何してるの?」

 天美が気になっているのは、およそ、爆破の解体には似つかわしくない、高さ約三十、幅約五十センチで、パラボラアンテナがついた機械であった。

「今は、そんなこと、どうでも、いいじゃないすか」

「でも、あの機械が、どうしても気になるのだけど」

「そんなこと言われても僕だってわかりませんよ」

「これは、音波を出して、爆弾を止めようとしているんだ」

 会話が聞こえたのか、機械近くにいた渡辺刑事が答えた。

「音波で爆弾をすか?」

 数弥は不思議そうに問い返した。

「まだ、専門の人間しか知らないと思うけどね。起爆を止めるときに、超音波を流す方法もあるのだよ。今回は、ありとあらゆる方法を使って、爆破を止めなければならないからね。だから、ここで使っているのさ」

「でも、全然、音らしきものは聞こえませんね」

「それは当たり前だよ。人間の耳には聞こえないヘルツ数だからね。もし、聞こえているとしたら、頭が痛くなるはずだぜ」

「やはり、これは超音波の発信器ね。それで、あの場所が、あっ!」

 天美は答えると同時に、ロープをくぐって駆けだしていた。

「天ちゃん、いきなりは作戦と違いますよ」

「あっ、ちょっと、君、待ちなさい!」

 数弥と佐々木刑事が声を出した。

 しかし、天美は止めるのも聞かず、猛然と走っていた。彼女は、十条警部の方に走っていった。しかし、なぜか、途中にいる坂梨には目もくれずに、

「本当に、君、何をやっているんだ!」

 佐々木刑事が再び声を上げた。まさに、そのとき、

 近くから、何かが崩れてくるような落下音が響いてきた。

「おい、今の音は何だ? 警部のいた方角だぞ」

「何だ、何だ! 爆発か!」

 渡辺刑事と佐々木刑事が口々に叫んだ。

 刑事たちが見つめると、あたりは、すなぼこりで、もうもうと煙がたちこめていた。

 しかし、現場は、ある場所を除いては何も起きていなかった。もし、爆弾が爆発していたら、こんな発言すら、できなかったであろう。

 まもなくして、砂ほこりが収まり視界が開けた。

 そして、刑事たちは息をのんだ。何と目の前に、十条警部がいなかったのだ。ちょうど、彼が立っていた場所は、コンクリートの瓦礫で埋まっていた。

「まさか、警部、ひょっとして押しつぶされて・・」

小林刑事が、しぼり出すような声をした。

「そういえば、誰かが、こっちに走って来たような」

 渡辺刑事も目をこすりながら口を開いた。

ロープ前の数弥、佐々木刑事も唖然とした表情である。

「て、天ちゃん・・」

 あまりにものことで、数弥は、これ以上、すぐに声が出なかった。

「まさか、このまま、死んだんじゃないすよね」

数弥の目は、うつろであった。



最後の結末まで完成しましたので、ここからハイペースで投稿します

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