5話 オークとスキルと少女
声が聞こえた方へ辿り着いたときには、一人の少女がオークと十体以上のゴブリンに囲まれていた。
「こんな場所にたった一人!?」
杖と格好から魔道士なのは分かる。
魔道士ならオークやゴブリンなんて敵じゃないかも知れないが……
それにしても、こんな危険な森に一人で来るなんて!
「た……助けてくださいぃ!」
振り返った少女は泣きそうな顔をして、俺に助けを求めてきた。
「今すぐ助けてやるが……後で文句を言ってやるからな!」
「ひゃ、ひゃい!」
俺は錬金術スキルを発動させ、鉄球をゴブリンの頭に落とす。
ズシャ! ズシャ! ズシャ!
まずは三匹のゴブリンを仕留め、彼女の元へ駆け寄る。
「なあ、無事か?」
「ひゃ、ひゃい! わたしなら無事です!」
「そいつは何よりだ」
さっきまで泣きそうだったくせに、彼女は元気よく答えた。
ぱっと見た感じでは怪我をした様子はない。
俺と少女の周りには、まだまだ多くのゴブリンが取り囲んでいる。
その背後にはオークが三匹構えて、俺達を見据えたまま。
この状況を抜け出すには、彼女の協力が必要だな。
「――なあ、魔法は使えるかい?」
「……ええっと……魔法は使えなくはないです」
彼女はなんとも歯切れが悪い物言いをする。
魔力が切れているのか。
それならゴブリンごときに遅れをとるのも理解できるな。
「なら仕方がない。俺が活路を作るからそこから走って逃げろ!」
「へあ!? に、逃げろってあなたはどうするんですか?」
「俺か? 俺はこうするんだよっと!」
振り向きざまにスキルを発動をさせ、背後を取り囲んでいたゴブリン達を鉄球で潰した。
「――行けっ!」
「ひゃ、ひゃいい!」
彼女は潰れたゴブリンを飛び越えると、森の中へと走っていく。
その背中が見えなくなった俺は、ほっと胸を撫で下ろした。
しかし……
ゴブリンやオークは、彼女を追う素振りは見せないのはなぜだ?
彼女から俺に標的を変えたのか?
まあそんな事はどうでもいい。
残りはオークが三匹。
ゴブリンに限っては無数に湧いてくる。
奥で不適に微笑んでいる、一際巨躯なオーク。
あれがこの集団のリーダー格だろう。
「さあてと……」
俺は右手を突き出すと、ゴブリン達が一歩後ずりした。
上に視線を向けているから、鉄球攻撃を警戒しているんだろう。
だが、鉄球攻撃は辞めだ。
今度は違う方法を試してやる。
「――スキル発動」
その言葉に反応して、俺の右腕は肌色から白銀色に変わっていく。
今、俺の右腕はミスリル製になった。
五本の指をピンと伸ばせば、ミスリルの剣の出来上がりだ。
「さ、とっとと終わらせようや!」
素早くダッシュからの斬撃がゴブリン達を薙ぎ払う。
ゴブリン達は俺に斬られて絶叫し死んでいく。
それを黙って見ていた二匹のオークが動き出した。
「うごおお!」
「があああ!」
ヒュン! と風切り音が俺の耳に聞こえた。
斬り落とされたオークの首が二つ、ボトリと地面に落ちた。
「……うぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
「うぎゃああ!」
残ったゴブリン達が次々と退却していく。
その顔は明らかに恐怖に怯えているのが分かった。
あれだけたくさんいたゴブリンの影も形も無い。
この場にいるのは牙を剥き出し険しい表情を浮かべたオークと俺だけだ。
「オマエ、コロス、コロス」
「へぇ、オークって人語を話せるんだな……じゃ、さっきの彼女に告白でもするつもりだったのか? ま、邪魔されたら殺そうってなるよな」
「グガガガ!」
「そんな怒る事はないだろっと!」
手にして斧を構え、オークが俺に突進してくる。
俺はその攻撃を避けるとオークの背後に着いた。
ズボっ!
「グガっ……!?」
俺の右腕がオークの背中を貫く。
首を振り向いたオークは、カッと目を見開き俺を睨んでいる。
「じゃあな、オーク」
俺は腕を水平に移動させ、オークの上半身と下半身を二つに切り裂いた。
オークの絶叫を上げる間もなく絶命した。
「……ふぅ。終わったか」
俺は自分の右腕を元の状態に戻した。
周囲を見渡すが辺りには敵の姿はもう見当たらない。
あの魔道士の少女は、ちゃんと逃げたんだろうか?
無事に街まで戻ってればいいんがな。
「――あのぅ〜大丈夫でしたか?」
「な!? あんた逃げなかったのか!?」
逃げたはずの少女が顔を、茂みの中からそっと顔を出してきた。
「ええっとですね……あなたに言われるまま途中まで逃げたんですけど……これじゃダメだって思いまして、戻って来ちゃいました」
言って彼女は照れくさそうに微笑んだ。
「……あのなぁ。オークやゴブリンがいるのにわざわざ戻ってくるなんて、何を考えて――」
「そんなの分かっています! でもでも、助けてもらったからにはお礼をちゃんとしろって、お婆様に言われてますので……それに何かの役に立ちたかったんです」
彼女の表情から真剣さは伝わってくる。
わざわざ危険を犯してまで戻ってくるなんて、見上げた根性の持ち主だな。
「ま、礼はありがたく受け取っておくよ」
「いえ! お礼を言うのはわたしのほうです! 危なかったところを助けてくれてありがとうございます!」
礼儀正しく彼女は頭を下げた。
「えっと……そう言えばお名前を……?」
「ああ、俺はアクアってんだ。それであんたは?」
「あ、わたしはディスティニィって言います。アクアさん、よろしくお願いします!」
そう言うとディスティニィは、また頭を深々と下げた。
「それにしてもアクアさんってお強いんですね。ゴブリンはともかくとして、オークをあんなにあっさりと倒すなんて」
彼女は目を輝かせて、羨望の眼差しで俺を見ている。
「いや。俺なんて全然強くないさ。普通だ、普通」
「そんな謙遜しなくても良いです! まるで冒険者レベルSと何ら変わらない戦い方でしたよ!」
力説する彼女にちょっと驚きはしたが、それでも褒められると悪くない気分だ。
「で、ぜひ提案したい事があるんですが……」
「提案……? それって?
「はい。良かったらわたしとパーティを組んでくれませんか!?」
「え!? パーティを組む!?」
ディスティニィの言葉に、俺は思わず呆然としてしまった。
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