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時を戻して聖獣が現れる少し前の研究所。


■■


「ただ今戻りましたー。」

「おー、ジョンちょうどよかった、今から始まるから、第二会議室へ行ってくれ。」

「了解。ルキウス、さっき調査チームのとこに先に解読しろって運ばれてきた古文書があるんだが、なんか引っかかってるんだなあ。ほこりかぶっててよくわからなかったんだけど、独特の色と匂いがした気がして。あれ、どこで嗅いだんだっけ。」


一足先に古文書調査の定例会から戻ってきたジョンが、気になることを言い出したので、俺は身体を反転させて彼と向き合った。


ジョンは俺より十歳程年上の、頼れる兄貴のような、いたずら仲間のような関係の人だ。調査チームに後から入ったラシェルのことも、妹のようにかわいがっている。


「ラシェルは何か言っていたか?古代魔術文字については?」


気になることを聞くと、

「いや、運ばれてきてちらっと見ただけで直ぐ退室したからわからないな。そいや、聖獣って神殿の、あっ」

なにか思い出したようにジョンが、ぽんと手を打ったその時、どおんっという音とともに地響きがして、皆が床に伏せた。


同時に、俺の中で警報が鳴った。


ラシェルに掛けていた最高レベルの保護魔術が発動して、なおかつ、術が壊れかけている。

一体彼女に何があったのか。


すぐに転移して彼女の無事を確かめたいと思ったが、先に皆の無事と部屋の中を確認する。幸い、積んであった本が崩れたぐらいで済んだらしい。


「ラシェルの保護魔術が強く反応した。ちょっと行ってくる。」

目の前にいるジョンに伝えて、転移しようとすると、肩を強く掴まれて、引き止められる。


「ルキウス、待て。これは聖獣の封印が解かれたんじゃないか。例の持ち込まれた古文書は、北の神殿の持ち出し禁止の文書に使われてきた紙が使われていた。あそこには古代に兵器として作り出された聖獣が一体、封印されていたはずだ。噂が本当になったなら、いい機会だ、これを逃す手はない。」


ジョンの滅多にない真剣な表情に息を呑んだ。大体いつも世の中を斜めから見ているような、茶化してばかりのこの男が、ここまで真面目な顔をするとは、と妙なところに感心しつつ、俺はため息をついた。


「わかった。」


いつの間にか周りに集まって来ていた面々を見回して、言う。


「聞いたとおりだ、高確率で北の神殿に封印されていた聖獣が現れたらしい。」


皆の目が輝く。そりゃそうだよな。


ラシェルだって、ここにいたら見に行きたいって騒ぐだろう。彼女は今一番間近で見てるのだろうが。無事だろうか。

つい、思考を彼女にもっていかれそうになるのを引き戻して続ける。


「以前から王が古代の聖獣を復活させて兵器利用しようとしているという噂があったが、現実になったかもしれない。しかも、最悪の状況で、だ。今、聖獣と対峙しているのは、ラシェル一人だ。」


皆が息を呑んだ。ルネは小さく悲鳴を上げている。誰かが、クロードがいるのでは、と言う。

俺は、首を振って続ける。

「封印を解くには、Sクラスレベルが空になるくらい、大量の魔力が必要だ。ラシェルの魔力が現在、ほとんど残っていることから考えて、封印を解いたのはクロードだと考えられる。」


誰かが、ラシェルの魔力残量までわかるのかよ、何掛けてんだお前。と言ったが、無視する。今役に立っているじゃないか。備えあれば、だ。


「ラシェル達は聖獣復活に使われ、ついでに威力試しの犠牲にさせられると思う。研究所としては、そのような聖獣の兵器利用を許すわけにはいかないので、王に掛け合い、封印し直して神殿に戻したいと思う。」


