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最終話です!

その時、聖獣の周りで調査をしていたらしいルネ達が、

「ルキウスー!だいたい記録終わったわよー。」

と声をかけてきた。


ルキウスはそれに片手を挙げて応えると、レオさんに尋ねた。


「レオさん、この聖獣は元々、北の神殿に封印されていたようです。問い合わせたら、先日、何者かに盗まれたことがわかりました。こちらでの調査の後、返却してほしいとのことです。以前、ラシェルが復活した聖獣に対して、時を戻すという術を使えばいいと言っていたので、聖獣復活を目論む噂を聞いていた俺は、調べてそれを習得してきました。他に手段がなければ、それで元の本に戻して神殿に返却したいと思っています。よろしいでしょうか?」


聞かれたレオさんは頷きながら、

「もう、指示した王はいなくなったわけだし、ルキウス君の言う方法が最善だと思う。よろしく頼むよ。ところで、時を戻す術は禁術のはずだが、君どこで練習してたの?」


ルキウスはそれを聞かれると思っていなかったのか、あー、といいながら、私を見た。

なぜ見てくるのかわからないので、私は首を傾げて彼を見返した。


困ったように顔を片手で覆い隠しつつ、戸惑いながらルキウスは言った。


「実は、俺は研究者というより、魔術開発者なんですよ。だから開発中の情報がもれないように実験室には秘密を守るための術が色々かかってまして。禁術やっててもばれないんですよね。そこで、ラシェルがお粥作って壊した鍋を直すという名目で、時を戻す魔術の練習をしていたんです。」


「じゃあ、あの鍋達は全部同じ?買い替えたんじゃなくて、時を戻されて新品になってたの?」

「まあ、そういうことだ。」


「君は魔術開発者だったのか。じゃあ、最近できた例の模写本術は君の作った術だな。妙にいらない細かい設定がされているなと思っていたが、最後に軽くなるところなんかラシェルが持ち運び易いようになっているんだろ。そのせいで複雑かつ消費魔力が多いのが難だがな。」


「その点は改良予定だ。」


クロードの指摘にむっとしたらしいルキウスが不機嫌そうに言い返す。




「ルキウスー。そろそろお願いー。」


再度のルネの呼びかけで、立ち上がったルキウスの袖を思わず掴んだ。


「私も記録を取りたい!」


にこやかだった彼の顔が固まった。


その笑顔のまま、声だけが低く吹雪でも出そうな冷たさで、所長の返事が返ってきた。


「ラシェル、お前はひどい怪我を負って、なおかつ疲労困憊の状態だ。そんな人を動かすわけにはいかない。皆が取った記録を後で見せてもらうように。これは所長命令だからな。」


しょげた私の頭に慰めるようにふわりと触れて付け加えた。


「今から俺があいつを元の本に戻す。大人しくベッドで静養するなら、神殿に返す前にその本を読むことを許可しよう。」


「大人しく静養するわ!」


それは私の一番したいことだったので、嬉しくなって顔が緩んだ。


目を細めてそれを見た彼は私の頭を撫でると、見てて、と言って聖獣の方へ近づいていった。




ルキウスが空中から白金の杖を取り出し、大きく振ると聖獣の周りに白銀の結界が張られた。


結界ぎりぎりまで近寄った彼が杖を床に突き立て、独特の節で詠唱を始めると、みるみるうちに中の聖獣に靄がかかり、結界内の空気が揺らいで、数時間前に見たあの青い表紙の本に戻っていた。


