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「じゃあ、今日はここまでで、それぞれ来週までに割り当て分を解読してまとめてきてね。」

「お疲れ様でした。」


結局、あの後クロードが陛下に掛け合ってくれて、一週間で一階層解読はやらなくて良くなった。聖獣関係をメインに古い方からやっていけばいいことになった。


これは、元王子のコネではなく、城付き魔術師からの意見ということでいいよね?


相手の出自を知るというのも、良し悪しだな。元王子だと知らなければ、城付き魔術師さんは陛下に意見が言えてすごいな、で終わっていたのに、息子が父親と交渉してきたと思うと違うふうに見えてくる。


しかし、出自を話してもいいとなると、私もルキウスに子供の頃の話をしてもいいのか。

一緒に暮らしてお世話になり続けるなら、話したほうがいいかな・・・。


考え込んでいたら、ぽんと肩を叩かれた。


「お疲れ、ラシェル。荷物多いし、転移で城の外まで送って行くよ。」


私の手の中には模写本が積み重なっているが、この模写本術、なぜか模写本の重さが半分以下になるので、持ち運びやすいのだ。この術を開発した人は、そこまで考えてくれたのだろうか。魔力消費量が多いのが難点だが。


だから、かさばるとは言え、重量はそこまでじゃない。

私はクロードに礼を言って断ろうとしたのに、強引に持っていた模写本を取り上げられ、肩に手を回されたと思うと同時に、彼と転移していた。




転移先は緑だった。


「ここ、どこ?」


思わず最小単語のみを発した私は、肩に置かれているクロードの手を振り払って、周りを見渡した。


緑に見えたのは、芝生と薔薇で、ちょうど時期なのか、色とりどりの花が咲いている。

遠くに城の回廊が見えるから、ここは城内の誰でも行き来できる前庭だと思われた。


「なんでここ?研究所に近い門はもう少し向こうだよね?でも、図書館から歩くよりは近いから、助かったよ。ありがとう、クロード。」


頼んだわけではないが、ここまで連れてきてもらったからには、礼を言わねばなるまい。


なぜここなのかは謎なままだが、彼の都合でここまでだったのだろうと、一人で納得する。

では、割り当ての模写本を返してもらおうと手を伸ばすと、クロードがその手を取った。


不穏な気配を感じて、慌てて離れようとするが、きつく掴まれてそれができない。


片手を掴まれたまま、最大限距離をとって相対する。


「クロード、私の分の模写本を返して。もう終業だけど、研究所に寄って行かないと。ルキウスも待っているし、早く戻らなくちゃ。」

「僕といるのに、他の男の名前を言わないでほしいな。」

「何言ってるのかわからないんだけど。お願いクロード、本を渡して頂戴。」


そう懇願した私の目の前で、クロードが持っていた模写本全てを、どこかへ転移させた。

絶句した私の両手を握った彼は、美しい顔に爽やかな笑顔で言った。


「ラシェル、僕と結婚してください。」


「は?・・・・・・私の模写本、どこいったの?」


何を言っているのか、理解が追いつかなかった私は、気になっていたことを口に出してしまった。


クロードの顔が固まった。


「僕が一世一代の結婚の申込みをしたのに、返事がそれって、ひどいよ、ラシェル。」


ここは、はい、でしょ。と、とんでもない誘導をしてきた彼に、結婚の申込みってなんだ?!と焦った私は、なし崩しで『はい』と言わされないうちにはっきりと返事をした。


「お断りします。私は誰とも付き合わないし、結婚する気もないので。」


絶対にクロードとそういう関係になるものか、と意思を込めて睨む。


彼は、不満そうな顔になって私の手を握ったまま、ぐっと距離を詰める。握られた手が痛い。


「自分でいうのも何だけど、僕は城付き魔術師だし、女の子に好かれる容姿だと思うし、元王子だし、結婚相手として申し分ないと思うのだけど、どうしてだめなの?君、今、誰とも付き合ってないんでしょ?何の問題があるわけ?」


意外そうに言うクロードに、私は呆れてしまった。


「クロード、私と貴方は同じ学校だったとはいえ、今日が初対面みたいなものじゃない。そんなよく知りもしない相手に、いきなり結婚を申しこまれて受ける人がどこにいるのよ。」

