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二話 旅は続く

 

 ヒュウヒュウと風の音が聞こえていた。

 また風が動き出した。


 だが、もう遅い。


『……あっれぇぇぇ?』


 そんな不思議そうな声が頭の中に届いてくる。



 そう、例の葉っぱ――いや、枯れ葉だ。



『動かなくなったのである』


 いや、うん。そうだな。

 その枯れ葉の現状を見て、思わずうんと力強く頷いた。


 風が動いているのは遥か上空で、逆に地面に近い場所の方は、凪いでいるようだ。


 つまり、それは――


『……我、落ちた?』


 全くもってその通り。

 落ちた。そう、枯れ葉は風が止まった時に落ちた。

 しっかりその場面を見た。落ちていく葉っぱを見た。


 どうやら、彼(彼女?)が落ちたのは歩道。先程の山の麓辺りにある街中の方まで飛ばされたようだ。それだけでも驚嘆に値する。


『我の旅立ち、終わり??』


 そ、そうだなぁ。終わりだろうなぁ。枯れ葉が自分で動く筋力とかないからなぁ。


『短すぎないであるか?』


 そそそそうだなぁ。短いんだけど……逆にここまでこれたのが奇跡に近いんだよ!


『なるほど……』


 何がなるほど??



『ここで、何かを学べという神の試練であるな!!』



 与えてないよぉぉぉ!? 試練、与えてないよぉぉ!?

 しかも、ついさっき! ついさっき、まだ君がさっきの山にいた時、神の事を否定してたよね!? 悲しくなるほどしてたよね!? 所詮はおとぎ話とか言ってたよね!? 見事な意見の手の平返しだと思うんだけど!


『ふむ……では、まずは現状把握からであるな』


 出来ないよ! 出来ないんだよ!! 肝心の把握するための目がないんだよ!? どうやって把握するの!?


『むむ…………この音は……』


 ――――まさかの聴力持ち!? 耳、ないのに!?


『なーんも聞こえてこないであるな!』


 聞こえてないんかい! あと今気づいたよ! 聞こえるの概念をどうして知ってるの、君は!?


『よくよく見てみれば、これはアスファルトの感触である』


 それはどっちなの!? 見てるの、感じてるの、どっちなの!? 感覚あるってこと!? やっぱり見えてるってこと!? どっちにしても不可能なんだけどもね!?


 心の中のツッコミが追い付かない。

 疑問が次から次へと溢れでてくる。


 さらに、実はさっきからこの枯れ葉へ自分の声を届くようにしているはずなのに、全く聞こえている気配がない。人間に試したことはないけれど、神になった時に貰った特殊な力の一つ。


 基本、神は世界に干渉しない。何か一つに偏りをしてはいけない。この力も、本当にこの世界が立ち行かなくなった時の為に用意されたものの一つだ。だから、今まで人間であろうが、自然現象であろうが、力を行使することはなかった。する必要もなく、世界は回っていた。


 だけど、この枯れ葉は存在が意味不明すぎる。


 だからこそ、確かめなければならないと思ったのに――なんっで、声届かないの!? なんでなの!? なんなんだ、この意味不明な現象は!? 


 自分、神だよね? あれ、神様だよね? この世界のバランスを保つように、必死に日々見回っている神様だよね? 力、無くなってないよね?


『アスファルトって冷たいであるな。新発見である』


 呑気に新発見しちゃわないで!? こっち、あたふたしてるから! 全然こっちの声届かなくてあたふたしてるから! あとそれ、さっき少し降った雨のせいだと思うよ! いや、まずなんで冷たいって分かるの!?


『裸同然の我だから、冷たくて当然であるな……服がほしいところである』


 服、ないよ!? 葉っぱ専用の服って何!? どんなの!? あと、服の概念、人間にしかないから!!


『風邪を引いたらどうしたらいいであろうか? ここには母(もしくは父)なる樹木はいないのである』


 ああ、そうだよね……そこから栄養取ってたも――その心配、必要なくない!? ねえ、聞いて! その心配、君に必要ないと思うんだ!


『……ああ、そういうことであるか』


 いきなりしんみりした声をだしたから、さっきから溢れ出てくるツッコミの声が、自分の中で止まった。


『母(もしくは父)から離れて、独り立ちというのは……こんなに心細かったのであるな……』


 ……心細い、か。


 もしかしたら、寂しくなったのかもしれない。その気持ちは少し分かる。


 自分にもその思い出があるから。

 人だった時の記憶があるから。


 そうだ……初めて一人暮らしした頃、やっぱり家族のこと思い出した。


 その家族がいない部屋で一人になった時、少しだけ寂しくなったんだ。


 帰ってきても、「おかえり」と言ってくれる存在がいない寂しさがあったんだ――



『でもいないということは、好き放題できることと全く同義であるな!!』



 ――しんみりした同情の気持ちを返せっ!?


『好き放題できるということは、何が出来るであろうか? いーっぱい見たいものもやりたいこともあるのである!!』


 いや、だからねっ! 見えないの! 本来葉っぱに視覚存在しないの! やれないの! 何かを行動するために必要な手足が残念ながらないんだよぉ!!


『そうと決まれば……こんなところで立ち止まっている場合ではないであるな!』


 相も変わらずポジティブぅ!! 聞いて!? いや、聞こえて! この声聞こえて!! 仕事しろよ、数少ない神の力ぁぁ!!


『あれ……?』


 はっ……これは、気づいたんじゃないのか?


『我、葉っぱである』


 知ってる。自覚してるの、もう分かってる。


『つまり……』


 そうだ、つまり?




『動けないのではなかろうか?』



 そうだよ! 前から、そう言ってるよ! 伝わっていないけども、山にいた時も同じこと言ってたよ!


『…………』


 枯れ葉の言葉が途絶えた。


 さすがに、もうショックで潰え――



『葉っぱが動けないの、当然であったな!!』



 その事実を受け入れたの!? 今!?


『だがしかし! 我はただの葉っぱではないのである!』


 いや、ただの葉っぱだよ?


『そう、母(もしくは父)なる樹木に旅立つことを許された特別葉っぱ!』


 ポジティブ思考ってこっちも明るくなるからいいんだけど、違うよ? 普通のどこにでもいる葉っぱのは――――違うかも!


 葉っぱの言うとおりかもしれない。ここまで何故か葉っぱが知りえない人間の知識を蓄えているこの葉っぱは、確かに存在が特別だ。


 だが……君のいう旅というものは起こらない。さっきの突風が奇跡だったのだ。


『おおお……??』


 え……な、なんだって?


『おお、なんなのである、これは? 暗くなったり、明るくなったり、凄いのである!!』


 思わず、その葉っぱの現状を見て、口を手で覆った。


 こんな……こんなことが起こるとは……なぜあの葉っぱに関して、こうも予想外のことが起きるというのだ。


『お? お? おお! これは……我、動いているのである!!』


 そう、動いている。その葉っぱの言うとおり、動いている。



 人間の靴の裏に、その葉っぱがひっついた状態で。



『ふん♪ ふ~ん♪ なんで動いているのか分かっていないであるが、そんなのは些細なことである。次はどこに辿り着くのであろうか~』



 そ、そうだな。君には今の君の状態は分かる術はないよな。


 先程少し雨が降って濡れた地面。そこに落ちた葉っぱも濡れる。その葉っぱを通りかかった人間が踏んでしまった。


 だが、言わせてほしい。



 なんって、斬新な旅立ち方ぁぁぁああ!!!!



 お読み下さり、ありがとうございます。

 

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