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第四話 復帰登板

 仕事に目途がついた日野はその週末、佐野を野球観戦に誘った。


 シャラクドームで高木の復帰登板があるからだ。


「よう!」

「よう、何か元気がいいな。いいことでもあったのか?」

「仕事でちょっとな」

「いいなあ、まあそういう俺も最近はまずまずだけどな」

「何だ、佐野もいい感じ、じゃないか」

「まあ、そういうことだ。そろそろ移動するとするか」


 佐野達は待ち合わせに使った喫茶店を出てシャラクドームに向かった。




 今回も二人は内野指定席を買っていた。


 その指定席に着いた二人は高木の登場を待った。


 場内のアナウンスと共にエレファンツの選手が守備に着き始めた。高木もマウンドに着いた。


「出て来たな」

「復帰後第一戦だが……力は戻ってきているかな?」

「まだ百パーセントじゃないだろう……」


 二人が会話している内に、試合は始まった。


 高木の第一球は外角のストレートだった。しかし、骨折前の威力はまだ戻っていないようだ。


「ストライーク!」


 判定はストライク、相手バッターは見逃したようだが、その見逃し方にはどことなく余裕があった。


「よくないというか……」

「力が戻ってないな」


 高木の二球目。


 フォークを投じたが、落ち切らず絶好球になった。それを打たれた。


「あー!」


 見ていた佐野と日野は声をあげた。左中間を破る長打になり、バッターは二塁まで進んだ。




 一回表、高木は一点取られた。一点で済んだと言うべきかも知れない。


 その後は、状態が悪いながらも踏ん張り、三回表まで一点で粘った。


 しかし、四回表……


 ノーアウト二、三塁。


「ここを踏ん張れなかったら、今日はここまでだろうな」

「一点ならいいが、ここで大量失点となると降板だろう。踏ん張ればいいが……」


 佐野達、二人は心配そうに見ていた。


 球場内はホームゲームにも関わらず相手チーム、パイソンズの応援が鳴り響いていた。


 高木は既に肩で息をしていた。ここまでの球数もかなり多い。


(…………)


 呼吸を整えた高木は、セットポジションからバッターに対して一球目を投げた。


 インコースのストレートだが、やや真ん中に入った。それをバッターは打った。


「これは一点入るな」

「まあ、これはしょうがないな」


 打球はライトの深くまで飛び、犠牲フライになった。三塁ランナーが帰り、二塁ランナーもタッチアップで三塁まで進んだ。


「でも、次が……」

「張田だな」




 パイソンズの四番張田。球界一の四番と呼ばれており、三冠王も二度取っている選手で巧打力、長打力共に球界随一だ。


 張田を向かえて、エレファンツの選手と投手コーチがマウンドへ集まった。敬遠策も視野に入れるかどうか、確認するためだろう。


「歩かせるかな?」

「ワンナウツで次も五番だからな、どうだろうな」


 集まっていた選手達が散らばって行った。そしてキャッチャーも座った。


「勝負だな」

「高木が望んだのかもな」


 高木はワインドアップから初球を投じた。


 内角高目いっぱいのストレートで今日一番の球だった。それでも、骨折前と比べると球威がやや物足りない。張田はその球を悠然としたように見逃した。


 高木の二球目。


 二球目は外角のストレートだった。しかし、ややコースが甘かった。張田はそれを見逃さなかった。


 カキーン!


 快音と共に、打球はライトスタンドに吸い込まれて行った。


「ああー! ツーランか……」

「流石にここまでだろうな」


 張田にツーランホームランを打たれた高木は、ピッチャー交代のアナウンスと共にベンチへ下がって行った。


 肩を落としているようだった。




 試合は2‐7でエレファンツが負けた。


 試合後、高木に会うため佐野達二人は球場外で待っていた。


 しばらくして高木が現れた。


「……」


 現れたのは現れたが、高木は憮然として黙っていた。


「三回までは粘れてたんだけどな、まだ完調じゃないんだろう、また次があるさ」

「佐野の言うとおりだ、調子を戻して次に備えればいい」


 二人で黙っている高木を励ました。


「……ありがとう。でも、今日は最悪だった。ここまで通用しないとは……」


 高木は落胆していた。


「焦るな、焦るな。焦っても何もいいことはないぞ」


 佐野は高木に近寄って、体躯の大きい肩を軽く叩いた。


「……サンキュ。今日は悪いけどこれで帰る」


 高木は少しだけ笑って、手を振りながら球場を後にした。


「あいつ大丈夫かな」

「高木はもう立派なプロだからな。大丈夫さ」

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