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一話 旅立ち

 


 カサカサ カサカサ


 風に揺れ、音楽を奏でるように、木々が揺れている。


 カサカサ カサカサ


 木々が揺れ、リズムに乗るかのように、葉っぱたちも揺れている。



『ぬっほ~~! 今日も絶好のダンス日和であるな~!』



 そんな中、結構ノリノリの声が何故か聞こえてきた。


 ……ノリノリ??


『ふっふ~ん♪ ふっふ~ん♪ 我だって負けないのである~!』


 はて? なんだ、この声は?

 どこから聞こえてくるのだ?


 空から周りを見渡していても、人の気配すらない。

 あるのは自然豊かな森である。


『ふっふ~ん! 見たであるか、今の翻りを! 我だってそれぐらいできるのである!』


 おかしい。

 これはおかしい。

 誰に向かって言っている?


 いや、それよりも、



 なんで()()()に心がある!?



 その声を発しているであろう葉っぱに、視線を動かす。きっとあの葉っぱだ。近づくにつれまた声が聞こえてくる。


『いやっは~♪ 今日のダンスは最っ高であるなぁ♪』


 何故葉っぱがダンスという言葉と意味を知っているのか、本当に訳が分からない。


 この世界の神という特性のせいかは分からないが、何故かその葉っぱの心の声が頭の中に響いてくる。


 ――いやいや、いつもはこっちから聞こうとしないかぎり、人間の心の声も届いてこないんだけどね!? 


『ふい~。今日のダンスは激しかったであるな~』


 風がさっきより止んだのか、葉っぱも落ち着いたのだろう。


 だが、宣言しよう。


 それはダンスではない。

 決してない。

 ただ風に揺れていただけだ。


 季節は秋。山の地面にも落ち葉がたんまり溜まっているが、その葉っぱはまだ木の枝についているようだ。


 そもそも、葉っぱにこんな心があること自体、予想外の出来事すぎる。

 あれ、自分、葉っぱに魂宿したっけ? と自分の記憶を遡るが、そんな記憶は思い出せない。


 内心あたふたしつつ、その葉っぱの心の声に耳を傾ける――までもなく、勝手に頭にまた響いてきた。


『いやっは~。それにしても暇であるな~。暇暇であるな~』


 そりゃそうだ。暇だろう。ただ風に揺れているだけだ。

 ――待て。どうして暇という概念を知っている?


『なあ、そう思うであろう?』


 疑問で一杯のこっちの気持ちをよそに、その葉っぱは誰かに語り掛けていた。多分、隣にいた葉っぱだろう。


『反応なし!! 知ってる!!』


 自分でツッコんでいる。――いや、待て。葉っぱが喋らないことを、どうしてお前は分かってる?!


『それにしても暇であるな~。何かないであるかなぁ――――ぬあっ!?』


 あ、落ちた。


 ヒラリヒラリと、その葉っぱは木の枝から落ちていく。

 そして静かに、既にある落ち葉の山の上に降り立った。……いや、立ってない。乗った。いや、乗ってない。……落ちたがやはり正しいだろう。


『――落ちたのである!!』


 知ってる。見てた。


『つまり、我は落ち葉である!』


 いや、うん、そうだね。というか、自分が葉っぱである自覚あんのかい。


『……落ちてしまったのは、仕方ないであるな』


 納得するの早いな、おい!?

 というか、本当になんでそんな心があんの!? 神という絶対やりたくない職業を押し付けられた立場だけど、その神を驚かす存在の君はなんだ!?


 そんなこっちの心は露知らず、やっぱりその葉っぱは色々と心の中で呟いている。


『……仲間たちがどんどん落ちてくるのである』


 仲間という意識があるのが驚きなんだが。


『また一枚、また一枚落ちていくであるなぁ……』


 なんか、いきなりしんみりした声になったな。まさか、悲しいとか思っているのだろうか? つまり、感情が芽生えている? 葉っぱに!?


『思えば我々は、季節が来たら朽ちていく、儚い存在なのであるなぁ……』


 ちょっと待って……そんなこと言わないで!? なんか、こっちが悲しくなるから! 世界の循環の一部にしてしまってごめんなさいって言いたくなるから!! でも大事だから! 君らの存在、大事だから! 光合成大事だからぁ!!



『……あれ? 我、死んじゃうってこと?』



 今気づいたのぉぉぉ!?


『いやいやいや、ないないない。そんなわけないのである!』


 めっちゃ否定してるな、おい。認めたくないってことか。そりゃそうだね。自分の寿命が残りあと僅かだって知ったら、いくら葉っぱでも――と、少しばかり同情していても、葉っぱは尚も喋り続ける。


『そう、生きてる! 我は生きているのである! 生命力あふれる葉っぱ!』


 ……ポジティブだなぁぁぁ!!? ちょっと感動しちゃったよ! その前向き思考、尊敬できる!


