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レオさんの指揮で地下から持って来た書物類を仕分けする。


この中で解読速度が一番速いのは私なので、題名や中身をさっと読んで分けていく。


それを補修が得意なレオさんが、魔術でばらばらにならない程度に軽く直していく。


全部元どおりに直していては魔力が足りなくなるので、必要最低限だけにとどめているらしい。


ここで、はたと気づいてクロードの方を見る。彼は一体何が得意なんだろうか。



あちこちから、集められてできたこのチーム、図書館からレオさん、博物館からアンヌさん、研究所からジョンさんと私、城付き魔術師からクロード。


それぞれ得意分野があるのだけど、クロードのそれを聞いてなかった。


私の顔に書いてあったのか、クロードがにこっと笑って、

「僕は、何でもできるよ?城付き魔術師だしね。」

と言いながら、レオさんが補修したものから持ち運び用の模写本を作っていく。


本を丸々一冊、一瞬で模写し、製本までするというのは最近新しく作り出された魔術だけど、もう使いこなしているらしい。

割と魔力を消費するし、該当ページだけを写すのと違って技術も要する。

私はまだ上手くできなくて、やるときはルキウスに手伝ってもらっている術なので羨ましい。


クロードが鮮やかに術を使うのをちらちらと見ていたら、

「ラシェルの彼氏も優秀な魔術師なんだって聞いたけど?」

彼が話しかけてきた。しかし、皆、どうして私にルキウスの話ばっかり振ってくるのかな。


「私の彼氏って、ルキウスのこと?彼とはそういう関係ではないよ。」

「長いこと一緒に住んでいて、それはないでしょ。」

「それ、しょっちゅう聞かれる。ルームシェアだって言っているのに。」

「そう思っているのは君だけだからだよ。」


さすがに私の手が止まる。ついつい読みふけってしまうから、話しながらぱらぱら読むくらいが仕分けにはちょうどよかったのだが、この話題は嫌いだ。


「それはないので。皆、人のプライベートなんだからほっといてくれたらいいのに。聞きたがるのはなぜですかね、クロードさん。」


嫌味でさん付け敬語を復活させてやる。


面白そうにこちらを見ているクロードと睨み合ったところで、レオさんが手を叩く。


「はいはい、若人達。おじさんに入りづらい話は終業後にしてくださいね。そろそろ次の分を取りに地下書庫へ行くよ。」

「あ、僕が行ってきます。城内で転移できるのは城付き魔術師だけですからね。最初からそうすればよかった。気が付かず、すみません。」

そういうとすっと消えた。


「確かに、彼ならここでも転移し放題でしたね。いいなあ、便利で。いつもなら何往復もして取りに行っていたのに。」


私がぼやくと、レオさんが笑う。


「城付き魔術師の彼等にも行けない場所はあるはずだし、し放題ってこともないだろうけど。国中の魔術師が、城内に好き勝手に転移できたら、危険極まりないよ。」




魔術師特権といえど、転移できない場所は当然ある。建物内には予め許可された人しか転移できないし、特に王城関係は転移魔術以外にも厳しい。

城付き魔術師しか、城内では自由に魔術を使えないのだ。

許可がないと簡単な魔術ですら使わせてもらえない。


現在、私達に許可されているのは古文書を補修、保存、模写する術だけだ。


許可されていない魔術を使おうとすると、魔力が倍減って身体が重くなる上に、後で罰則をくらう。危険な術を使ったら即、捕まるとか。そういう結界が張ってあると聞いた。


だから、本を運ぶのや、机を動かしたりするのだってほとんど自力で行わねばならないので、城で仕事をするのは疲れる。


お年のせいとは言わないが、レオさんも疲れてきたのだろう、部屋の隅のテーブルに用意されているお茶とおやつをちらりと見て提案してきた。


「クロードさんが帰ってきたら、一度休憩を入れようか。それまでに残りをやってしまおう。」


二人で先程の作業を急ぎ気味に再開した。




クロードがなかなか戻って来ないので、ふと思い立って、彼について聞いてみることにした。


「レオさん、なんでうんと年上なのにクロードに敬語を使うのですか?城付き魔術師だからですか?」


レオさんは、ははっと笑って、私を見た。

「ラシェルはそういうことに興味を持たないと思ってたんだけど、珍しいね。」

「だって、レオさん、私達には最初から今のように話してくれたじゃないですか。」


両親がいなかった私にとってレオさんは、理想の父親とは、こんな感じかなと思わせてくれるような温かい雰囲気を持った男性で、つい甘えてしまう。


レオさんは、ああ、と言いながら頭を掻く。


「そういや、そうか。済まないね。ぼくは彼が小さい頃から知っているもので、つい。」


レオさんはクロードとご近所だったのかな。と思ったが、それで敬語はおかしすぎる。

返事のしようがなくて続きを待っていたら、有名な話ではあるけど、と前置きをしてレオさんが声を潜めた。


「彼は王の息子、魔術師になる前は王子だったのさ。魔術師に家名はないが、家族との縁なんてそう容易く切れるもんじゃないからね。手元に置いておきたい父親が、北の出城にいた彼を城付き魔術師として呼び戻したってわけ。彼は小さな頃から本が好きでこの図書館に来ていたから、よく知っているんだ。その時からの習慣でつい敬語で話してしまう。様付はなんとかやめられたのだが、敬語も嫌がられているから、やめないといけないね。」


