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いかれたベイビー  作者: 森山孝明
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4月の魚

一度 身体を許すと、女性はその相手の「女」になってしまうらしい。

結局、僕らは朝までに三度愛し合った。

僕は酔った振りをして、いつもと違う自分を楽しんだ。彼女の方は、どう思って居たのだろう?


外はもう明るくなり始めているだろうか?

彼女は、もう僕のガールフレンドのように振る舞っている。ベッドに腰掛けて缶チューハイを飲んでいる姿が可愛く見えた。


「朝ごはんが食べたいな」

彼女「私はもうちょっと寝たいな」


僕は空腹を感じていた。

「ビールを買ってくるから待ってて」


僕はそう言って服を着た。

スマートフォンで地図を調べると、ホテルのすぐ裏にコンビニがあった。部屋を出てコンビニへ急ぐ。小走りでコンビニに行くと、僕はカゴを手に取り、ビールを適当に5本ほど取った。それからサンドイッチを一つ。レジ待ちは無くて、僕はサッと会計を済ませると、コンビニの外でサンドイッチを囓った。


うまい。本当にお腹が空いていた。

本当はラーメンでも食べたいくらいだったが、これから部屋に戻って一戦交えなければならない、おそらく。

僕はビールを1本開けるとグビグビ飲んだ。ビールは冷えていたが、もっと冷えていて欲しかった。中途半端な朝に思えた。早朝より少し早い。スマホで時間を見た筈だがはっきり見ていなかった。というより覚えていない。少し眠かった。


ビールを飲み終えるとホテルの部屋へ急ぐ。

夜を越えた。もう格好つけなくても良い。僕は冒険家にでもなったような気持ちで足を早めた。


部屋に入ると彼女の姿が見えなかった。靴はある。掛け布団はめくれ上がっていた。バスルームに居るのだろう。僕は机に置いてあった腕時計を着けた。外した覚えはあるが、机の上に置いた記憶は無い。

呼吸を整えつつ時間を見る。5時7分。トイレの水の流れる音が聞こえた。


バスローブをつけた彼女が出てきた。

首元に水滴が付いていた。彼女が傍に来ると温かい湯気を感じた。どうやら僕がコンビニに行っている間に軽くシャワーを浴びたらしい。


ベッドに押し倒してやると、彼女は簡単に仰向けに倒れた。息をひそめているような顔をして澄ましていた。真顔のつもりだろうが、目が喜んでいた。

僕は彼女に馬乗りになると腕を伸ばしてビールを手に取った。彼女と目を合わせ、見つめたままビールを開ける。視線を逸らさないようにしながらビールをひとくち飲んだ。


「私も飲みたい」

と彼女が言ったので、上半身を起こしてやって缶ビールを渡してやった。彼女は両手で缶を支えて飲んだ。


「もっと飲めよ」と僕はそそのかす。彼女はビールを置いて、挑戦的な目で僕を見た。

僕は彼女の顔にぶつかるような勢いでキスをしてやった。


ホテルの部屋の中はカーテンがしてあって外より薄暗い。まだ夜みたいだった。

僕は白い生地を点検する。素敵な朝だ。彼女は今何時か知っているんだろうか?

まるで夜みたいだ。こんな夜なら何度でも訪れて欲しい。彼女は神秘的に温かかった。

朝の匂いがした気がした。


彼女は口を開いて静かに息をしている。彼女の心臓の音が聞こえてきそうだ。彼女は話さない。僕を見ている。

僕は、どうやったら彼女が声を出すのか確かめたかった。目を合わさなくとも理解したかった。言葉を使わないコミュニケーションでお互いを知りたかった。僕らは話さなかった。もう何も話すことなんて無かった。


壊れかけた、古い時代の機械は意思の無いエネルギーで動いていた。


僕は壊れかれた時計になることが出来た。

時計は死んだ。そして時計は暗い海に沈んだ。


人間の限りない欲望を感じた。美味いビールが飲めそうだった。飲んでみるまでは美味いかどうか分からない。


なんせ夜だった。薄暗くて何も分からなかった。

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