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 語るのは俺。だが俺の物語を書くのは文章作成AIだ。これは創作実況であり、同時に、人工知能に導かれた作者が無責任に登場人物の生死を弄び、読者の感情を揺り動かす一人前のゲス野郎になって、無事小説を書き上げるまでの物語である。

 俺が目を開けると、逆光にぼんやりと浮かぶ女の顔がふたつ見えた。

「……ここは、どこだ」

 俺が呆然と呟くと、年嵩の女の方がにこりと笑った。

「まあ、そうやろね」

「ありがちねんな。まあ、無理ないけど」

 若い方の女がくすくすと笑う。

「それは、つまり、ここはどちらなんですか?」

 俺が問いかけると、二人は同時に笑った。

「はは。貴方あんさん……ほんまに、人間みたいやね?」

「ここは大阪や」年嵩の女が俺を見下して、言った。「詳しくゆうたれば、枚方ってとこ」

「なんで?」

 俺の言葉を受けて、若い女の方は、あー、と思い出したように言葉を選ぶ。

「さあて、なんでやろ? そんなんうちだって知らへんわ」

 女は困ったように笑った。

「まあ、私はあんたが誰さんかなんちゅうことに興味が無いんや。どうせ、こっからうちが名乗ることになるんやろし」

「ふん」と鼻を鳴らしながら、年嵩の女の方が言う。「まったく、あんたたって。おぼこいんだか、なんなんだか」

 俺は女たちから目を離したまま、ぼんやりと路地裏を見回す。そう、そこはどこかの薄汚れた路地裏だった。

 道にはあちこちにゴミが捨てられており、いかにも、ここが俺があてもなく逃げ続けてきた最果ての場所であるかのような惨状だ。

 表通りから街灯の光が漏れてくるが、路地には捨てられた玩具のようにぽっかりと大きな闇がある。

 俺は、なんだか懐かしいような感じだった。なんだか、物凄く遠くの方で、車が通り過ぎる音を聞いた気がするが。

 しかし、そんなあるかないかの記憶など、俺の頭からすっかり吹き飛び、俺はなんとなくぼうっと路地裏を見やる。

 二人はヨイショと俺を抱えあげると、すぐ近くのアパートまで連れて行った。アパートは木造の二階建てだった。黄色い壁はみすぼらしく塗装がはげている。

「さ、入りや」

 見ると俺は裸だった。路地に寝ていたときから服を着ていなかったかどうか、思い出せない。

「何を、するんですか」

「何もせえへんよ。こんなボロ小屋で、何しようっちゅうの」

 女はそう言って、俺の体をゴミのように放り出す。俺は、なんとなく嫌な気分だった。俺がまともな人間なら、女はこういう扱いをしなんじゃないのか。ねえ、お二人さん。俺、まともですよね?

「いや、あの、……それにしても、二人とも、なんでまたこんな所に?」

 俺がまだ疑問符を浮かべていると、「そりゃあ……」

 俺は、二人の顔を交互に見る。

「ああゆうんは都会じゃあお目にかかれるもんやないんよ」

 女に抱かれたまま、アパートの一室に連れてこられてしまった俺は、ベッドの上に下ろされる。

 俺には普通のことなんだ、……そんなふうに考えながら、俺はゴミのように捨てられ、シーツで覆われ、寝転がる。

「ちょい、待ちぃな」

 年嵩の女が呼び止める。

「じゃあ、うちは帰らんと」と行こうとした少女を、引き戻す。

「あ、はい、はい」

 ジャケットがはだけて、むき出しになった肩をそびやかす。

「ねえ、あんた、本当に人間なん?」

 少女はなぜか俺に縋りつく。

 俺は、少女の顔を覗き込む。少女は、俺をただ静かに見ているだけである。

「俺は……俺は……、本当に、ただの人造人間なんです」

「ええよ、ええよ。何も言わんで。また、明日な」女は俺に言った。「とりあえず寝とき。マリヤ姉ちゃんが世話してくれるよってに。うちはもう眠うて」

 電気を消して、おやすみなさい。

 そう言って去っていった。(マリヤ姉ちゃんて?)俺は首を傾げた。

 年嵩の女は雪豹柄のハーフコート、ホステスのような薄紫のロングドレスを脱ぎ捨てると、大きくて重そうな胸を揺らして、シーツの下にもぐりこんだ。

「マリヤ姉ちゃん?」

「あんたまで姉ちゃん言うんかい」

 ゆったりと肩まである黒っぽい銀髪を、俺の顔にかけて言う。

「おやすみな」

 女の瞳の色は透き通るような青灰色だった。


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