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Confesess 対決 爆弾魔  作者: 蓮時
12/18

第11章 

十一


「いや、姐さん!」

ここで、数弥が声を上げた。少し否定的なトーンである。

「何だよ。やはり、おじけづいたのかい」

「いや、僕の話、すべて、聞いてないでしょ。さっきも、話そうとしたとき、電話が入って中断になりましたけど」

「ああ、そうだったね。それで、どうかしたのかい?」

「どうかも何も、坂梨、一時的に釈放される可能性が出てきたんすよ」

「釈放だって!」

「ええ、実は、こんな、やりとりがあったみたいなんすよ」

 数弥はそう前置きを言うと、状況について説明をし始めた。

「まず捕まった坂梨は、本庁の取調室で警察に条件を出してきました。爆弾の設置場所を教えるから、自分を釈放しろ、っていう要求です」

「それぐらいのことは言うだろ。ほかにも何カ所か仕掛けてある、とかね。そんなの爆弾犯人の常套句だろ。そんなのにのって釈放したらおしまいだよ。爆弾は爆発して、日本が大混乱のうちに、また、どこかに隠れるのが関の山だよ」

「ええ、警察の方だって、そういう可能性がありますから、その要求を棄却しました。そして、何とか白状をさせようと、厳しい尋問を続けました。そうこうしているうちに、僕たちがした爆弾発見の通報があったんす。それでもう、坂梨の釈放をしなくてもいい、と判断した警察は、処理班を連れて爆弾解除に向かいました。ですが、二時間たっても解除ができていないということす」

「あーあ、結局は、そういうことだったね」

 そう答えた競羅の顔は苦虫をつぶしたようであった。

「ええ、どの配線を切っても、爆弾は止まらないようになっていました。その結果、警察としても、坂梨から解除方法を聞き出すしか手がなくなりました」

「それが、できなかったのだろ。だから、こんな状況になっているのだよ」

「ですが、ある程度のことはつかみました。坂梨は取調中、薄ら笑いを浮かべて、こんなことを言っていたようす。『自分が死んだら解除なんかできないし、老体だから、これ以上、弱ったら、これまた解除ができなくなると』と」

「弱ったらって、また、ふざけた態度を取っているね」

「ええ、ですが、そんなこんなの尋問で、警察としては、起動を止めるのが、パスワードだという情報を手に入れました。それも、坂梨との声紋が一致した場合の」

「声紋一致か、とことん面倒な、しろものだね」

「ええ、ただ、そういうものでも録音をすれば有効すから。そういうことで、突然、警察の上層部から、釈放の取引の話がもちあがったんす」

「えっ、警察の方から」

「そうす、パスワードの入った声紋データを提示してくれるなら、釈放をすると」

「なるほど、そういう結論になるかね。いろいろな角度から考えてみても」

 競羅も思案後、そう納得したように答えた。だが、天美の方は怒った声で、

「そんなの最低、犯罪者に屈するなんて、それも警察からとは!」

「あんたも、ずれた言葉を言ってるね」

「どこがなの、今、逃がすわけにいかないでしょ。今回、無事にすんだとしても、将来ここで逃がした犯人が、もっと大きな事件、起こしたらどうする気なの!」

「原爆のような被害が起きる、これ以上の事件があるのかよ!」

 競羅が厳しい口調で言った。その言葉に天美も思い直したのか、沈黙した。

「あんたね、『犯罪者に屈するわけにはいかない!』とか、そのような言葉を、日頃からよく使うけどね。それはね、あくまでも普通の事件、今回はね、規模が違うよ。日本が壊滅するかどうかの瀬戸際なのだよ。まあ、言いたくはないけど、それだけの状況を作り出した相手を褒めるべきだよ」

「そう言われると、そうなのだけど」

「しかし、まあ、まったく、面白い話ではないね」

 競羅は顔をしかめていたが、数弥の方は弾んだ声で、

「でも、これで、坂梨も自由の身ということすね。天ちゃん」

「そうね、そこを、ちから使って、パスワード白状させる!」

 天美が呼応した。そのあと彼女は笑みを浮かべながら、

「やっぱり、犯罪者って、こんな結末むかえるんだ。わざわざ自分から、わったしの、ちから、使いやすい環境に持ってくなんて」

「ええ、でも、気をつけてくださいよ。すぐにでも、再確保ができるように、、大勢の捜査官が尾行していることは確実すから」

「いや、そんなこと、相手が白状すれば、そっちに気を取られて、それどころじゃなくなるよ。今までも、いく度か同様なことがあっただろ。けどね、こっちは、その作戦は支持しないね。今回に限っては、しなくてもいい行動だからね」

