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プール

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この作品は「星降る畑」とリンクしています。よろしければそちらも御一読下さい。

 市民プールのプールサイドに銀嶺ぎんれいは立っていた。彼女はここで水泳教室のインストラクターをしている。身長一七二センチ。水泳で鍛えた引き締まった身体に黒い水着が張り付いていた。その身体の上にそれと似つかわしくない可愛らしい顔が乗っている。黒目がちの猫のような大きな目に太く真っ直ぐな鼻筋。やや厚目の唇は少し青ざめていた。水泳帽の下の髪の毛は短くカットしてある。足元には沢山のビート板が積んであった。



 今日はここで子供達にビート板を使ったバタ足の練習を教える予定だ。銀嶺は準備体操をしながら子供達を待っていた。


「あの子達が早く上達するように、私も頑張らなくちゃね」

 

彼女は子供の頃犬を飼っていて、愛情深く接していたが、今は子供達の事を可愛がっていた。犬も子供も、種族は違うが無邪気さと純粋さという点においては同じ様なものではないか。プールで元気に泳ぐ子供達の姿を想像してにんまりしていると、インストラクター仲間の木村が話しかけた。


「子供達、今日は遅いですね」


 木村は一八十センチ近くある体格の良い男で、夏に海で焼いてきたのだろう、日焼けした褐色の肌が健康的な雰囲気を醸し出している。


「そうね。授業が長引きでもしたのかしら?」


「あいつらヤンチャだから、誰かが授業中に悪戯でもして、先生に絞られてるとか」


「ふふ。そうかも知れないわね」



「先生~!」


木村と話し込んでいると、バタバタと二十人程子供達が入って来た。皆小学校低学年である。


「噂をすれば来たわね。はい。今日は。皆並んで」


子供達はお互いを小突き合ったり、キャッキャとはしゃぎながら整列した。


「今日は、ビート板を使ったバタ足の練習をします。皆良いかな~?」


「はーい!」


銀嶺はビート板を一枚ずつ子供達に配って回った。


「先ずビート板の先の方をこういう風に持って――脚を交互に前後に動かしてバタ足します。分かったかな?」


銀嶺が子供達に説明していると、

  

「おいっ! 何だ! ここはプールですよ。水着に着替えてない人は入れませんよ!」


少し離れたところに立っていた木村が入り口の方に向かって叫んだ。若い男が入って来たのだ。ダボダボのデニムのズボンに黒いパーカーを着てフードを被っている。男は無言で子供達の方へと走り出した。目が血走っている。木村は走って止めようとしたが、男はすんでのところですり抜けた。懐からナイフを取り出す。銀嶺は咄嗟に子供達と男の間に立ちはだかった。


「止めなさい!」


「うっせぇ! このアマ!」


男は叫びながら銀嶺に飛びかかった。子供達が悲鳴を上げる。鈍い光を放つナイフの歯が銀嶺の腹に突き刺さった。うっ、と呻いて銀嶺は腹を庇おうと身体を折る。男は続けざまに腹と言わず、腿と言わずメッタ刺しにした。銀嶺はその場に崩れ落ちた。


「こいつ!」


走って来た木村が背後から男を羽交い締めにする。


「誰か! 警察と救急呼んでくれ!」


プールサイドに鮮血が広がっていった。


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