By Kijima Seira[4]
「早速だけど今日の夜、敵陣に奇襲を仕掛ける。君たちにとっては初陣だね。落ち着いて、冷静に、生き残ることを第一に心掛けるように」
望月は、午後三時まで自由と言い、城島と鹿野、梛を呼んで奇襲の指示を出した。今回は最初なので、望月が一方的に指示を出すだけだったが…。
「無理」
鹿野が途中で口を挟んだ。望月が敵味方共に死亡者ゼロが努力目標だと言ったことに対してである。
「敵のことまで考えてたら反応が遅れる」
「手足は撃って良い。膝を狙って撃って確保すれば殺さずに済む。奇襲なんだからそれくらいはできる」
「極限状態で膝を狙い撃てるのは隊長くらいだ」
「敵の七割は引き受ける。他の全員で三割と思えば不可能じゃない」
「軍医が撃たれたら元も子もない。坂下はまだ現場経験はない」
「撃たれるようなヘマはしない」
望月も鹿野も引かない。
「僕も鹿野に賛成」
歳が近い気軽さから鹿野とは少し仲が良かった。
「だとしても一度それでやってみてくれない?」
何故そこまで執着するのか。
「理由を教えて」
望月がここまで引かないのは不自然だった。
「殺すと恨みを買う」
「?」
「戦争の中での兵士の原動力を知ってる?戦友、家族を殺されたからだよ。もしくは自分が殺される恐れがあるから。殺さなければ戦意を失う」
「……」
「ごめん、これだけは譲れないところだからまずはやってみて欲しい。私の腕にかけて味方の死者は出さないから」
そう言われれば頷くしかない。反対しようとしていた鹿野も最終的には呑んだ。
「ありがとう。じゃあ、それで」
打ち合わせが終わり、時計を見ると、二時。あと一時間もある。
自由時間だと言っても、先刻のように雑談をする隊員はいなかった。葬儀のような重苦しい気配が立ち込めている。
その雰囲気の中にいるのは息が詰まるのか、望月は部屋を出て行った。城島も特にすることがない。望月の後を追って部屋を出る。
訊くきっかけがなかったが、訊きたいことがあった。
望月は外へ出たところで、宿舎の外壁にもたれかかっていた。城島も隣に行き、同じようにもたれかかる。きっかけを掴めず望月の方を見ていると、目が合った。慌てて逸らし、決心して言う。
「あの少将さんとは、何で知り合ったの?」
米軍関係者だったのだろうか。それとも、名医として何か交流があったのか。
望月は過去の話をしたことがない。全員に対して、一線引いて接している。気になるが、そこまで踏み込んでしまっていいのか不安だったのだ。
「私、元米軍の軍人なのよ」
望月は意外とあっさりと答えた。
「もと軍人…?」
城島にとっては全くの予想外の答えだった。が、考えてみれば理に適うことかもしれない。望月が超人的に戦闘能力が高かったことにも納得がいく。
「そう。十八の頃に入ってそれから八年くらいね」
咄嗟に言葉が出てこない。普通に高校に通って医学部に行ける、恵まれた環境で育ったのだと思っていたのに。
「……え、でも日本国籍だよね?」
そう尋ねると望月は苦笑を浮かべた。
「うん。そうだよ?生まれも育ちも日本」
「それで何でアメリカに…」
「まぁ、そうなるよね。私はねぇ、逃げたのよ。家から」
「逃げた?」
「そう。私の実家はね、エリート一家だったの。母も父も東大卒の国家公務員で、兄も弟も優秀だった。私は家の中で、いわゆる出来損ないだったのよ」
望月のレベルで出来損ない。そんな家庭があるのか。恐ろしい。
「それに、両親とも文系だったし、兄も両親と同じ東大文科一類を志していたから。弟も、まだ大学を考える段階ではないとはいえ、私よりずっと優秀だった。その頃から医者になりたかった私はそういう意味でも異端だったの。医者になりたいとか言う前に勉強して東大行けって、両親とも口を開けばそればかり。私の希望なんか無視で」
望月は苦笑して続けた。
「途中で嫌になったの。で、アメリカに渡って。軍に入って。ジェイスは、そのときの同期」
同期だったのか。それならあの距離感も頷ける。
「そっか。それで仲良いんだね」
そうだよ、と言って浮かべた笑顔は何故か少し翳りがある。が、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「軍に入る前ちょっと勉強してたっていうのはあるけど、本格的に医学を学んだのは軍に入って三年目からだよ。その頃いた基地の軍医さんに教えて貰いつつ、現場経験積んで。まぁその前の予備知識があったし、二年で医師試験に受かったんだ」
望月は懐かしそうに目を細めてそう言い、さ、帰ろうと城島を促し、歩き出す。
その後、ジェイスがよく隊に顔を出すようになり、望月と話しがてら他の隊員とも話すようになった、というのは余談である。最初の印象こそ悪かったが、ジェイスの日本語はだいぶ流暢で話も面白く、隊に馴染むまでに長くはかからなかった。