『そんじょそこらの葉っぱと違うのである! 落ちてしまった落ち葉だけど、そう、我はちゃんと生きているのである! 我はそこらの枯れ葉とは違って――』


 え、ん? どうした? どうしてそこで言葉を止める?


 疑問に思っていたら、その葉っぱはボソッと呟いた。



『枯れ葉って…………落ち葉のことじゃない??』



 気づかなくていい事実に気づいてしまったようだ。


『落ち葉って…………枯れたから落ちたんじゃない??』


 き、気づかなくていいことに……気づいてしまったようだ……。


 それから、先ほどまでうるさいほど響いてきた葉っぱの声が聞こえなくなった。


 そうか……逝ったか……。


 カサカサ カサカサ


 聞こえてくるのは、風によって擦れ合う木々の音。


 ……静かだ。

 なんて静かなんだ。


 そうだ、これはさっきまでの自分の状態だったではないか。

 そう、これが自分の日常だ。

 こちらから聞こうとしないかぎり、誰の声も聞こえない。

 今の数分の事態が、本当におかしい状況だったのだ。


 ――――なのに、この侘しさはなんだろう。



『いや! ちょぉぉぉっと待った、我ぇぇ!!』



 ――まだ生きてるんかーい!? さっきの一瞬の寂しさ返せ!?

 というか、なんで生きてるの!?


『枯れているから死んでいるというのは、我の勝手な思い込みでは!?』


 すごいな! めっちゃポジティブだな!


『こうやって母(もしくは父)なる樹木から離れるというのは――我々葉っぱたちの旅立ちでは!?』


 ポジティブだなぁぁ!? 旅立ってないんだけどなぁぁ! 落ちただけ! 落ちただけだから!


 そんな届かない声を叫んでいると……不思議だ。その葉っぱに目などついていないというのに、何故か彼?(彼女?)が落ちてしまった木を見つめているように感じてきた。


『そうなのですね! 母(もしくは父)なる樹木……!』


 なんか感動しているようだ。


『我たちに旅をしてこいということなのですね!』


 すっかり前向き思考に侵されているようだ。


『かわいい子には旅をさせよと言いますものね!』


 だから、葉っぱのお前がどうして人間の諺を知っているというのだ。



『分かりましたっ! 母(もしくは父)! 旅をして、この目でしっかりと世界を見てまいります!!』



 ……目、ないんだけども??


 そんなツッコミたい言葉が絶対に伝わらない時に、またもや葉っぱが何も言わなくなった。


 なんだ? ついに……灯が消え――



『…………どうやって旅立てばよいのである??』



 ――今更か!? 今更なのか!?


『我は自分で動けないのである。当然である。葉っぱなのである。今気づいた我はバカであろうか?』


 本っ当に今更だな! こっちがびっくりだよ! あとバカの意味、分かってる!?


『むー……むむー……どうしたらよいのであろうか。こうなったら、神様にでも頼んでみるであるか?』


 な、な、なんだって……? 神を知っているというのか? 葉っぱが!?


『いやー、ないであるな。神なんて所詮おとぎ話である』


 君の存在がおとぎ話なんだけどなぁ!? いや、そんなおとぎ話ないんだけども! そして信じてくれてないの、ちょびっと悲しくなっちゃうなぁ!?


 そんな葉っぱの呟きに、何故か少しショックを受けていたら、ブワッといきなり突風が吹き荒れた。タイミングよくないか、自然現象??


『ぬっほ~! これはいいのである~!』


 頭に響いたのは、何故かテンションが高くなっている葉っぱの声。

 よくよく見ると、何枚かの葉っぱが、先程の突風で舞い上がったみたいだ。


『こ~れはいい景色である~! これで旅立てるであるな!』


 目がないのに、なんで見えてるの? そして変わらずのポジティブ思考すぎないか? 

 というツッコミを封じ、心の声を響かせてくる葉っぱに視線を運んだ。どうやら、風に乗ったようだ。


 ヒラリヒラリ、フワフワと、葉っぱは空を漂っている。


『……さあ、行こうではないか!』


 その声は引き締まっていた。



『我の旅が始まるのである!』



 期待に弾ませた声を響かせ、その葉っぱ――いや、枯れ葉は空を舞う。


 こんな現象は、本当に初めてだ。まさか葉っぱに心が宿るとは考えていなかった。ここまでツッコませる存在がいるとは。全くこっちの声は届いていないが。


 しばらく、様子を見てみることにしようか。


 お読み下さり、ありがとうございます。

 

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