「しなくてもいいって、どういうこと!」

 競羅の言葉に天美がかみついた。

「データを渡すから釈放されるのだろ。それに、いいかい、今回は声紋も一致しなければならないのだよ。あんたの能力を使っても、声紋までは手に入れられないのだよ」

「うまく、録音すればいいでしょ」

「また、無茶言って、その状況で、パスワードだけうまく録音できるわけないだろ。まあ、あんたの気持ちはわかるよ。さんざ、一連の事件に巻き込まれたのに、あんたの手で解決できないのだから。けどね、状況が状況なのだよ。警察の上層部っていうけど、どうせ、こんなこと言い出すのは政府筋だろ。らしいというか安全策を取ったのだよ」

「それで信じるなんて、まったく、馬鹿みたい」

「とにかく、これで、事件は解決に向かうの! あんただって、奴に近づくためには、乗客や駅員たちに、能力を使わなければならなくなるのだよ。それをしなくてもよくなるのだから、長い目で見たらいいことだろ。まあ、あんたも巻き込まれて、だいぶ、不満がたまってそうだから、それをパッと解消するため、ここでカラオケでも歌うかい」

「数弥さんはどう思うの?」

「僕としては、こうなると、姐さんに従わないといけません。事件解決を祝って騒ぎましょう。だいたい、ここまで、こぎつけたのも天ちゃんのおかげなんすよ」

「なんと言われても、このままじゃ終われない! だいたい、この事件、まだ全貌わかってないでしょ。どうしても、気になることあるし」

 天美は引き下がらなかった。

「気になることって何すか?」

「だから、あの、電話で、つながっている、って言ってた国、そこ教えてもらわないと。そこが、ウランの燃料使ってるのでしょ。だから、思わず大声になった」

「あんた、今頃そんなことを聞くのかい。そんなことをする国なんてわかっているよ」

「えっ、わかっていたんすか。姐さんも、すでに、誰かから聞いたんすね」

「そんなこと、聞かなくてもわかるだろ。こういうときに、困ってますねとか、親切顔で近づいてきて、煮え湯を飲ませる国といったら、あのお隣しかないだろ」

「お隣って、なるほど、そうすか。姐さんは、ずっと、中国だと思っていたんすね」

「そこしかないだろ。ロシアと一緒に、スパイとか、きなくさいことを考えているからね」

 競羅はそう答えた。これが、彼女の根本的な思想である。

「いや、中国は、すでに展示をしています。そんな、大きなものではないすけど」

「えっ、そうかよ。では半島の国か。あそこも、変なロケット持っているからね」

「違いますよ。報告が遅れましたがエジプトす」

「えっ、エジプト」

 競羅の目が丸くなった。まったく、あてがはずれた感じである。

「ええ、そうす。展示物はナイル川の天候を監視するための気象衛星ということすけど、マンションの友人の話だと、あそこは、遠心分離機を持っているということですし」

「そんな国が! ほかに、どこの国が参加をしているんだ」

「ロシアと、さっき話した中国、そして、ブラジルすかね」

「怪しい国ばかりじゃないかよ。特にブラジルって」

「これも、アマゾン川の天候を監視するものらしいす。燃料は普通のケロシン、航空機に使っているものす。ロケットというより簡単な衛星すね」

「でも、南米だからねえ」

 競羅はそう答えながら天美の方を見た。天美も複雑な顔である。もともと、競羅はブラジルという国に、わだかたまりがあるのだ。なぜなら、競羅の実兄、(お互いに知らないながらも天美の父親)は、このブラジルで殺されたことになっているからだ。