私は、そう困ったように笑うレオさんの言ったことを、頭の中で整理する。


どうやら学校以外では魔術師の出自について話してもいいらしい。

そして、クロードは王子様だったらしい。


「え、私、クロード様って呼ばないといけなくない?!」

「一体、何を話しているの?僕に様付ってまた、なんで。」


私が叫ぶと同時に、クロードが大量のほこりをかぶった書物達と共に転移してきた。


またもや、ちょうど口を開けていた私は噎せた。


レオさんが、ごほごほ言っている私の背中をさすりながら、クロードに礼を言い、休憩にしようとお茶のテーブルを示した。




「もうね、地下書庫内に転移できないの忘れてて、入口まで自力で運んでたから、遅くなったんだよ。」


クロードがおやつのビスケットを食べながらぼやくと、レオさんが

「それなら、呼んでくださればよかったのに。」

と敬語を使って、いい加減それはやめてください、とクロードに止められていた。




じゃあ、次から書庫には皆で行こうということにまとまったところで、クロードが私を見た。


「で、なんで僕を様付で呼ばなきゃいけないわけ?」


どう言っていいかわからず、私がレオさんをみると、その視線を辿ったクロードが、思い当たったのか顔をしかめた。


「レオさん、彼女に話しましたね?」

「いやー、すぐにばれる話でしょ。普段、他人に関心を持たない彼女が、貴方に興味を持っていたから、つい口が軽くなりました。すみません。」

「ラシェルが、僕に興味を?」


クロードはレオさんの言葉に、嬉しそうな顔をした。


私は慌てて否定する。

クロードに興味があったわけではなく、貴方とレオさんの関係に興味が湧いただけです、はい。


クロードは残念そうにしていたけど、なんで。




それから、お茶を飲みつつ、今度は仕事の話になる。


レオさんがクロードに模写本術について質問している。私も興味があるので、真剣に聞く。コツとかあるのだろうか。


クロードの説明もルキウスくらいわかりやすい。ふんふんとうなずく私の横で、レオさんが悲しそうに言う。


「それだと、ぼくには一日三冊くらいが限度ですかね。」


三冊って少なすぎるのでは?

私はぽかんとして、レオさんの顔を見る。

が、すぐに理由に気がついて慌てて謝った。

彼は、笑って気にしないように言ったが、いや、と言い直した。


「そうだね、一緒に仕事をするなら、貴方達には少し気にしておいてもらったほうが良いかな。お察しの通り、ぼくの魔力は少ない。魔術師としては最低レベルだよ。」

「ですが、精度は最高レベルだと伺っています。」


クロードがすかさずフォローする。

が、レオさんは苦笑した。


「そりゃそうだよ。ぼくには失敗するだけの余力がないんだから。学生時代は試験のために必死で精度を上げたよ。ぎりぎりの魔力のくせに魔術学校に入ったのは、何が何でも魔術師になりたかったからだからね。」


そう言いながら、どう答えていいかわからず、黙ってしまっている私達に笑いかけた。


「いやいや、そう深刻になって欲しいわけじゃない。君達は、周囲にぼくのように魔力が少ない魔術師はいないだろうから、ぼくが魔術を一度にたくさん使えないことと、魔力切れを起こすこともあるってことを覚えておいてくれればいいから。」


神妙な顔になって頷く私達に、まあ、普段はそこまで気にしなくていいからと、レオさんは話を締めくくった。


魔術師同士で自分の魔力量について話すことはほとんどないので、レオさんの話は驚いた。


個人の魔力量はS〜Fの七段階に分けられていて、魔術師になれるのはDランク以上だが、最近はCランク以上しか魔術学校に入学しないと聞いたことがある。Dで入学したら、授業についていくのも大変だし、最後の資格試験に受かるのも並大抵なことではないという。


改めてレオさんは努力の人なんだなあと、尊敬の念を新たにしていたら、クロードに聞かれた。


「じゃあ、僕達もお互いの魔力量を知っておいたほうがいいのかな。僕はSだよ。研究所の人達はAランク以上が多いって聞いたけど、ラシェルはどれくらいなの?」

「私もS、だったと思うのですが。」


あやふやな記憶を探って答えると、クロードが目を丸くした。


「自分のランク、覚えてないの?」

「そんなの別に普段使わないのだからいいじゃないですか。」

「ラシェルは変わってるよねえ。自分のランクなんて忘れないと思うのだけど。ところで、僕はただの魔術師なので、敬語止めて?」


にっこり笑顔だけど強圧力で言われて、言葉に詰まる私。元、とはいえ、王子に向かって普通に話していいものか。

レオさんに助けを求めると、目を逸らされた。

仕方なく、クロードに従って敬語を止める。


「私が嘘をついているとでも?・・・いや、Aランクだったかな。」


どっちだったかなと、混乱してきた私をレオさんが、今度はフォローしてくれる。


「いやいや、ラシェルはSであっているよ。これに参加する時の履歴書に書いてあった。まあ、普段のずさんな魔力の使い方を見ているとそうとしか思えないけどね。君達、魔力の残量気にしながら使ったことないだろ。」


再び黙る私とクロード。

確かに、気にしたことない。


「年長者からの要らぬお節介と思ってくれていいが、たまには魔術を使うときに、自分の魔力残量を気にしながらながらやってみるのもいい経験だよ。さて、仕事を再開しようか。」


レオさんは穏やかに言うと、自分の使った食器を重ねて横の流しに運んだ。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

次話でようやっと色々動きます。

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