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Preparedness  作者: 千草色
番外編 By Jayce Martin
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Epilogue

 先生が好きだった「黄水仙」と事前に買っておいた仏花、線香とライターを片手に、水場へ向かう。置いてあった手桶に水を汲み、柄杓を持って規則正しく並んだ墓石の間を歩く。

 霊園の片隅にひっそりと佇んでいる先生の墓の前まで行くと、先客が居た。

「お久しぶりです、城島さん」

「村山先生!久しぶりだね」

 手を合わせ終わったのを見計らって声を掛けると、城島は弾かれたように振り返り笑みを浮かべた。

「雑草、抜いてくれたんですね」

 花は枯れたままだが、周囲は半年ぶりとは思えないほど綺麗だ。雑草は一つもなく、墓石は少しも汚れていない。

 ありがとうございます、と頭を下げると城島は首を横に振った。

「僕じゃないよ。僕は手を合わせただけ」

「え?じゃあ誰が…」

「他じゃないかな。坂下さんも来てるだろうし鹿野も多分。他のみんなももう出所してるからね」

「ああ、なるほど」

 何はともあれ、ここ最近一日二、三時間しか睡眠を取れていない身としては重労働をしなくて良いのはかなり有難い。

 枯れた花を取り、花立をざっと洗う。柄杓で水を注ぎ、新しい花を生ける。

 その間に城島が火をつけておいてくれた線香を受け取り、香炉に立てて手を合わせる。

 しばらく目を瞑り、立ち上がって黄水仙の栓を開ける。

「あ、望月さんが好きだったっていうやつ?」

「ああ。どうかな、一緒に」

 紙コップを二つ取り出す。

「いいの?ありがとー!」

 城島は嬉しそうに紙コップを受け取った。二つの紙コップになみなみと酒を注ぐ。

 と、ふいに肩を叩かれた。

「久しぶりだな。ムラヤマ、キジマ」

「ジェイス!」

 城島が驚いたように声を上げる。振り返ると何年か前に会った以来の、先生の古馴染みの米軍兵が立っていた。

「お久しぶりです。…墓参りに来てくれてたんですか」

「ああ、いや。仕事の都合がついた時だけな。今年は休みが取れたから」

「そうだったんですね。…あ、そうだ。ジェイスさんも一杯、どうですか」

 黄水仙の瓶を掲げて問う。

「なんだ、日本酒か?」

「はい。先生が生前、好きでよく飲んでたものです」

「そうか。貰おう」

 もう一つコップを取り出し、酒を注いでジェイスに渡す。

 余った酒は墓石の上から流しかけた。

「じゃあ、乾杯」

「乾杯!」

 紙コップに口をつけ、飲み下す。大して量も入っていないので、すぐ飲み終わった。すっきりとした味なので口に残らない。

 ジェイスが手を合わせるのを待って三人で霊園を後にする。

「あ、そうだ。一週間後の日曜日の夜、全員で集まるんだけど、村山先生とジェイスも空いてたらどうかな」

 城島が思い出したように言った。一週間後の日曜日。夜は何も入ってなかったはず。

「多分行けると思います。けど、良いんですか?」

「会いたいねって話してたし、みんな喜ぶと思うよ」

「なら伺います」

「俺も一ヶ月はこっちの基地にいるから行けるな。久しぶりに話したい」

「じゃあ決まり。…じゃあ僕、こっちだから。また日曜日に!」

 右手の道を指し、手を振る城島に軽く会釈をする。

「はい。誘ってくれてありがとうございます」

「ああ、俺もこっちだから。ありがとう。じゃあな」

「はい。それでは」

 ジェイスが左に曲がったのを見送り、桶を返しつつ駐車場へ向かった。

(なんだか不思議な感じだな)

 大事な人が亡くなったのをきっかけに、交わるはずのなかった人と関わりが増える。

 あのとき引き抜きに頷いていなかったら。先生が誤魔化したのに食い下がっていたら。

 人生とは何が起こるか分からないものなのだな、と壮大なことを考えながら、先生から受け継いだ病院への帰路についた。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

拙い文章ではありましたが、最後まで書くことができたのは読者の皆さんのおかげです。特に、毎週、更新日に読んでくれていた方や、短くはないだろう文章を一日で何話も読んでくださった方の存在があったからこそ、今週も頑張ろうと思えていました。

本当に、ありがとうございました!


〇〇の話が読みたい!など、本作品についての要望・誤字脱字等、ありましたらコメントで教えて頂けると嬉しいです。


次作は2025年1月以降に投稿開始予定です。開始日の詳細等は決まり次第、活動報告にて予告する予定です。よろしくお願いします。

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