「姐さんの気持ちもわかりますが、エジプトの方がかなり怪しい状況すね。先輩の方も、警察の見込み通り、そこの会社が背後にいる可能性が高いと、力説をしてましたから」

「でも、その記者さん。まだ、エジプトのロケットの燃料、ウランということまで知らされてないのでしょ。それなのに決めつけるなんて、ほかに理由あるのでしょ」

 天美が質問をしてきた。

「理由すか、せきぐん、が何とかと言ってましたね」

「せきぐん。なにかの軍だね。いや、地名かな。聞いたことがありそうな」

「ええ、僕もそうす。どこかで聞いたことがあるような」

「気になるね。例の、あんたの知り合いの軍事オタクに聞いてくれないかい」

「わかりました」

数弥はそう言うと、携帯端末を取りだした。ここで、思いついたのか、

「いや、まずは、これで検索します」

と言って、携帯の検索アプリに、せきぐんと入力した。


「赤軍って書くのだね。おいおいおいおい」

思わず競羅が声を上げた。数弥もびっくり顔である。

「完全なテロ組織じゃないかよ」

「ええ、もう、半世紀以上ずっと前のことすけど」

「ひどい連中だねえ。わけのわからない独りよがりの理想のために、日本転覆とか本気で考えていたなんて、もう、なんていうか、これ以上の言葉もないよ」

「そ、そうすね」

「そして、年齢から見て、坂梨はその組織の残党ということか。あと、気になるのは、このレバノンのベイルートという言葉か。奴らは、ここに逃げ込んだと」

「そうす。レバノンは、イスラエルと敵対してましたから」

「イスラエルね。そうか、中東の争いだね」

競羅は思い出したように声を上げた。そのあと、

「ああ、ここに、あらましが書いてあるね。まったく、カビの生えた話だけど、当時は大変だったろうね。だいたい、ユダヤ人の国を作るために、前に住んでいた人たちを、無理矢理、追い出すなんて。争いの種をまくようなものだよ」

「ええ、そうすね」

数弥もうなずき、天美も難しい顔をして同調していた。そのあと、

「本当に、あのあたりは、今も、ごちゃごちゃしてますからね」

「ああ、もう、どうしようもないよ。時間が解決するしか。では、もう少し見てみるか。あんた、イスラエルとエジプトと検索してくれないかい」

「わかりました」

数弥はそう答えると、エジプト、イスラエルと検索した。その結果、

「やっぱり、こんなことがあったのか」

競羅は感嘆したように声を上げた。

「ええ、シナイ半島、そこが一時期、占領されていたようすね」

「となると、今回の事件、このことが、遠因ということか」

「和平をしましたし、それはないでしょう。これも、半世紀以上をもう過ぎてますよ」

「それは甘いね。エジプトは一時的にも、領土の一部を占領されたのだよ。今は和解をしたかもしれないけれど。間違いなく、そのころの恨みを忘れていない実力者もいると思うね。これは、どこの国でも言えることだけど、保守にこり固まった年寄りほど、厄介なものはないからね。そういう連中は過激だし、野望のためなら、悪魔とも平気で手を組むからね。やはり、今回の事件、奴一人で考え出した、ということではなかったのだよ」

「だから、警察の上層部もエジプトだったんすね。でも、ロケットの開発はもとより、主催者である邦和への様々な根回しを考えますと、途方もない金額になりますよ」

「けどね、出すことができたから、こんな、壮大な計画が始まったのだろ。アラブ諸国には、こっちではとても想像もつかない金持ちがいると聞いているからね。その金持ちが、坂梨の奴を中心に、有志の連中と一緒に企んだことだよ」

「これが、E計画の全貌ね」

 天美が鋭い声で、つぶやくように言った。

「ああ、こっちが思うに、坂梨の奴は日本を逃げ出したあと、レバノン側ではなくエジプト側に身を寄せた。むろん、かくまったのは、イスラエル憎しの連中だよ。そして、そいつらと意気投合し、すきあれば一泡吹かせようと、その機会を待っていた。しかしまあ、ナイル川だと、たいそうなごたくをぬかして、とんでもない兵器を持ち込みやがって!」

 競羅は憤慨していた。

「わったしも、本当に許せない! ここまで、ひどいこと考えたなんて!」

「それが、奴の執念だよ。おそらく、今回の事件を人生最後の集大成にするつもりなのだよ。あだ花を咲かせるというか。だから、半世紀をゆうに超えて日本に戻ってきたんだ。警察も、もっと早く気がつけば、こんな大事にならなかったのに、さすがに、そこまで期待するのは無理だろうね。まあ、これだけの背景があったからこそ、政府側から釈放の打診をすることになったのもわかるね。何にしても、もう事件は、こっちの手を離れた・・」

その競羅の発言の途中、プロペラ音が響いてきた。天美が声を上げた。

「これは、ヘリコプターの音」

かなり、近くに迫ってきたらしく、防音ルームにもかかわらず、その音は響いてきた。

「なるほど、こうやって来たのだね。さすがに、この混雑、パトカーで橋を渡りきるのは面倒この上ないからね。まあ、これで、事件は解決の方向に向かうね」

 その競羅の声を天美は、何か次の手が考えついたような顔をして聞いていた。



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