私は乾く
ウィーンの皇帝は決して群れない。
私は、褐藻ヒマンタリア・エロンガータの繁る
広大な暗黒の海の岸で、
月に向かってと飛ぶこの蛾を見る。
自宅の庭では今日も神経症のニワトリが
「かくあるべし」と鳴いている。
何を「かくあるべし」なのかはわからないが、
騒然とした世界の定理について語っているのだろう。
その岸ではまた、私は巨大なウミガメの死体を見た。
それは腐り(おお、なんという腐敗!!(Qué putrefacción.))、
黒蠅やフナ虫達が、
命の残骸の上でその悪臭とロンドを踊っていた。
私は考える。
人生の帰路。漁師が帰るべき場所。
二度と会う事は出来ない少年時代の友人達。
命を蝕む病。
おお!!偉大な賢者すら持ち得ないものを、
哀れな乞食が持っている事もあるのだ!!
我が町!!アヴェイロよ!!
海藻の骸を埋め立て建った町よ!!
無数の干潟の命と死に支えられた故郷よ。
私は乾く。
無数の時間を生き、すり減り、乾いていくのだ。
魂を消費して、我々は生きる。
そして、いつかこの海に十字架を沈める。
フジツボよ!!
十字架を覆い尽くせ!!
我らの罪と、躯を、緑濃の海底の砂に沈めよ。
ウィーンの皇帝は決して群れない。
この蛾は月に救いを求めて飛ぶ。
なら、捕まえて、その蛾を海に捨てればいい。
綺麗事などではない。自分の足で立て。
自分の醜さも、美しさも、自分で埋葬するのだ!!
自宅の庭では今日も神経症のニワトリが
「かくあるべし」と鳴いている。
何を「かくあるべし」なのかはわからないが、
騒然とした世界の定理について、
いかに勇猛に語っているのであろうと、
少なくとも、私達の現実は、かくあるべしだ。