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Preparedness  作者: 千草色
By Sakashita Hajime
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By Sakashita Hajime[4]



 ガタンッと大きく電車が揺れた。過去から現実に引き戻される。

 電車はいつの間にか降りる三つ前の駅を出ていた。大きく揺れたのは動き始めだったからか。

 納得し、また物思いに沈む。半年の訓練期間は厳しかった。



「本部から、今日は十六時までは基礎訓練をして十六時からは応用訓練をするように言われています。まずは一時間でここの四百メートルトラックを二十五周走ります」

 坂下と同時に入れられたのは、他に男女一人ずつだった。

 午前は説明とレクリエーションで潰れたので、その日の午後だった。

 だが、はっきり言って驚いた。一時間で十キロ走れということか。

「勿論、途中途中で休憩は入れるからね。三人は初めてだから、間に入ってもらおうかな。私が先頭走るから、蒔田君と江川君はついて来て。その後ろに坂下君と古谷(ふるたに)君、綾香(あやか)ちゃん。で、城島君と西崎さんはその後ろね」

 新入兵として、坂下の他には古谷大雅(たいが)沢口(さわぐち)絢香が送り込まれていた。

 先頭を走るのが望月だということで少し安堵したが、すぐに間違いだったと気づいた。

 五周終わって一分休憩と言われた時には、新参の三人は地面に倒れ込んだ。

「なんか、早く、ないっすか?」

 肩で息をしながら、古谷が訊く。全く息が切れる気配がない望月が笑った。

「これくらいじゃないと、終わらないからね。ちなみに、明日からは倍だから」

 鬼だ…と呟いくと、城島が諦めたように笑った。

「よく気づいたね。望月さんは訓練に関しては鬼だよ。人体のギリギリのライン攻めれるからだろうねぇ。それに、この中で一番体力と技術があるのも望月さんだから」

「医者って意外と走ってばかりだからね。さ、あと二十周。ファイトー」

 その後予定より十五分は過ぎたものの二十五周を走り切り、十六時まで、一階から三階まで階段の昇り降りを二十回ほど繰り返し、腕立て・腹筋・背筋を三百回ほどこなした。そして、古参組も流石に倒れ込みそうになっているというのに、望月は全てをこなした後も息を切らしている程度だった。

「人類なのか、あれ…」

「だから言ったじゃん、鬼だって…」

 流石にきついだろうと思ったのか、応用訓練は三十分ほど休憩を入れてからやることになった。

「でもまあ、この後は応用訓練だからねー。たぶん、もう大丈夫だよ」

 三十分もすると息は整い、少しだが体力も回復した。人体は凄いなと実感した。

 休憩が終わり、射撃訓練場へ行くと、渡されたのはスコープだった。

「スコープ?」

「うん、今日は三人は基礎だから。それは支給品だから、個々の持ち物になるからね」

 意味がわからず首を傾げていると、望月が「集合!」と声をかけた。

「じゃあ、三十分経ったから、次は応用訓練に移ります。まぁ、応用とか言ってるけど要は武器の扱い方の訓練ね」

 手の中のスコープに目を落とした。とすると、このスコープは狙撃用のものなのか。

「まず、銃の扱い方から学びます。最終的に七割は狙撃兵になってもらうし、他も狙ったところに撃つことはできないと困るから、まぁ一番大事と言っても良いかな」

 望月はポケットからスコープを取り出す。

「射撃において、一番大事なのは対象物までの距離がわかること。ついでに対象物の大きさまでわかれば当たる確率は一気に高まります。――誰か、この(まと)適当なところに置いてきてくれない?」

 自立するようスタンドが取り付けられている十数枚の木の板を指し示して言った。縦と横一本ずつ線が書いてあり、ちょうど上から五分の一、左右中央くらいのところで十字に線が交わっている。

「僕が行くよ」

 城島が手を挙げる。木の板を持って走って行く。

「そこの壁から向こうの壁まで、一・二キロです。ちなみに、あの木の板は百七十センチ。成人男性の身長くらいだね」

 三分ほどして、城島が戻ってきた。

「城島君、ありがとう。それで、今置いてきてもらった的、何メートル先にあると思う?じゃあ……古谷君」

 古谷が突然指名され、えっ!と驚く。無理もない。坂下も見当がつかない。

「スコープ使ってもいいよ。それと、基準決めとこうか。そこの壁をゼロとして、何メートルかな?」

 古谷はしばらくスコープを覗いたり壁と的を見比べたりしていたが、やがて自信なさげに答えた。

「五百メートル?くらいっすかね?」

「五百何十メートル?」

「えっと…四十メートル?」

「五百四十メートルね。次、綾香ちゃん」

「え、私っ…?」

 おろおろと周囲を見回しす。

「五百八十メートル、くらい…?」

「ありがとう。じゃあ、坂下君は?」

 そう訊かれるのはわかっていたので、すぐに答える。

「六百八十メートルくらいだと思います」

 望月は、ありがとうと言ってからスコープを構えた。スコープを通して的を見る。スコープから目を離してから言った。

「私の所見だと七百二十八メートルだね。さてと、じゃあ測ってみようか」

 タブレットを取り出し、計測アプリで計測する。七百二十八メートル、と表示された。坂下は目を見張った。この距離で端数まで当てるとは。

 古谷と沢口も同じように驚いている。

「ちなみに、これができるようになると、」

 横の壁の棚に置いてあった銃を手に取った。射撃用のイヤーマフを着けながら、他の七人にも着けるように指示する。

 全員がイヤーマフをつけたことを確認した後、望月は銃を構え、撃った。

 スコープで的を確認すると、書いてあった十字の交点、人だとちょうど頭くらいの位置に寸分たりともずれずに命中していた。

 鳥肌が立った。

「これくらいの的なら、手元が狂わない技術さえあれば簡単に射抜くことができるようになる」

 だからね、と続けた。

「さっきの距離当ては、全員にできるようにしてもらいます」

 無理だ、と思った。望月はそれを見抜いたように付け足す。

「距離を当てるのは基礎技術だから、これを無理だと思ってるうちは銃なんか当たらないよ。──三人には今日中に当てられるようになってもらって、明日からはその技術があるものとして訓練を進めます。私は今日は三人の訓練に付くように言われてるから、他四人はここて各自射撃訓練を行ってください。後でどれくらいの命中率だったか訊くから控えておいてね。じゃあ、坂下君、古谷君、綾香ちゃん、外に行くよ」

 後は一時間、ひたすら距離を当てることを繰り返したが、訓練終了まで三人のうち誰一人として正確に当てられなかった。

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