「確かにそれが正しいと思うけれど、誰が封印し直すの?聖獣の封印なんてとっくに廃れた術じゃない?」


ルネが不安そうに聞いてきた。俺は頷いて、返す。


「それは、俺がやる。皆は出来たらそれを助けて欲しい。だが、せっかくなので封印の前に記録と調査をしたいと思わないか?手伝ってもらう代わりに聖獣の記録と調査ができるっていうのはどうだろう?もちろん傷はつけないように頼む。」


皆、諸手をあげて賛成してくれた。


「ありがとう。じゃあ、ジョン、早速、北の神殿に連絡とって、古文書がどうやってここに来たのかの確認と、聖獣を俺が封印し直す代わりに、研究所で記録と調査をさせてもらう許可をとってもらえるか?」


「オレの方がお前より神殿との付き合いがあるしな、いいぜ。」

と、ジョンが快諾した途端、皆が喜びの声をあげた。


これで、ラシェルも喜ぶだろう。


と、そこで思い出して付け加える。


「あ、そうそう、王が良い返事をよこさなかった場合、第一王女への譲位を実行するのでよろしく。」


「え?!」


皆の動きが止まった。




実は今の王は全く人望がなく、周辺諸国を領土にする野望を抱き、軍拡に血道を上げていて、平和主義で穏健派の第一王女と対立していたのだ。


聖獣という古代の兵器まで引っ張りだそうとしているという噂が出てき始めた頃から、こっそりと譲位、もしくはクーデターの準備は進んでいて、もう、きっかけを待つばかりになっていた。

子供の頃に自国が戦争を起こし、難民としてこの国に流れて来たジョンも、戦争は二度と経験したくないと王女の為に動いてきていた。




ラシェルはこういうことは興味がないから、巻き込まれないようにしておきたかったけれど、ど真ん中のきっかけづくりに利用されてしまった。


そうなるような気がしてたから、いろいろ予防線を張ったり、保護を強力なものにしたりしたのに、残念ながら力が及ばなかったようだ。


本心を言えば、彼女の危機にすぐ駆けつけたかった。

でも同時に、穏便に譲位をさせることで、彼女と、もしかしたらいつか生まれるかもしれない子供が戦争に巻き込まれず、穏やかに暮らせる国にしておきたかった。


第一王女とちょっとした知り合いだったために、協力を頼まれたのがきっかけではあったが。




我々は、神殿と王女へ連絡をとり、指示を待って皆で城へ行った。




結果からいうと、譲位はあっさり終わった。


聖獣が壁を壊したのを見た人々はその威力におののき、その後、それを抑えた魔術師ラシェルに更に恐れを抱いた。


そこへ、正装で来いという王女の要請で、儀式用の白いローブに着替えた魔術師の集団(主に研究員達)と騎士団のほとんどを連れた王女が王の罪状を読み上げ、譲位を迫った途端、王の味方は逃げ去り、一人では何もできない王はあっさり捕まって娘に王位を譲ったのだった。


大体、古代最も魔術が発達した時代の遺物とはいえ、今の魔術はそれを元に長い年月をかけて改良強化されてきているわけなので、聖獣がいるだけで、戦に勝てると思う方が間違っている。





その頃には、城の結界内でも協力者は自由に魔術が使えるようになっており、城内は逃げたり隠れたりしている前王派の捕縛や譲位の手続き等でばたばたしていた。


そんな中、譲位の成功を見届けた俺達は、神殿との約束をかざし、聖獣の件は研究所に一任するという新女王の許可を得た。


研究員達はローブの下に隠し持っていた思い思いの調査道具を手に持つと、急いで聖獣とラシェル達のところへ向かった。




いち早く転移した俺は、崩れた壁の向こうに凛と床に杖を突き立てて、聖獣を拘束する彼女を認めて、間に合ったと胸をなでおろした。


その次の瞬間、彼女の体勢が崩れ、聖獣が彼女目掛けて炎を全力で吹きつけた。


■■


ここまでお読みいただきありがとうございます。後2話です。

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