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いかれたベイビー  作者: 森山孝明
3/6

いかれたベイビー②

店内は、思った通り、そんなに混んでいなかった。他に客は、学生のグループが2組いるだけだった。


席に着くと、とても落ち着けた。僕は、熱いおしぼりで顔を拭いた。彼女は 興味ありげに、店内を見渡したりしていた。とりあえず生ビールを二つ頼んだ。テーブルを挟んで向かいに座る彼女を、僕はじっくりと見ることが出来た。彼女が僕の目を見つめていた。微笑んでいるように見えて、その様子が、とても可愛く思えた。


「こういうところ、よく来るんですか?」

先に口を開いたのは彼女だった。


「たまにね。家で飲むことが多いけど。僕は、バーみたいなところよりは、居酒屋の方がよく行くかな」


「へぇー、いいですね。私は友達と宅飲みが多いかな。一人では飲まないですね。お酒は好きなんですけど」


他愛のない話が続いた。好きなお酒は何か、とか、休みの日は何をして過ごしているか、なんていう話をした。僕が5杯ほど飲んで彼女が4杯飲み終わってから、音楽の話をした。


「最近、何を聞いてるの?」


「うーん、なんだろ? 最近は細野晴臣 聞いてます」


「ホソノハウスとか?」


「あ、今日来る時 聞きながら来ました笑」


彼女は、はっぴいえんどは知っていたが、エイプリルフールは知らなかった。ワイ・エム・オーはよく聞くと言っていたが、ティン・パン・アレーは名前しか知らないと言っていた。


「あとはイヌとか聞きます」


「イヌって、あの、町田町蔵の?」

不意にイヌという名前(バンド名)が出てきて、僕は嬉しかった。そのあとは、ナンバーガールの話を少しした。


音楽の話で、グラスが空くのが早まった。酒が進むに連れ、雰囲気が良くなっていった。


居酒屋を出たあとは、しばらく歩いた。彼女は 「私、けっこうフラフラ」 と言っていたが、まっすぐ歩けていた。歩いていると肩が触れ合ったりした。そのうち、手が触れたりもして、何回目かで自然と恋人繋ぎになった。僕は繋いだ手の、親指の腹で彼女の親指の爪の表面を撫でながら『やっぱりよく男と遊んでいるのかなー』と考えていた。


「私は、もう終電ないし、どうしますか?」

そういう風に女の子から言われたら、行くしかなかった。


「コンビニで、ビールを買ってホテルで飲もう」


「ふふ、私も飲みたい。ちょっと甘いお酒も飲みたくなってきたなー」


『なんだか馬鹿げているな』

と僕は思ってしまった。もう流れを変えることは出来そうになかったし、5才年下の女の子と寝るチャンスは、これを逃したら、しばらくは来そうになかったが、食事に行ったあと飲みに行ってホテルに行くという流れは、使い古しのレールみたいに思えた。


ホテルに向かう途中、コンビニに寄って幾らか酒を買った。


繁華街のホテル。入り口が分かりにくくなっている。雑居ビルの一つみたいだったが、よく見るとここにも確かにネオンの灯りが。


ロビーで鍵をもらうと僕らは部屋に向かった。

部屋は2階で、古びたエレベーターは少し暑かった。

エレベーター内で彼女と目が合った。


『そんな目で見ないでくれよ』なんて思ったが、

彼女の本当の気持ちは、分からなかった。

少し上目遣いで彼女は僕を見ていた。

僕は額にキスをしてやった。


エレベーターはゴウンと鈍い音を立てて2階に到着した。

僕の唇には彼女の額から得た温もりが残っていた。

『初めて会ったのに、ホテルに行くことになるなんてな...』

僕にだって迷いがあった。

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