戦闘
つばめが変身してゴムボールを持つ訓練を始めて十数分が経った時、研究所の怪人監視班から連絡が入った。
現状、怪人の出現場所はそれほど広い範囲ではなかったため、青山は以前の出現場所に監視カメラを設置し、監視班に見張らせていた。
その監視班から連絡が入ったのだ。
報告によると、先日の報道と同じ茶色の怪人が市街地で5体確認されている。
青山は、つばめの訓練不足を懸念したが出動を告げた。
「つばめ! 怪人が現れた。」
「僕の先導で現地に向かう。」
つばめは親指を立て、了解の意志を示し、青山に続いて研究所を出た。
現地では既に5名の一般人が犠牲になっており、怪人は何故か犠牲者を抱えて運び去ろうとしていた。
それを見た青山はつばめに指示を出した。
「犠牲者を奪還する。」
「だが、つばめ! 君は犠牲者に触れないようにしてくれ。」
「まだ訓練のままならない君が触れたら骨折では済まない可能性が高いからね。」
「頼んだよ!」
つばめは、再び親指を立て、怪人の集団の前に立った。
怪人は見向きもせずにそのままジャンプしようとしたが、つばめの蹴りが1体の怪人の膝を捉えた。
怪人の膝は完全に変な方向に曲がり、その場に倒れ、抱えていた犠牲者を離していた。
折れた膝を痛そうに押さえる怪人は、キーキーと鳴き声を上げていた。
だが次の瞬間、残りの4体の怪人は抱えていた犠牲者を離し、一斉につばめに襲い掛かって来た。
戦闘どころか、喧嘩さえした事の無いつばめは、怪人の一斉攻撃でパニックに陥ってしまって手も足も出なくなっていた。
袋叩き状態が数十秒ほど続いたが、つばめは怪人の攻撃に痛みを感じていない事に気付いた。
「あれ? 痛くない! もしかしてコイツら弱い?」
「見掛け倒しじゃん!」
つばめは落ち着きを取り戻し、1体の胸にパンチを放った。
そのパンチは怪人の肋骨を砕き、行動不能にしてしまった。
残りの3体の怪人は犠牲者を放置し、倒された怪人を抱えた。
そして、翼を広げて逃げるように飛び去ってしまった。
彼女は青山に報告しようとしたが、どうやって連絡したらいいのか教わってない事に気付いて慌てていた。
そこにヘルメット内部から青山の声が聞こえた。
「そのヘルメットは通信機能が付いてるから、そのまま普通に話せば僕のレシーバーに聞こえるよ。」
「こっちは研究所の救護班が到着したから、すぐに向かうよ。」
つばめが戦闘終了を青山に告げると、救護班と共に走って来た。
救護班は犠牲者達を搬送車に乗せ、そのまま研究所へと戻っていった。
だが、救護班の働きも空しく、犠牲者達は息を引き取ってしまった。
青山はその報告を受けたが、つばめには帰還するとだけ告げ、青山は散らばっている巨大な鳥の羽をサンプルとして回収し、研究所に持ち帰った。
彼は研究所に到着すると同時につばめに告げた。
「つばめ、君は変身を解いて研究室に来てくれ。 変身行動後の血中データのサンプルを取らせてほしいんだ。」
つばめはすぐに変身を解き、青山の待つ研究室に入り、血液検査を受けた。
血中データの数値をみて青山は安心した表情で言った。
「うん! 異常は何も無い! 適合率99.8%は伊達じゃないね!」
「そしたら、あとは部屋に戻ってゆっくり休んでくれ。」
「明日はまたゴムボールの訓練だよ!」
つばめが明るく返事して自室に戻った後、彼は持ち帰った羽のDNA分析に取り掛かった。
その日の内に分析は終わったが、結果を見た青山の表情は曇っていた。