救済の為に
捕獲したスズメ怪人は戦闘中のような活発な活動を見せず、檻の中をフラフラと歩き回り、時折だが嘔吐を繰り返していた。
それは、まるで体調を酷く崩した人間のようだった。
青山はスズメ怪人の分析と検査を始めた。
まずは、スズメ怪人から血液を採取し、成分検査をした。
血液は間違いなく人間の物であり、数値的な異常は何も見当たらなかったが、血中ウィルスの余りの多さに違和感を感じていた。
だが、今は検査の先を急ぐべきと判断し、次の検査に移った。
生きた個体から細胞を採取し、ⅮNA検査し、以前に回収した羽のⅮNAと比較してみた。
そこからは驚くべき事が判明した。
同じ生物から採取したとはとても信じられないという程に全く違っていた。
細胞のⅮNAは人間が主体であるにも関わらず、羽はスズメのⅮNAが主体となっていた。
次に、スズメ怪人の嘔吐物から胃液を採取し、検査した。
その複数の検査から得られた結果を総合した結論は、血液検査の時から感じていた違和感を全て納得させるものだった。
青山は、その結論に青ざめ、恐怖と怒りに震えていた。
「このベースにされている人達は・・・・もうずいぶん前から死んでいる・・・」
「でも、この怪人にされてしまった人達は生きてるように動いている。」
「ということは・・・V・C・Mの最大の禁忌とした蘇生合成術を未完成のまま人に使ったのか!」
「そればかりか、ウィルス活性剤でドーピングまでして戦わせてたのか!」
「この人達は普通に暮らすただの人だっただろうに・・・」
「使い捨ての操り人形にでもしたつもりか!」
「黒崎博士・・・いや、黒崎耕三! お前は絶対にしてはならない事をやってしまった!」
「僕は、お前を絶対に許さない!」
サンプルとして捕獲してきたスズメ怪人は多量のウィルスを持つため、焼却しなくてはならない。
だが、青山は焼却されたスズメ怪人の骨を、まるで故人を偲ぶかのように大切そうに拾った。
そして、つばめを含む研究所のスタッフ全員を招集し、この検査結果と結論を周知徹底した。
研究所の皆は、青山の指示のもと、力を合わせ研究所敷地内に墓石を建て、スズメ怪人達を手厚く葬り、合掌して冥福を祈った。
それは焼却と言うより、怪人にされてしまった犠牲者に哀悼の意と敬意を表した火葬と呼ぶべきものだった。
全員が持ち場に戻ったあと、青山は墓石に語りかけた。
「貴方達には何の罪も無いのに、いきなり命を奪われ、改造され、操り人形にされてしまっていた。」
「さぞ悔しい事でしょう。」
「そんな貴方達をサンプルと呼んで檻に閉じ込めた僕達の非礼をどうか許してください。」
「申し訳ありませんでした。」
「貴方達のような犠牲者を二度と出さないように、僕達は全力で戦って黒崎耕三の暴走を必ず止めてみせます。」
彼の後ろには、つばめが自室にあった花の鉢植えを持って立っていた。
つばめは墓石に花の鉢植えを捧げ、合掌して涙を流した。
そして、青山に向き直って力強い口調で言った。
「博士、私達がどれだけ重い荷物を背負ってるのか、よく分かりました。」
「世界の未来だけじゃなくて、奪われた命まで背負っていくんですね。」
「だったら私、絶対に負けません。」
青山は大きく頷き、つばめを抱きしめ、頭を撫でた。
その日から、青山はつばめ専用の武器の開発に取り掛かった。
怪人が蘇生合成術で生み出されていると判明した以上、使われているウィルスも判っている。
つまり、それはワクチンの生成が難しくない事を意味している。
そのワクチンを怪人の体内に打ち込み、ウィルスとの結合を切り、蘇生合成術から解放し、元の個体に戻す為の武器。
青山はその形状に悩んでいたが、それはつばめの一言で決定した。
「博士! アーチェリーにしてください!」
「好きなゲームの推しキャラがアーチャーなんです!」
「だから私もアーチャーになりたいです!」
つばめの余りにあっけらかんとした様子に面食らったが、青山は快諾した。
すぐにアーチェリーの形状をシミュレーションしながら呟いた。
「確かにアーチェリーなら火力を使わずに済むから、ワクチンへの負荷も最小限に抑えられる。」
「これは理想的な武器なのかも知れないな。」
「それに何よりも・・・つばめのリクエストだし、聞かないワケにはいかないだろう。」
青山は微笑んでシミュレーションを続けていた。
夜が更け、彼が床に就こうとしていた時、山岳地帯にいる調査班から連絡が入った。