結界を解いた彼が杖で本を軽く叩き、微笑んだ。


「これで封印完了。誰が触っても、もう魔力を吸い取られて聖獣が復活したりしないぞ。」


見守っていた周囲から拍手が起きる。

彼はいとも簡単にこなしたが、相当な魔力と技術と経験がなければできない術のはずだ。




「クロードが触った時、既に封印は解けかけていたんだ。いやーラシェルの代わりに吸い取られてくれてありがとう。」


満面の笑みで彼からそう言われたクロードは、憮然とした表情でどういたしまして、と答えた。




副所長に封印した本を預けて、笑顔で戻ってきたルキウスは、座り込んだままの私をすくうように抱き上げて、

「後始末は頼んできたから、とりあえず、お前は医師に見てもらおう。治癒魔術だけで失った血や疲労まで完璧に治せる訳じゃないからな。」

と言いながら歩き出した。


さすがに彼も転移する魔力は残ってないらしい。

疲れてるのに、重い私を持ち上げているのは辛かろうと、

「自分で歩くよ?」

と言うと、怖い顔で睨まれた。

「一番重症なお姫様は、黙って俺に運ばれてろ。」


その剣幕に、私は大人しく従うことにした。


クロード達も一緒に行くようで、肩を借りたり、担架に乗せられて運ばれていく。




しばらく黙って歩いていたルキウスが、おもむろに

「ラシェル、俺のこと見直した?」

と聞いてきたので、何を今更、と言う気持ちで返す。


「見直すも何も、出会った時から命の恩人だし、首席だし、魔術も髪を結うのも料理も剣術も何でも直ぐ覚えるし、全く敵わないと思っているよ。」


「じゃあ、俺のこと頼れると思ってるか?」

「それは、もちろん思ってる。」

「実は、今回こんな状況になっても、呼んでもらえなかったことにひどく傷ついているんだが。お前に呼ばれないと俺は直ぐには助けにいけないんだぞ。」


そう言われると、なにか大変申し訳ない気分になってきた。

恐る恐るあの時の自分の気持ちを伝えてみた。

上手く伝わるといいのだけど。


「それは、聖獣が出てきて、思っていた以上に強くて本当に怖くて、貴方に助けに来て欲しいと思った。でも、同時に貴方が聖獣と対峙して何かあったらと、そちらの方がもっと怖かったの。」


ルキウスから、うん、と返事があって包み込まれるような眼差しを向けられる。


「さっき見ただろ?俺、ラシェルならいくらでも守れるから、安心して、いつでも頼って甘えてほしいんだけど。」


「いつでも?城で会議中でも実験中でもいいの?」


この空気が照れくさくなって茶化すと、

「もちろん。いつでも、何処にいても、何してる時でもいいぞ。ラシェルより大事なものなんて、俺にはないからな。」

とんでもなく甘く返されて、私は真っ赤になった。

周りの人ががどんな顔をしてこちらを見ているかと思うと、恥ずかしすぎて顔を彼の胸に伏せて隠した。


そんな私の様子に構うことなく、ルキウスは話を続ける。


「思うに、家族じゃないから、呼びにくかったのではないかと思うんだ。だから、俺を今すぐお前の家族にしてくれ。夫なら、気兼ねなく緊急時に呼べるだろ?お粥は追々作れるようになったらいいし。俺、それまで病気しないから。」


「それは、今すぐ結婚しろってこと?!そんな無茶な!呼び出し易さに家族だからとか関係ないと思うわ?!」


それは、何が何でも急すぎる、と思わず顔を上げて彼の顔を真正面からみた。目が本気過ぎて怖い。


私は視線を彷徨わせて助けてくれる人を探す。


すぐ近くでノートに何かを記録しているテレーズと目が合った。にやにやしているということは、我々の記録をつけてるな。


目で助けを求めると、仕方がないなという顔で寄ってきて、

「所長、さすがにそれは女性の夢を壊しますよ?今直ぐに結婚なんて乱暴すぎです。今は家族になる約束をするということで、婚約はいかがですか?結婚は式を挙げるまで待ちましょうよ。」

とんでもないことを言ってくれた。


私が結婚式なんて、したいわけないでしょ!


ルキウスだってしたいと思っていないはず。

と思ったのに、予想は外れて、ルキウスが頷いた。


嘘でしょ?


「確かにこのまま紙に記入して終わりじゃなくて、式を挙げるのもいいかもな。じゃ、とりあえずは家族になる予約ということで。これは断らないよな?」

「いえ、やっぱり、今すぐ紙に記入だけの結婚で。よく考えたらいつ結婚しようと何も変わらないし…。」

「却下。式を挙げれば区切りにもなるし、お前のドレス姿を一生に一度くらい見てみたい。体調が元に戻ったら、直ぐに婚約指輪を買いに行こうな!結婚式のドレスも選ばないとな!」


そんなの着たくない…。とんだことになったと恨めしげにテレーズを見やると、彼女は小さくガッツポーズを決めて頑張れ!と声に出さずに言ってきた。

これで、まだまだいい記録が取れるわとほくそ笑んだのも私は見た。




もう、今日一日、色々なことがありすぎて考えるのが億劫になってきた。


ルキウスがご機嫌なら、もうなんでもいいか、と疲れ切った身体を彼に預けて目を閉じた。


「こうやってまたルキウスと一緒にいられるのは、幸せだなあ。」


安心して気が緩んで、思ったことを素直に口に乗せたら、すぐに応えが返ってきた。


「俺は、その幸せを一生守るから。愛してるよ、ラシェル。」





今日、この国では聖獣が現れ、王が交代し、魔術師が婚約した。


最後までお読みいただきありがとうございました!


6/22 後半部分、誤字報告いただきました。丁寧に見ていただき、ありがとうございました。直すととこは直しました。直していないところはそのままでお願いいたします。

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