「多分、あちこちにいると思うよ。」


しれっと返してきたクロードは、どこまで自分に自信があるのだろう。全く自信がない私には羨ましいほどだ。


「じゃあ、そのあちこちにいる受けてくれる人に申し込めばいいじゃない。私は嫌よ。」

「僕だって選り好みはするよ。君がいいんだ。」


そんなことを言われたって、私にも選り好みする自由はあるのではないだろうか。

もう、断ったし、このまま逃げたいが、その前に聞いておきたいことがある。


「なんで、会ったばかりの私なの?」

「うん、君が僕の理想の女性だったから。」


予想外の答えに私はどぎまぎしてしまった。そんなこと、今まで誰にも言われたことがない。


でも、待て、動揺するな私。自分のことすら全くできず、ほうっておけばひたすら自分の興味のあるものを追いかける私が、理想の女性なんて、おかしい。


「冗談でしょ?」

「冗談なものか。君は僕の理想そのものだよ。美しい黒髪で、Sランクの魔力があって、見た目もかわいらしい。」


褒められているんだろうけど、見た目ばかりで、それって、私じゃなくてもいいのでは。


それに、彼は知らないだろうから、これだけは言っておかねば。

「クロード、褒めてくれてありがとう。だけど、この髪も見た目も、私一人じゃできないから、私が貴方を選んだら、すぐにぼさぼさ頭の着たきり雀の女になるわよ。私が今の私なのは、全部ルキウスのおかげなんだから。」

そう、私のこの外見はルキウスの手によるものだ。彼なくして、この私は存在しない。


諦めて他の人にして、といったつもりだったのだが、言い方を間違えたらしい。


ルキウスの名前を出した途端、クロードの目が細められて声が低くなった。


「やっぱり、あの男がいいんだ?君に会った時から苛ついていたんだけど、その髪に掛かってるとんでもない数の魔術も彼だよね。特に男除けがうるさくて。」


そう言いながらぐいっと握ったままの手を引っ張って更に自分の方へ引き寄せると、私の頭の後ろでひらりと手を振った。

途端に纏めてあった髪が解け、長い黒髪が背中へ流れる。


私は慌てて髪を押さえようとするが、両手を握られたままではどうしようもなく、落ちたリボンも拾わせてもらえない。


さらにクロードが言った、私の髪に掛かっている魔術の話にも驚いていた。


「髪に、術?」


時々、他の人にそういうことを言われたことがあるが、皆はっきりとは言わないし、私は何も感じられなかったから気にしていなかったのだが、不快感を与えるレベルだったの?!


「かけられている人が気づかないようになってたから、君は知らなかったんだろうけど、保護だの位置情報だの、君に好意を抱く男が近寄れないような術だのが、わんさか掛かってたよ。欠点はこうやって解くと解除されるところだけどね。ああ、すっきりした。」


にこっと笑ったクロードが、私の髪を弄びながら耳元でささやく。


「僕はいつでも君を歓迎するよ。君が僕を選んでくれたら、あの男が君にしていたことを僕がしてあげるから安心しておいで。」


クロードがご飯を作ってくれて、私の髪を結ってくれるところを想像したが、受け入れられないと思った。

同時に他の人でも嫌だな、と思う自分に気付く。


私は首を振って、彼の紫色の瞳を見つめた。


「ごめんなさい。私が一緒にいたいのは貴方じゃなくて、ルキウスだって今、わかった。貴方には私なんかより、もっといい人がいると思う。」


どうやら、私は世話をしてもらうのも一緒に住むのも誰でもいいわけではなくて、ルキウスでないと嫌なようだ。たぶんそれは。




その時、私は視界の端に、城の回廊の方から走ってくるルキウスの姿を認めた。


「ルキウス、」


その名前を、声にだした途端、唇に何か柔らかい感触を感じた。


そして、上方にあったはずのクロードの顔が真ん前にある。


今、何があった?


呆然として自分の前にいるクロードに視線を移す。


唇を離した彼は、意地の悪い笑みを浮かべたまま、

「今は大人しく身を引くから、僕にファーストキスくらい頂戴。さあ、これで彼はどういう反応をするだろうね?」

言い捨てると、転移して消えた。




私は今起こったことと、それをルキウスに見られたことで頭が真っ白になった。


それから、怖い顔で近づいてくるルキウスを見て、涙がこぼれてきた。


昔、髪を短くされて、彼に絶交された時のことが頭の中に蘇っていた。


ここまお読みいただき本当にありがとうございます。

次くらいからぼちぼち激甘注意報がでます。

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